第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述37

大腿骨頚部骨折

Fri. Jun 5, 2015 5:30 PM - 6:30 PM 第10会場 (ガラス棟 G602)

座長:田中尚喜(東京厚生年金病院 リハビリテーション室)

[O-0279] 大腿骨頸部骨折患者の歩行自立度判定を帰結的評価のCut Off値と絶対信頼性の概念を取り入れ実施した一症例

中口拓真, 岡泰星, 田津原佑介, 淺見岳志 (貴志川リハビリテーション病院)

Keywords:大腿骨頸部骨折, 歩行自立度, 絶対信頼性

【はじめに,目的】
根拠ある理学療法確立のため,近年,アウトカム指標の信頼性を検討する報告が多く散見される。筋力の客観的評価としては,Hand held dynamometer(HHD)による評価が多く報告されており,徒手筋力検査と比較し,良好な妥当性と再現性を有する事が報告されている(有末:2013)。また運動機能評価等の信頼性において,測定誤差の限界域を示した,Minimal Detectable Change(MDC)など,絶対信頼性が注目されており,科学的視点から介入の効果検証する事が可能となっている。しかし,身体機能改善から運動機能向上までMDCを用いて科学的に検討した報告は,我々が調査した範疇では見当たらない。そこで今回,臨床現場で介入する事が多い大腿骨頸部骨折患者の筋力と運動機能評価の経時的変化を捉え,歩行自立度判定を帰結的評価と絶対信頼性の概念を取り入れ実施した症例を報告する。

【方法】
対象は,転倒により右大腿骨頸部骨折を受傷し,人工骨頭置換術を施行された78歳の女性である。医師の指示により歩行可能となった時点を初期評価とし,1週ごとに再評価を実施した。評価項目は,運動機能検査として,Berg Balance Scale(BBS),5回立ち座りテスト(FTSST)を採用し,筋力の測定は,股関節屈曲・伸展・外転,膝関節伸展を計測し3回計測中の最大値を採用した。また各週ごとにHHDにて筋力を測定し,各部位においてHHD値と運動機能検査との経時的変化を捉えた。歩行自立度の設定については各運動機能検査のCut Off値を参考とした。初期評価では,FTSSTは39.8秒,BBSは30点,筋力は右側で,股関節屈曲筋0.55Nm/kg・伸展筋0.7Nm/kg・外転筋0.22Nm/kg,膝関節伸展筋0.33Nm/kgであった。

【結果】
結果を(1週目,2週目,3週目)の順に記載する。
歩行自立度(ピックアップ歩行自立,T-cane歩行自立,独歩自立)
FTSST(18.5秒,13.8秒,9.6秒)。BBS(38点,46点,55点)
筋力は股関節屈曲筋(0.71Nm/kg,0.82Nm/kg,0.92Nm/kg)。股関節伸展筋(0.96Nm/kg,1.57Nm/kg,1.69Nm/kg)。
股関節外転筋(0.59Nm/kg,0.82Nm/kg,0.92Nm/kg)。膝関節伸展筋(0.61Nm/kg,0.85Nm/kg,0.87Nm/kg)となった。

【考察】
結果より本症例は1週毎に歩行自立度の改善を認めた。初期から2週目まではHHD値で全体的にMDCを超える改善がみられた。3週目では,全体的にHHD値には大きな変化は認めなかったが,右股関節外転筋にMDCを超える改善が確認できた。転倒リスク軽減や歩行速度改善,杖の有無については股関節外転筋力,膝関節伸展筋力が相関していると報告されている(川端:2014)。本症例も筋力においてMDC4%を超える改善が見られ,運動機能検査の測定値も各々MDCを超えた結果,独歩自立に至った。歩行自立度判定として,2週目時点でBBSの測定値がCut Off値を上回っているが独歩ではなくT-caneとした。その理由として,BBS45-56点のMDCは3点であり,真の値は43-49点の範囲にある,MDCを考慮した転倒のリスクのCut Off値は49点である。また,MDC4.2秒のFTSSTは13.8秒である。
Tiedemannら(2008)は,FTSSTのCut Off値を15秒としているが,12秒以上の場合は他の転倒リスクの評価が必要としている。本症例についてはBBS,FTSSTの結果から,転倒リスクが残存していると判断し,歩行自立度をT-caneとした。
3週目になるとFTSST9.6秒となり,Cut Off値を超えBBSも49点を超えた為,院内独歩自立と判断した。一方,山崎ら(2003)は,膝関節伸展筋力0.54N/kgから院内独歩可能とし,0.9Nm/kgを超える症例は,全て院内独歩自立であったと報告している。これらから本症例の膝伸展筋力0.87Nm/kgである為,転倒リスクは少なからず残存していると考えられた。
今回,大腿骨頸部骨折患者に対し,帰結的評価のCut Off値とMDCを用いて歩行自立度判定を行った。その結果,転倒リスク等の詳細な把握が可能となり,杖の有無,歩行自立度選択の客観的一手段となりうる可能性が示唆された。

【理学療法学研究としての意義】
臨床現場で介入機会の多い大腿骨頸部骨折患者に対し,帰結的評価のCut Off値に絶対信頼性の概念を加える事で,より正確な歩行自立度の選択が出来る可能性を示唆した点で臨床的意義がある。