第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述34

がん2

Fri. Jun 5, 2015 4:10 PM - 5:00 PM 第12会場 (ガラス棟 G701)

座長:神津玲(長崎大学病院 リハビリテーション部)

[O-0254] 食道癌患者の周術期における身体機能,QOL,精神状況の関連ならびに変化の検討

井上貴行1, 伊藤理1,2, 麻生裕紀2, 永谷元基1, 水野陽太1, 中島裕貴1, 服部慶子1, 兒玉奈菜恵1, 西田佳弘1,3, 長谷川好規2 (1.名古屋大学医学部附属病院リハビリテーション部, 2.名古屋大学医学部附属病院呼吸器内科, 3.名古屋大学医学部附属病院整形外科)

Keywords:食道癌, 周術期, 評価

【はじめに,目的】食道癌手術は高度な侵襲を伴うことが多く,術後に離床の遅れ,呼吸機能や身体機能の低下が生じることが重要な課題となっている。リハビリテーション(リハ)には,これら術後合併症,機能低下を予防・改善する効果が期待されている。リハ介入を行う上で,周術期における患者の特性を多面的に評価し,検討することは重要である。我々はこれまで,食道癌患者の術前における運動耐容能とQOL,精神状況の関連と術中,術後因子との関連について検討してきた。本研究では,周術期リハ介入を行った食道癌患者における身体機能,QOL,精神状況を評価し,各評価項目の関連ならびに術前後の変化について比較検討した。
【方法】2014年4月から9月の期間,当院消化器外科にて食道癌手術を施行し,術前からリハ介入を行い,術前および術後2週で評価が可能であった症例を対象とし,後方視的に検討した。症例数は41名(男34名,女7名,66±8歳),平均歩行開始は術後2±2日,平均術後在院日数は25±15日であった。評価指標には身体機能として,握力,下肢筋力,6分間歩行距離(6MWD)を測定した。精神状況をHospital Anxiety and Depression Scale(HADS)により,呼吸に関するQOLをCOPDアセスメントテスト(CAT)により評価した。握力はデジタル握力計(Grip-D,竹井機器工業社製)を用いて測定した。下肢筋力はハンドヘルドダイナモメーター(ミュータスF-100,アニマ社製)を用いて最大等尺性膝伸展筋力を測定した。HADSは不安(A)と抑鬱(D)に区別し,HADS-A,HADS-Dそれぞれで8点以上を疑診,8点未満は非疑診とした。各評価は術前後に理学療法士による測定または自記式にて行った。周術期リハ内容は,術前は呼吸や起居動作についての指導・練習を行い,術後は呼吸練習や排痰,筋力増強運動,歩行練習,エルゴメータなどを退院前日まで行った。統計解析は,術前後での変化について,身体機能の各指標には対応のあるt検定,HADSにおける疑診・非疑診の割合にはχ2検定を用いて有意性を求めた(有意水準5%未満)。また,術後における各指標間の相関は,正規性を確認した上でPearsonもしくはSpearmanの相関係数を求めて検討した。
【結果】術前に比べ,術後の握力,下肢筋力,6MWDは有意に低値であり,CATスコアは有意に高値と呼吸関連QOLの悪化を認めた。術前において,握力と下肢筋力,6MWDはそれぞれ有意な正の相関,それらとCATは有意な負の相関を認めた。さらにCATはHADS-A,HADS-Dと有意な正の相関を認めた。術後において,6MWDは下肢筋力と有意な正の相関,HADS-A,HADS-Dとは有意な負の相関を認めた。また,HADS-DはCATと有意な正の相関を認めた。なお,HADS-A,HADS-Dが疑診であった症例の割合は術前後で差を認めなかったが,術前後で非疑診から疑診となったのはそれぞれ21%,17%であった。
【考察】本研究では,術後平均約2病日には歩行を開始し,2週間後に6MWDなどの術後評価が可能であった症例を対象とした。しかしながら,本研究の結果から,術後2週間経過した段階でも,術前と比べ身体機能や呼吸関連QOLが低下したままの状態であることが示された。また,術前,術後のいずれにおいても,下肢筋力と運動耐容能,呼吸関連QOLと精神状況(抑鬱)には関連があることが示された。さらに,術後になって不安・抑鬱状態を示したものが約2割存在し,術後の精神状況悪化が運動耐容能や呼吸関連QOLの低下に関与する可能性もうかがわれた。本研究の結果から,食道癌周術期においては身体機能に加え,精神状況も考慮したリハ介入が必要であると考えられる。本研究の限界として,栄養状態や身体活動量の評価,呼吸機能を含めたより詳細な解析を行うに至っていない。今後,食道癌周術期リハにおける新規方策の開発や効果検証を行っていくために,本研究を発展させ,より詳細かつ多面的な検討を行うことが重要である。
【理学療法学研究としての意義】周術期リハ介入を効果的に進める上で,術前後での身体機能,精神状況,健康関連QOLの変化を評価検討することは極めて重要である。本研究で用いた指標はどれも簡便であり,汎用性のあるものである。したがって,多施設で同様な研究が広く行われることで,よりエビデンスレベルの高い研究を進める上での基盤になり,周術期における理学療法学を構築する一助となるものと期待する。