第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述37

大腿骨頚部骨折

Fri. Jun 5, 2015 5:30 PM - 6:30 PM 第10会場 (ガラス棟 G602)

座長:田中尚喜(東京厚生年金病院 リハビリテーション室)

[O-0280] 一般急性期病院における大腿骨近位部骨折患者のリハ期間延長要因の検討

長岡望1, 新田收2 (1.東大宮総合病院リハビリテーション科, 2.首都大学東京大学院人間健康科学研究科)

Keywords:大腿骨近位部骨折, 予後, 在宅復帰

【はじめに,目的】
大腿骨近位部(頸部+転子部)骨折は理学療法士が臨床で担当することの非常に多い疾患の一つである。急速に高齢化が進む本国において,大腿骨近位部骨折患者数は近年増加の一途を辿ってきた。全国調査でその発生数は2002年約12万人,2007年15万人と報告され,今後も増加が予測されている。また,高齢化に伴う医療費の増大は大きな社会問題となっており,近年医療費抑制を目的に在院日数の短縮や医療の機能分化が進められてきた。このような流れの中,急性期病院の理学療法士は患者の個別性に注意しながら,できるだけ早期に予後を予測することが求められる。そして継続的なリハビリテーションの必要があれば回復期施設等への転院準備を進めることとなる。大腿骨近位部骨折患者のリハビリテーション(リハ)では,受傷前生活への回復を目標とする場合が多い。特に受傷前に自宅で生活していた患者が,再び同じ生活場所へ復帰できることは,患者のQOL,精神的・経済的負担を考えると重要である。一般急性期病院である当院では,術後リハの結果,直接自宅復帰できる場合と,機能的・社会的な問題により転院してリハを継続していく場合があり,後者をリハ期間延長と言うことができる。近年の医療背景から,このようなリハ期間延長者を早期に予測することは重要で,術後理学療法に役立てることができると考える。そこで本研究では大腿骨近位部骨折患者において,急性期病院から直接自宅退院することを阻害する因子を抽出することを目的とした。
【方法】
対象:大腿骨近位部骨折受傷後,当院にて観血的治療を施行した患者のうち,以下の基準を満たした32例を対象とした。取り込み基準:65歳以上,転倒による受傷,術前居住地が自宅,術前移動手段が自立歩行。除外基準:多部位骨折,再骨折,多疾患発生,死亡。調査施設:一般急性期病院,病床数317床,全病床平均在院日数17日。方法:先行研究から退院先に関連する因子として指摘があることを考慮し,調査項目を決定した。術後,以下の項目をカルテデータ,聴取,計測により収集した。調査・収集項目は年齢,合併症有無(循環器疾患,RA,OA,DM,片麻痺),日中介護者の有無,術後~リハ開始までの期間(以下,術後期間),術前歩行距離,HDS-R,非術側片脚立位時間,移乗FIM得点。分析方法:退院先(自宅or転院)を従属変数,収集項目を独立変数とし,ロジスティック回帰分析,および変数増加法を用いて分析した。同時に,収集項目同士の関連を相関分析,t検定にて確認した。なお,統計学的分析にはSPSS ver.22を用い,有意水準は5%とした。
【結果】
対象者の性別は女性27人男性5人,年齢83.3±7.1歳,平均在院日数37.9±9.4日,退院先は自宅21人転院11人であった。ロジスティック回帰分析の結果,①年齢②術後期間が選択された。係数(β)は①-0.622②-1.274,オッズ比は①0.537②0.28,95%信頼区間は①0.314~0.916②0.087~0.897,予測式はスコア=(-0.622)×年齢+(-1.274)×術後~RH開始期間+57.882,予測率は92.9%であった。なお,各項目同士の関連について,①は術前歩行距離,HDS-R,片脚立位時間,術後移乗FIM得点と,②はどの項目とも関連を示さず独立していた。
【考察】
今回,年齢と術後期間がリハ期間延長を予測する因子であることがわかった。収集項目同士の関連を調べた結果,年齢はHDS-Rや術前・術後機能と関連があり,認知機能・運動機能を反映していることがわかった。高齢者の特性は個体差が大きいとされているが,一般には筋線維数の減少による筋力の低下の他,精神活動,特に学習能力や記憶力の低下,ストレス耐性の低下が見られるとされる。このことからも,高齢者では年齢と認知機能,運動機能は互いに関連しており,その代表値として年齢が選択されたと考えられる。これに対し術後期間は独立した変数となっており,身体機能や認知機能は関与していなかった。同じ運動機能,認知機能の患者がいた場合,リハを早期に開始した方が自宅退院率は高まると言え,急性期病院における早期リハの必要性が示された。
【理学療法学研究としての意義】
リハ期間の延長が予測される患者に対し,集中的な理学療法の提供や他部門・家族との情報共有を行うことで,在宅復帰率の向上,在院日数の適正化が図れる可能性がある。また,できるだけ早期にリハを開始することも同様に重要である。