第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述38

大腿骨頚部骨折・その他

2015年6月5日(金) 17:30 〜 18:30 第11会場 (ガラス棟 G610)

座長:具志堅敏(文京学院大学 保健医療技術学部)

[O-0283] 大腿骨近位部骨折患者の術後食事摂取量に関与する因子の検討

神戸市地域中核病院における多施設共同研究

田中利明1, 中馬優樹2, 坂本裕規3,4, 山田真寿実3, 田中里紅3, 岩田健太郎3, 井上達朗1,4 (1.西神戸医療センター, 2.済生会兵庫県病院, 3.神戸市立医療センター中央市民病院, 4.神戸大学大学院保健学研究科)

キーワード:大腿骨近位部骨折, 栄養, 食事摂取量

【はじめに,目的】
高齢者では,潜在的にprotein-energy malnutrition(以下PEM)のリスクがあり,肺炎などの感染症や大腿骨近位部骨折などの急性疾患によりPEMの状態に容易に陥りやすいとされている。PEMになると感染症リスクの増加,術後合併症の増加と強い関連が指摘されている。「大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン第2版」では2043年には約27万人の大腿骨近位部骨折が発生すると推計されており,我々理学療法士が今後リハビリテーション(以下,リハビリ)を行う上でも問題になってくると思われる。また,高齢者の大腿骨近位部骨折患者の約半数が受傷時から低栄養があるとの報告もある。しかし,大腿骨近位部骨折にて急性期病院に入院し,手術後リハビリを行っている患者の食事摂取カロリーについての報告は少ない。そこで本研究は大腿骨近位部骨折と診断されて急性期病院に入院し,手術を施行した患者の急性期病院入院中の術後食事摂取カロリーとそれに関与する因子について調査することを目的とした。
【方法】
研究デザインは前向き調査研究であり,神戸市内の急性期総合病院3施設で2013年6月から2014年9月までに入院した65歳以上の転倒による大腿骨近位部骨折患者で入院後手術を施行し,術後免荷,嚥下障害,死亡を除外した110名(男性24名,女性86名)を解析対象とした。調査内容は年齢,性別,下腿周径,握力,BMI,入院時血清データ(アルブミン,Hb),Mini Nutritional Assessment-Short Form(以下MNA-SF),受傷前歩行能力,FIMの術後初期評価時の食事動作(以下,FIM食事初期),認知症の有無,術後合併症とした。統計解析は平均摂取カロリー/日(Energy Intake,以下EI)を目的変数として年齢,性別,BMI,入院時血清データ(アルブミン),MNA-SF,受傷前歩行能力,FIM(食事初期),認知症の有無,術後合併症を説明変数として重回帰分析を行った。有意水準は5%未満とした。
【結果】
年齢(84.0±6.9歳),性別(男性24名,女性86名),下腿周径(28.1±3.1cm),握力(13.6±6.1kg),BMI(20.4±3.7kg/m2),アルブミン(3.3±0.7g/dl),Hb(11.3±1.5g/dl),MNA-SF(良好群33名,リスク群58名,低栄養群19名),受傷前歩行能力(独歩64名,杖12名,歩行器7名,伝い歩き27名),認知症の有無(あり49名,なし61名),術後合併症(せん妄31名,その他3名,尿路感染症4名,肺炎2名,なし70名)であった。平均摂取カロリーを目的変数とした重回帰分析の結果,MNA-SF(標準化偏回帰係数0.26,<0.05),性別(3.17,<0.05),FIM食事初期(0.08,<0.001)が有意に関連していた。(R2=0.35.P<0.01)
【考察】
本研究では大腿骨近位部骨折により入院後,手術を施行した高齢な患者の入院中の平均摂取カロリーにMNA-SFと性別とFIM(食事初期)が関与していることが示唆された。この結果,受傷前栄養状態評価を示すMNA-SFが関連したことで,大腿骨近位部骨折に罹患して手術を施行した高齢な患者に対して入院中の食事摂取量の予測と食事を含めた栄養管理が行えるのではないかと考える。また,手術後の栄養管理を適切に行うことで感染症リスクと術後合併症を減少させ,リハビリも順調に行う事ができるのではないかと考える。
【理学療法学研究としての意義】
MNA-SFにより本疾患の術後入院中高齢患者の食事摂取量の予測と入院中の栄養管理に役立てる可能性が示唆された。この事は理学療法士の術後リハビリを順調に進めることにもつながると考える。