第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述35

がん3

Fri. Jun 5, 2015 5:30 PM - 6:30 PM 第8会場 (ガラス棟 G402)

座長:赤尾健志(富山赤十字病院 リハビリテーション科)

[O-0265] 同種造血幹細胞移植患者における移植前下肢筋力の違いが移植前後の筋力変化と各因子に及ぼす影響

高木寛人1, 中村和司1, 松永佑哉1, 中山靖唯1, 渡壁恭子2, 高坂久美子3, 福島庸晃2, 倉橋信悟2, 山本英樹1,4, 洪淑貴1,4, 井上英則4, 小澤幸康2, 宮村耕一2 (1.名古屋第一赤十字病院リハビリテーション科, 2.名古屋第一赤十字病院血液内科, 3.名古屋第一赤十字病院造血細胞移植センター, 4.名古屋第一赤十字病院整形外科)

Keywords:同種造血幹細胞移植, 移植前下肢筋力, 筋力変化

【はじめに,目的】近年,造血幹細胞移植後の廃用予防を目的とした移植前後の理学療法による介入が重要視されている。しかし,移植患者は移植前の化学療法による副作用により活動性が低下し,移植前からすでに廃用性筋力低下を生じていることが多い。本研究の目的は移植前下肢筋力値の違いによる背景因子と移植前後での筋力変化,さらにその影響因子について検討する。

【方法】対象は2012年10月から2014年7月までに当院にて同種造血幹細胞移植を施行した94例のうち,筋力評価が可能であった47例とした。対象者の内訳は,年齢41.1±14.2歳,性別は男性29/女性18例,疾患は急性骨髄性白血病20/骨髄異形成症候群14/急性リンパ性白血病9/悪性リンパ腫2/その他2例であった。対象者は移植前膝伸展筋力値により正常群と低下群の分類した。分類方法は,平澤らの性別・各年代別等尺性膝伸展筋力値を用いて体重比筋力の平均値-2SDまでを正常群,それ未満を低下群とした。評価項目は,背景因子として性別・年齢・Hematopoietic cell transplantation comorbidity index(以下:HCT-CI)・前処置・HLA・ドナー・幹細胞・発症から移植までの期間とし,影響因子はAlb変化率・体重変化率・Hb変化率・生着までの日数・理学療法実施率,下肢筋力は膝伸展筋力とした。影響因子の変化率は移植前評価時と移植後30日,理学療法実施率は移植時から移植後30日までの期間とし,実施基準は一日に20分以上実施したものとした。膝伸展筋力の測定方法は,徒手筋力測定器ミュータスF-1(アニマ社製)を用いて加藤らの方法にて測定した。測定値は左右各2回測定し平均値を算出し,さらに左右平均値を平均した実測値を体重で除し体重比とした。評価日は移植前理学療法介入時と移植後30日に測定した。統計処理は,両群における背景因子・影響因子,さらに膝伸展筋力の群内・群間比較について検討を行った。統計処理はDr SPSS2を用いて有意水準は5%未満とした。
【結果】対象者は正常群23/低下群24例。背景因子おいて年齢は正常群49.0±10.1/低下群34.2±14.0歳,発症から移植までの期間は正常群では12ヶ月未満20/12ヶ月以上3例・低下群は12ヶ月未満14/12ヶ月以上10例と有意差を認めた。その他の背景因子である性別(正常群:男性11/女性12例・低下群:男性18/女性6例),HCT-CI(正常群0.5±0.7/低下群0.5±0.6点),前処置(正常群:破壊的13/非破壊的10例・低下群:破壊的19/非破壊的5例),HLA(正常群:マッチ15/ミスマッチ8例・低下群:マッチ19/ミスマッチ5例),ドナー(正常群:血縁8/非血縁15例・低下群:血縁8/非血縁18例),幹細胞(正常群:骨髄13/末梢7/臍帯血3・低下群:骨髄16/末梢7/臍帯血1)に有意差を認めなかった。影響因子は,すべて有意差を認めなかった。膝伸展筋力において群間比較では,移植前膝伸展筋力は正常群0.59±0.15/低下群0.41±0.09kgf/kg,移植後30日膝伸展筋力は正常群0.53±0.15/低下群0.42±0.12kgf/kg,筋力変化率は正常群-8.4±17.1/低下群2.2±18.8%と有意差を認めた。群内比較では,正常群は移植前と移植後30日間に有意な低下を認めたが,低下群は有意差を認めなかった。
【考察】低下群は正常群と比べ年齢が若かった。年齢が若い患者は,移植前における活動量が健常者と比べ著明に低下することにより,正常筋力値と比べ顕著に筋力が低下したと思われる。さらに,低下群は発症から移植までの期間において12ヶ月以上の症例が多く低活動期間が長期化したため廃用症候群が進行したと考えられる。しかし,低下群は年齢が若いため筋力変化率は移植前後でむしろ増強しており,移植前後の運動療法を通じ活動量が増加するため理学療法効果が表れやすいと思われる。そのため,移植予定である比較的若い患者は,化学療法を施行している時期から活動量の低下を予防するため,理学療法の介入が必要である。正常群は年齢が高いため,その年代の健常者の活動量と移植前における活動量にあまり差がないことや発症から移植日までの期間が短く,移植前筋力値は正常範囲内に保たれたと思われる。しかし,筋力変化率は移植前後で有意に低下したため,移植前筋力が正常範囲内でも,移植後にはより一層積極的な介入が重要であると思われる。影響因子は有意差を認めなかったが,正常群では移植前後で筋力が低下したため,下肢筋力練習における負荷量の設定を考慮する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】移植前下肢筋力の違いは,年齢や発症から移植までの期間と関連があり,移植前後の筋力変化に影響を及ぼすため,その特徴により理学療法の介入時期や下肢筋力練習の負荷量の設定を再考する必要がある。