第50回日本理学療法学術大会

Presentation information

口述

口述31

脳損傷理学療法3

Fri. Jun 5, 2015 4:10 PM - 5:10 PM 第9会場 (ガラス棟 G409)

座長:松田雅弘(植草学園大学 保健医療学部)

[O-0234] 回復期脳卒中片麻痺患者一症例における随意運動と長下肢装具歩行時の下肢,体幹筋活動の比較

中臺久恵, 田中直次郎, 渡邊匠, 岡本隆嗣 (医療法人社団朋和会西広島リハビリテーション病院)

Keywords:片麻痺, 長下肢装具, 表面筋電図

【はじめに,目的】
脳卒中ガイドラインにより,脳卒中患者に対し適応のある患者には歩行の改善のために装具を用いることが勧められており,近年では股関節及び体幹の支持性を選択的に向上することを目的に,長下肢装具(以下,KAFO)をよく使用することがある。しかし,目的とした筋活動がKAFO歩行時に促されているか,下腿筋での報告はあるが未だ不明確な点が多い。そこで,本研究では脳卒中片麻痺患者の随意運動時とKAFO装着した状態での膝継手条件の違いによる歩行を筋電図,運動学的に比較することを目的とした。
【方法】
対象は回復期病棟入院中の右視床出血患者1名で,70歳代,男性,発症から141病日経過しており,FIM運動項目51点,認知項目27点,下肢Brunnstrom Recovery Stageは4であり歩行はT字杖を使用し監視で可能であった。対象者に対し,最大等尺性収縮,KAFO歩行時の筋活動,歩容と歩行パラメータの計測を行った。随意運動は徒手筋力テストと有末の方法による徒手固定法にて最大随意収縮(以下,MVC)を計測した。歩行はKAFOの膝継手を固定(以下,膝固定)と,遊動(以下,膝フリー)にした条件とで自由歩行を計測し,併せてビデオ撮影を実施した。歩行速度,歩幅は2次元歩行分析装置Walk way(アニマ社製)を使用し算出した。筋電計はクリニカルDTSEM-701M(NORAXSON社製)を用い,麻痺側内腹斜筋,大殿筋,大腿直筋に電極を貼付した。歩行筋電図は各条件から25~27歩行周期を抽出し,整流処理,正規化し,MVC値で除して標準化した。得られた値から,MVCと歩行立脚期におけるPeak値の筋活動の比較,各条件での立脚期の相対値(以下,%IEMG)の比較をtukey-Kramer法と対応のあるt検定を用いて検討した。有意水準は5%とした。
【結果】
MVCと歩行立脚期のPeak値は大殿筋と大腿直筋ではMVCに比べ膝固定(p<0.01),膝フリー(p<0.01)が有意に大きかった。内腹斜筋ではMVCに比べ膝固定(p<0.01),膝フリー(p<0.01)が有意に小さく,膝フリーに比べ膝固定(p=0.03)が有意に大きかった。また,膝固定と膝フリーでの歩行立脚期の%IEMGは大殿筋(p<0.01),大腿直筋(p=0.01)において膝固定よりも膝フリーの方が有意に大きかった。ビデオ観察より膝フリーでは膝固定と比較し,立脚期において膝・股関節ともに屈曲位であった。歩行速度と歩幅はそれぞれ膝固定41.7cm/sec,32.8cm,膝フリー33.8cm/sec,27.6cmであった。
【考察】
MVCと歩行立脚期のPeak値の比較では大殿筋,大腿直筋においてMVCよりも有意に歩行時の筋活動の方が高かった。本症例はFIM認知項目27点で指示理解も良好で,MVC時に覚醒度や本人の努力が不十分とは考えにくい。中枢神経障害による運動麻痺がある場合には,筋活動は課題得意的に調整されているといわれており,歩行という習熟した運動課題であったことが,MVCよりも大きな筋活動を生じさせた一つの原因と思われた。加えて歩行では予測的姿勢制御などの姿勢反射の影響もあるのかもしれない。下肢筋の皮質脊髄路興奮性は歩行位相に依存して変化することが示されており,歩行時にMVCよりも高い筋活動が出現することは,皮質脊髄路の興奮性も高まっていると考えられる。この点から判断すると,膝固定よりも膝フリーでは,立脚期における%IEMGは有意に大きく,麻痺の改善にはよいのかもしれないが,筋活動様式はあまり差がなく,歩容や歩行速度,歩幅などは膝固定の方が良好であった。通常KAFOが適応となる患者の場合,膝フリーでは歩行困難なことが多く,膝を固定し自由度の制限を行った方が運動学習を進めるうえで有利と考える。今回の症例のように麻痺の改善により膝フリーでの歩行が可能となった場合には,歩容と筋活動が相反する状態が考えられ,このような場合には各条件で得られる効果とデメリットに加え,患者の状態や予後を考慮した上で,KAFOの使用方法を判断する必要があると思われる。
【理学療法学研究としての意義】
一症例ではあるが脳卒中片麻痺患者において,KAFOでの歩行を行うことで随意運動よりも高い筋活動が促されていることが確認できた。また,膝フリーでは立脚期での筋活動は高いものの,歩行速度や歩幅は膝を固定した時よりも低下する可能性が示唆された。これらのことはKAFOを使用した歩行練習を行う際に考慮すべき点やKAFOの適応判断の一助となり得るものと考える。