第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述31

脳損傷理学療法3

Fri. Jun 5, 2015 4:10 PM - 5:10 PM 第9会場 (ガラス棟 G409)

座長:松田雅弘(植草学園大学 保健医療学部)

[O-0233] 脳卒中重度片麻痺例における長下肢装具を使用した歩行練習

前型歩行と揃え型歩行時の麻痺側下肢筋活動の比較

大鹿糠徹, 阿部浩明, 関崇志, 大橋信義, 辻本直秀, 齋藤麻梨子, 神将文 (一般財団法人広南会広南病院リハビリテーション科)

Keywords:脳卒中, 長下肢装具, 歩行練習

【目的】
脳卒中片麻痺例の歩行機能は,麻痺側下肢筋力との高い相関を示しており(Bohannon. 2007),脳卒中片麻痺例の歩行再建には麻痺側下肢筋力の改善が重要であると推察される。近年,脊髄損傷例を対象とした研究においてCentral Pattern Generatorの存在が報告され(Dimitrijevic et al. 1998),大脳や基底核以外の神経系の歩行への関与が注目されている。Dietzら(2002)は脊髄損傷患者を対象とした研究において,両下肢を自動的に駆動可能な装置を使用し,トレッドミル上で受動的な歩行を実施した際の下肢筋活動を調査した。その結果,下肢への荷重と股関節運動が同時に得られた場合に,歩行周期に同調した歩行様筋活動が発生したことを報告した。つまりDietzらの研究は,完全脊髄損傷例のように随意運動が不可能な症例においても,荷重と関節運動という感覚入力を得ることで歩行に必要な筋活動が誘発できることを示唆している。そこで当院では前述の研究背景を基に,随意運動が困難な脳卒中重度片麻痺例に対して発症後早期から無杖二動作前型歩行(以下,二動作歩行)練習を可能な限り積極的に実践している。この歩行練習は,立脚期における麻痺側下肢への十分な荷重と大きな関節運動を提供でき,下肢のリズミカルな左右交互運動を再現することを目的としている。我々は,この二動作歩行練習が従来型の支持物を用いた三動作揃え型歩行(以下,三動作歩行)練習よりも麻痺側下肢筋活動の増大を引き起こすと推察している。そこで本研究では表面筋電計を用いて,2つの歩行パターンにおける麻痺側下肢筋活動の差異を調査した。本研究の目的は,当院で実践している二動作歩行練習が三動作歩行練習よりも麻痺側下肢筋活動の増大を引き起こすかを検証することである。
【方法】
対象は当院に入院後,リハビリテーションが処方された脳卒中重度片麻痺患者15例とした。対象者のSIAS下肢運動機能項目は全て3以下であった。測定条件は二動作歩行と三動作歩行の2条件とした。二動作歩行はGait Solution足継手付き長下肢装具を使用し,足部は底屈制動,背屈遊動に設定した。三動作歩行はダブルクレンザック足継手付き長下肢装具とside caneを使用し,足部は底背屈0°に固定した。歩行介助は各担当セラピストが行い,歩行可能な最少介助とした。筋電図測定には,表面筋電計(NORAXON社製MYOTRACE400)を用いた。測定筋は麻痺側の大腿筋膜張筋(以下,TFL),大殿筋(以下,GM),大腿直筋(以下,RF),半腱様筋(以下,ST),前脛骨筋(以下,TA),腓腹筋内側頭(以下,GC)とし,二動作歩行時と三動作歩行時の各筋の筋電図を測定した。電極貼付位置は各筋の筋腹上でカフベルトに接触しない位置とし,電極間距離は30mmとした。測定前には各歩行パターンを十分に練習し,各測定間には十分な休憩を設定した。得られたデータは,筋電図解析ソフト(NORAXON社製MYORESEARCH XP)を用いて,50msの二乗平均平方根により平滑化した。5steps以降の麻痺側初期接地から非麻痺側初期接地までを1立脚期と設定し,平滑化された筋電図データから各筋の合計6立脚期分の筋電図積分値(以下,IEMG)を算出した後,1秒間あたりのIEMG(以下,IEMG/s)を求めた。得られたIEMG/sは,静止立位1秒間のIEMGを基準に正規化した(以下,%IEMG/s)。統計処理では,15例の%IEMG/sの平均値を求め,二動作歩行と三動作歩行の2条件で比較した。統計学的検定は,Shapiro-wilk testによる正規性検定後,Wilcoxon符号付き順位検定を用いた。有意水準は5%未満とした。
【結果】
2条件における立脚期の%IEMG/sを比較した結果,全ての測定筋において三動作歩行時よりも二動作歩行時の%IEMG/sが統計学的に有意な増加を示した(TFL,GM,GC:p<0.01,RF,ST,TA:p<0.05)。
【考察】
本研究の結果から,麻痺側下肢の筋活動を増大させるという視点においては,二動作歩行練習が三動作歩行練習よりも有効であることが示唆された。これらの結果は,脊髄損傷例を対象としたKawashimaら(2004)の報告と概ね同様の結果となった。Kawashimaらは脊髄損傷例における下肢交互運動が,一側のみの下肢運動に比べ下肢筋活動を増加させることを報告している。左右交互の股関節運動を伴う前型歩行が姿勢制御や歩行に関与する神経回路を賦活し,麻痺側下肢筋活動の増大に寄与したものと推察される。
【理学療法学研究としての意義】
随意運動が困難な脳卒中重度片麻痺例の歩行練習の手法として,二動作歩行練習は三動作歩行練習よりも麻痺側下肢筋活動を増大させ,歩行能力向上や廃用症候群の予防に貢献できる可能性がある。