第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述39

がん4

Fri. Jun 5, 2015 5:30 PM - 6:30 PM 第12会場 (ガラス棟 G701)

座長:宮崎慎二郎(KKR高松病院 リハビリテーションセンター)

[O-0287] 肺切除術の術前に呼吸理学療法で指導するクッションを用いた排痰練習は,術後の創部痛や咳嗽力に有効か?

吉永龍史1, 蓬原春樹2, 本田真之輔2, 渕香緒里2, 山本さおり2, 臼間康博3 (1.国立病院機構熊本医療センター, 2.国立病院機構宮崎東病院, 3.国立病院機構宮崎東病院外科)

Keywords:肺切除術, 咳嗽力, 呼吸理学療法

【はじめに,目的】
肺切除術の呼吸理学療法は,呼吸器合併症が生じないよう術前から排痰練習や腹式呼吸法の指導を行い,術後は早期に離床を進めていく。この排痰練習はハッフィングと呼ばれ,術後の創部痛の軽減や咳嗽力を向上させるため術創部側にクッションなどを抱え込んで実施している。しかし,この排痰練習の効果について検討した先行研究は見当たらない。よって,本当に有効な呼吸理学療法であるかどうかは検証する必要がある。また,術前から術後における経時的変化を追うことで,排痰練習の効果が有効である時期についても見ていくことは重要である。
本研究の目的は,術前に行われる排痰練習が術後の創部痛および咳嗽力に影響を及ぼすかどうかを経時的に明らかにすることとした。
【方法】
対象は,原発性肺癌に対する肺切除術を施行され,かつ手術前後にわたりリハビリテーションが実施された29例とした。除外基準は,試験開胸の症例とした。基本属性は,男性14名,女性15名,年齢72.2±10.2歳,体重54.6±12.4kg,身長155.5±10.5cm,BMI 22.5±3.9kg/m2であった。
方法は,術前から通常行われているクッションを用いた排痰練習に関する説明と実技指導を実施した。咳嗽力については咳嗽時最大呼吸流量(cough peak flow:CPF)をアセスピークフローメータにフェイスマスクを接続したものを用いて端座位で3回測定後,その最大値を採用した。そして,通常の咳嗽力(以下,普通CPF)と創部の痛みを軽減する目的で行われるクッションを用いた時の咳嗽力(以下,創部保護CPF)の2つのパターンを同日に測定した。また,術後の創部の痛みに関しては,Numeric Rating Scale(以下,NRS)を用い,咳嗽時の痛み(以下,咳嗽時NRS)と創部保護CPF時の痛み(以下,創部保護NRS)についてそれぞれ評価した。なお,CPFおよびNRSの測定順序はそれぞれ乱数表を用いてランダムとした。さらに経時的変化(測定時期)については,術前,術後1日目(POD1),術後4日目(POD4),術後7日目(POD7)および術後14日目(POD14)に評価した。
統計解析は,普通CPFと創部保護CPF,および咳嗽時NRSと創部保護NRSのそれぞれ2要因と測定時期について2要因の対応のある2元配置分散分析を適用後,交互作用あるいは主効果が認められた場合,多重比較法を行った。なお,いずれも有意水準は両側5%とした。
【結果】
普通CPFと創部保護CPFの平均値±標準偏差(L/min)は,それぞれ術前が358±139,366±147,POD1が179±94,196±89,POD4が225±82,250±92,POD7が258±85,285±98,POD14が299±112,310±117であった。普通CPFと創部保護CPFの間(p<0.001)と測定時期(p<0.001)の両者に主効果が認められ,交互作用は認められなかった。多重比較法の結果,術前の普通CPFは,POD1,POD4,POD7,POD14まで有意に低下していた。一方,術前の創部保護CPFは,POD1,POD4,POD7まで有意に低下していたが,POD14の間に有意差を認めなかった。咳嗽時NRSと創部保護NRSの中央値(四分位範囲)は,それぞれPOD1が4(2-5),2(1.75-3),POD4が3(2-4.5),2(1-3),POD7が2(1-3),1(0-2),POD14が1(0-2),1(0-1)であった。咳嗽時NRSと創部保護NRSの間(p<0.001)と測定時期(p<0.001)の両者に主効果が有意であり,交互作用は認めなかった。多重比較法の結果,咳嗽時NRSと創部保護NRSの両者ともに,POD1とPOD14の間,POD4とPOD14の間に有意な低下を認めた。
【考察】
本研究結果より,肺切除の患者に対して術前に実施するクッションを用いた排痰練習は,術後の咳嗽力(CPF)の向上および創部の痛みを減少させる効果があることが示された。さらに,咳嗽力に関して経時的変化でみていくと,術前の普通CPFは,POD1~14まで有意に咳嗽力が低下していたが,創部保護CPFはPOD1~7までであったことから,創部保護CPFの方が早期に術前値と同様の咳嗽力まで回復する可能性がある。一方,創部の痛みを減少させる経時的変化については,咳嗽時NRSと創部保護NRS