第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述30

がん1

Fri. Jun 5, 2015 4:10 PM - 5:10 PM 第8会場 (ガラス棟 G402)

座長:田仲勝一(香川大学医学部附属病院 リハビリテーション部)

[O-0231] 疼痛破局的思考尺度の違いが癌性疼痛に対する経皮的電気刺激治療の効果に与える影響

2症例のシングルケーススタディ

徳田光紀1,2, 庄本康治2 (1.社会医療法人平成記念病院リハビリテーション課, 2.畿央大学大学院健康科学研究科)

Keywords:癌性疼痛, 経皮的電気刺激治療(TENS), 疼痛破局的思考尺度(PCS)

【目的】
末期癌患者の70~90%は癌性疼痛を経験すると報告されている。癌性疼痛の治療は薬物療法が中心となるが,薬物の副作用によって日常生活動作レベルや生活の質の低下をきたすため,薬物は可能な限り少量であることが望ましい。一方で,経皮的電気刺激治療(Transcutaneous electrical nerve stimulation:TENS)は非侵襲的で副作用がほとんどない鎮痛手段として使用されており,癌性疼痛に対しても薬物治療の補助・代替療法となり得る可能性がある。癌性疼痛に対するTENSの効果は,システマティックレビューで鎮痛効果が期待できるが更なる研究が必要と位置づけられており,TENSの実施方法や適応を明確にしていく必要があると考えられる。
近年,痛みの心理的・認知的要因が着目され,多種の評価方法が使用されている。特に痛みをネガティブで過剰に捉える程度を評価する指標の疼痛破局的思考尺度(Pain Catastrophizing Scale:PCS)が高値であると疼痛強度は増強し,日常生活に支障が生じることが指摘されている。また,Rakel Bらは人工膝関節全置換術後症例に対するTENSの効果がPCS低値の方が有効であったことを報告している。PCSがTENSの効果に影響を与える可能性が示唆されているが,癌性疼痛を有する症例のPCSを評価し,TENSの効果を報告した先行研究は皆無である。
したがって,本研究の目的は,癌性疼痛を呈した2症例に対してPCSを評価したうえで,薬物療法に加えてTENSを実施し,鎮痛効果ならびに薬物使用量や副作用に与える影響を検討することとした。

【方法】
対象は肺癌で脊椎に骨転移を認め,癌性疼痛を呈した2症例である。2症例ともに鎮痛目的の薬物療法はオピオイドの常用薬に加えて,突出痛出現時には屯用薬を服用しており,副作用の嘔気と眠気も出現していた。
研究デザインはシングルケースのABABデザインとし,A期は薬物療法のみ,B期は薬物療法に加えてTENSを併用して実施した。各期間は2日間で,計8日間の実施期間とした。TENSには電気治療器(Trio300,伊藤超短波社製)および自着性電極(PALS,Axelgaard社製,5 cm×9 cm)を2枚用いた。パラメーターはパルス幅100μs,周波数200Hzの対称性二相性パルス波に設定した。刺激強度は感覚レベルで不快でない最大強度とし,治療時間は1回30分,疼痛時に任意での使用を指導した。電極は,疼痛の原因部位と考えられる骨転移した脊椎のスクレロトームと同一のデルマトーム上に貼付した。
評価は疼痛と副作用(嘔気,眠気)の程度を11段階(0~10)のNumerical Rating Scale(NRS)にて測定した(嘔吐があれば10とした)。各評価は盲検化された看護師によって記録されたデータ(昼,夕,翌朝の1日3回測定)を用いて各症例のA期とB期の平均値を算出した。また屯用薬使用量(薬物使用回数)とB期のTENS使用回数および内省報告も記録した。なお,2症例ともに本研究実施期間中,薬物の変更や追加・増量は認めなかった。PCSは本研究開始前に自己記入方式で評価した。

【結果】
2症例の研究開始前のPCSは25,42であった。
PCS25の症例はA期では疼痛2.3,嘔気5.8,眠気5.0,薬物使用回数4.3回となり,同様にB期では疼痛2.0,嘔気2.3,眠気2.3,薬物使用回数1.8回となった。B期のTENS使用平均回数は5.8回であった。また「電気治療は痛みが紛れて薬を減らせるから嘔気や眠気が軽い」との内省報告が得られた。PCS42の症例はA期では疼痛3.2,嘔気5.8,眠気5.5,薬物使用回数5.0回となり,同様にB期では疼痛3.0,嘔気5.5,眠気5.3,薬物使用回数4.8回となった。B期のTENS使用平均回数は3.0回であった。また「電気治療は痛みが紛れるが薬の代わりになるほどではない」との内省報告が得られた。

【考察】
2症例とも疼痛の程度にA期とB期で大きな差は認めなかったが,PCSが低値だった症例では,A期よりもB期の方が副作用の程度は軽減し,薬物使用回数も減少した。TENSによる鎮痛効果によって薬物使用量が減少し,結果的に副作用症状も軽減したと考えられた。一方でPCSが高値であった症例は,A期とB期で副作用の程度や薬物使用回数に大きな変化はなく,PCSが低値だった症例よりもTENSの使用回数が少なかった。
今後は症例数を蓄積し,PCSがTENSの効果に与える影響を明確にしていく必要があると考えられる。

【理学療法学研究としての意義】
2症例ではあるが,PCSの違いが癌性疼痛に対するTENSの効果に影響を与える可能性が示唆された。癌性疼痛に対する薬物療法の補助・代替療法としてTENSが有用である可能性があるが,TENSの適応患者を明確にしていくことで医療経済効果の貢献や新たな治療介入の発見に繋がると考えられる。