第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述34

がん2

Fri. Jun 5, 2015 4:10 PM - 5:00 PM 第12会場 (ガラス棟 G701)

座長:神津玲(長崎大学病院 リハビリテーション部)

[O-0255] 食道癌外科手術患者に対する理学療法の必要性

―術後経過に関する後方視的研究―

佐藤宏樹1, 河島隆貴1, 橋爪奏子1, 小原謙一2, 花山耕三3 (1.川崎医科大学附属病院, 2.川崎医療福祉大学, 3.川崎医科大学)

Keywords:食道癌外科手術, 理学療法介入, がんリハビリテーション

【はじめに,目的】
2010年度診療報酬改訂では,がん患者リハビリテーション(以下,リハ)料が新設され,がんリハ分野を含めた新しい癌医療が求められ始めている。癌の罹患部位は,皮膚から内臓,骨まで多岐にわたるが,中でも消化器(食道,胃,大腸など)の罹患率が最も高く,全罹患部位の約45%を占めている。食道癌手術は,頸部・胸部・腹部に操作が加わり,同時にリンパ廓清も必要となる高侵襲手術である。呼吸器合併症や縫合不全,反回神経麻痺などの術後合併症の発生頻度が高い手術であるゆえに,術後合併症予防を目的に周術期管理がなされ,本邦のガイドラインにおいてもリハが推奨されている。周術期のリハは必要とされているが,明確な介入基準はなく介入期間や時期が一定でないことが現状である。本研究の目的は,食道癌外科手術患者に対するリハ介入と非介入の患者の術後経過を調査・比較し,今後の食道癌外科手術患者に対する理学療法の課題及び必要性について検討した。
【方法】
研究デザインは後ろ向き観察研究である。対象者は,2011年4月から2014年3月の間に当院にて食道がん外科手術を施行した患者の中で,術後重篤な合併症を呈した症例,死亡および転院症例,人工透析を受けている症例,重篤な身体障害,精神障害がある症例を除いた111名とした。重篤な合併症は,Japan Clinical Oncology Groupの術後合併症規準(Clavien-Dindo分類)GradeIII以上の症例とした。対象者111名の属性項目(年齢,性別,BMI,clinical stage,開胸・開腹術の有無,Brinkman指数,飲酒歴,COPDの有無,手術時間,手術出血量),リハ介入の有無,術後経過として,術後在院日数,Intensive Care Unit(以下,ICU)滞在日数,人工呼吸器管理日数,初回端座位日,初回歩行日を後方視的にカルテより情報を収集し,リハ介入が術後経過に与える影響を検討した。統計解析は各項目で正規性の検定を行い,性別,clinical stage,開胸・開腹術の有無,飲酒歴,COPDの有無の比較にはχ2検定を,年齢,BMIは対応のないt検定を,Brinkman指数,手術時間,手術出血量,術後経過の各項目はMann WhitneyのU検定を使用し,介入有り・無しの2群間での群間比較を実施した。危険率5%未満をもって有意とした。
【結果】
対象者のリハ非介入,リハ介入群別の背景について記す。リハ非介入群は年齢66.7±9.8歳,男性54名,女性6名,clinical stageI/II/III/IV:12名/20名/20名/8名,BMI 21.6±3.3kg/m2,開胸・開腹有無:有り30名/無し30名,リハ介入群は年齢68.7±9.1歳,男性42名,女性9名,clinical stageI/II/III/IV:10名/15名/14名/12名,BMI 20.7±3.2kg/m2,開胸・開腹有無:有り38名/無し13名であった。上記に加えて,Brinkman指数,飲酒歴,COPDの有無,手術時間,手術出血量に検定を行った結果,リハ介入群の開胸・開腹術有りの割合が有意に多かった(p<0.05)。リハ介入の有無による影響を検討するために,術後経過の項目を2群間で比較したところ,リハ介入群に比べてリハ非介入群では,術後在院日数(リハ非介入群28.6±17.1日vsリハ介入群40.3±26.9日,p<0.01),初回端座位日(3.5±2.9日vs5.3±4.3日,p<0.05),初回歩行日(5.1±.5.3日vs8.2±6.9日,p<0.05),人工呼吸器管理日数(2.1±2.3日vs3.3±3.6日,p<0.05),ICU滞在日数(2.4±2.1日vs3.7±3.0日,p<0.01)が有意に低値であった。
【考察】
開胸・開腹術後では呼吸器合併症や術後せん妄などの合併症が高率に生じる。その結果,適切な症状の評価が困難となり周術期管理を難渋させ,経口摂取の開始時期の遅延や身体機能の改善の妨げとなっている。これらの二次的な合併症により入院期間の延長,活動能力の低下に繋がると報告されている(Robinson et al. 2009)。このことから,本研究では2群の背景のうち唯一有意差の認められた開胸・開腹手術施行有無によって引き起こされたと推測される侵襲部位の違いが,術後経過日数の有意差に影響したことが考えられる。しかし,一般的に重症度や手術リスク因子とされているclinical stageや年齢,BMI,手術侵襲度などは差を認めず,本研究での術前調査項目では理学療法の必要性を推測するには不十分であった。今後は理学療法における術前リスク因子を心肺機能や身体活動量,精神・心理面など様々な側面を評価し検討していく必要性がある。
【理学療法学研究としての意義】
周術期理学療法を効果的に進める上で,症例の特性を把握し,食道癌外科手術患者における理学療法の必要性を解明することでより効果的な周術期理学療法を提供する一助になるものと期待される。