第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述30

がん1

Fri. Jun 5, 2015 4:10 PM - 5:10 PM 第8会場 (ガラス棟 G402)

座長:田仲勝一(香川大学医学部附属病院 リハビリテーション部)

[O-0230] 造血幹細胞移植患者に対する理学療法介入効果と年齢における移植前後成績の比較

中村和司1, 髙木寛人1, 松永佑哉1, 中山靖唯1, 渡壁恭子2, 高坂久美子3, 福島庸晃2, 倉橋信悟2, 山本英樹1,4, 洪淑貴1,4, 井上英則4, 小澤幸泰2, 宮村耕一2 (1.名古屋第一赤十字病院リハビリテーション科, 2.名古屋第一赤十字病院血液内科, 3.名古屋第一赤十字病院造血幹細胞移植センター, 4.名古屋第一赤十字病院整形外科)

Keywords:造血幹細胞移植, 理学療法介入効果, 年齢比較

【はじめに,目的】近年,造血幹細胞移植後の廃用予防を目的とした理学療法による介入効果の報告が増えている。当院では年齢に関わらず同じ方法で移植入院時から介入し施行している。移植後の感染予防対策として,無菌個室管理が前処置から生着までの約3~4週程度続き,その期間は閉鎖環境となる。それに加え移植前の全身放射線照射や大量化学療法の前処置に伴う副作用や感染症,移植片対宿主病などの移植後合併症により,身体活動量が減少することは廃用症候群を引き起こす一因となりうる。本研究の目的は,活動が制限される時期に着目し移植後30日での評価を行い,理学療法効果判定とともに年齢による移植前後の理学療法実施率,下肢筋力,運動耐容能の経過を参考に今後の理学療法介入時期や方法について検討することである。
【方法】2012年9月から2014年5月までに同種造血幹細胞移植を施行した患者のうち移植前後の評価可能であった47例を対象とした。対象者の内訳は,男性25例/女性22例,年齢は40.2±15.1歳,疾患は急性骨髄性白血病22例,急性リンパ性白血病10例,慢性骨髄性白血病1例,骨髄異形成症候群10例,非ホジキンリンパ腫4例で,移植ソースは血縁9例/非血縁38例,骨髄35例/末梢血6例/臍帯血4例/HLA半合致2例であった。評価項目は,移植後30日までの理学療法実施日に対して20分以上可能であった日を算出し理学療法実施率(%)・在院日数・股関節外転筋力・膝関節伸展筋力・6分間歩行とした。評価日は移植前と移植後30日とした。股関節外転筋力,膝関節伸展筋力は,徒手筋力測定器ミュータスF-1(アニマ社製)を用いて加藤らの方法にて測定した。筋力値は左右各2回測定し平均値を体重で除した値(kgf/kg)とした。6分間歩行はアメリカ胸部学会(ATS)のガイドラインに基づき距離を測定し身長(m)で除した値を歩行距離(m)とした。
統計処理は在院日数と理学療法実施率・股関節外転筋力・膝関節伸展筋力・6分間歩行をSpearmanの相関係数にて検討した。また対象者を50歳未満群(男性18例/女性16例),50歳以上群(男性7例/女性6例)に群分けした。2群の移植前と移植後30日の股関節外転筋力・膝関節伸展筋力・6分間歩行の比較には対応のあるt検定,また2群間の移植前と移植後30日の理学療法実施率・股関節外転筋力・膝関節伸展筋力・6分間歩行については対応のないt検定を用いた。いずれも有意水準を5% 未満とした。
【結果】在院日数と理学療法実施率は弱い負の相関があった(r=-0.34,P<0.05),また移植後30日での6分間歩行と弱い負の相関があった(r=-0.34,P<0.05)。
次に移植前後評価において50歳未満群では6分間歩行(移植前326.68±52.17vs移植後30日296.45±51.05m,P<0.05)でのみ有意な低下を認めた。
50歳以上群では膝関節伸展筋力(移植前0.49±0.20vs移植後30日0.41±0.18kgf/kg,P<0.05),6分間歩行(移植前327.80±38.47vs移植後30日292.50±35.37m,P<0.05)で有意な低下を認めた。
2群間において移植前後の理学療法実施率,股関節外転筋力・膝関節伸展筋力・6分間歩行に有意差は認められなかった。
【考察】本研究結果より高い相関係数ではないが,移植後30日までの理学療法実施率が高いほど在院日数が短い傾向となり理学療法介入効果の可能性がみられた。移植後30日の6分間歩行距離が長いほど在院日数が短い傾向であり,6分間歩行の重要性が示唆された。年齢別での移植後経過では非破壊的前処置を施行する可能性の高い50歳以上の移植患者ではあるが,移植後30日での膝伸展筋力に有意な低下が認められた。今後は下肢筋力低下予防を目的とした積極的荷重下での練習が移植後早期から必要であると考えられた。
年齢に関わらず移植後30日での6分間歩行は有意に低下し閉鎖環境下での運動耐容能を意識した有酸素運動を積極的に行っていく必要があると考えられた。在院日数に相関を認めた6分間歩行すなわち運動耐用能の低下抑制が今後可能となれば,在院日数の短縮につながる可能性がみられた。
同様に移植後30日までの理学療法実施率の向上・充実を目指していく必要があると考えられた。
しかし移植前での年齢においての有意差はなく介入開始時期の検討にはつながらなかった。
【理学療法学研究としての意義】今回,造血幹細胞移植患者における理学療法効果の一つである在院日数の短縮につながる影響因子の抽出ができた。今後,当院では個室での使用可能な電動サイクルの導入を検討中であり運動耐容能低下抑止,改善を前処置開始時期から生着前の移植後早期から負荷をかけ行っていく重要性が確認でき,理学療法学研究として意義があると思われる。