第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述39

がん4

Fri. Jun 5, 2015 5:30 PM - 6:30 PM 第12会場 (ガラス棟 G701)

座長:宮崎慎二郎(KKR高松病院 リハビリテーションセンター)

[O-0288] 肺癌葉切除例の年齢の差異による術後身体機能と健康関連QOL変化の関係

市丸勝昭1,4, 堀江淳2,4, 阿波邦彦2,4, 林真一郎3,4, 光岡正浩5 (1.佐賀県医療センター好生館リハビリテーションセンター, 2.京都橘大学健康科学部, 3.高木病院, 4.はがくれ呼吸ケアネット, 5.佐賀県医療センター好生館呼吸器外科)

Keywords:肺癌, 身体機能, 健康関連QOL

【はじめに,目的】
高齢化に伴い,加齢により身体機能が低下している患者に対する肺癌手術も増加し,術後の身体機能の低下が懸念されている。術後の身体機能の低下は,健康関連QOLに影響を与えると考えられる。加齢変化により身体機能が低下している高齢者では,術後の身体機能の回復が遅れ,健康関連QOLの維持が困難なのではないかと考えた。本研究では,肺癌葉切除術後の身体機能と健康関連QOLについて,年齢の違いによる術前,術後,退院後の継時的変化を検討した。
【方法】
対象は,2012年10月から2013年10月までに,当院へ手術治療目的で入院した肺がん肺葉切除患者で,術後合併症のなかった19名(男性9名,女性10名,平均年齢67.8±8.1歳)とした。研究デザインは非対照化前向き比較研究とした。測定項目は,%FVC,FEV1.0%,DLCO,最大呼気口腔内圧,最大吸気口腔内圧,疼痛,握力,膝伸展筋力,10m最速歩行時間,Timed up and go test(TUG),6分間歩行試験,安静時の息切れ,歩行後の息切れ,PeakVO2/Wt,PeakVE,PeakTV,PeakWR,Life Space Assessment,Hospital Anxiety and Depression scale,SF-36v2の身体的側面,精神的側面,役割/社会的側面を測定した。対象者へのリハビリ介入は,術前の排痰指導,入院から退院までに通常の呼吸リハビリテーションと退院時指導を実施した。測定時期は,手術日から1日以上前の時期(術前期),手術日から10日前後経過した時期(術後期),手術日から3か月前後経過した時期(退院期)の,3つの時期に各評価を行った。群分けの方法は,手術実施時の年齢で70歳未満群と70歳以上群に分けた。統計学的解析として,2群の比較と時期の比較は,術前期,術後期,退院期の身体機能とQOLの変化を,分割プロットデザインによる分散分析にて期間の主効果,交互作用の有無を解析した。期間の主効果,交互作用が有意な項目に関して,その後の検定をBonferroni検定で解析した。統計学的解析ソフトはSPSS Ver.21を用いた。帰無仮説の棄却域は有意水準10%未満とした。
【結果】
身体機能の経時的変化として,有意な主効果を認めた項目は,%FVC,疼痛,10m最速歩行時間,6分間歩行距離,安静時の息切れ,歩行後の息切れ,PeakTVであった。術前期と術後期の比較では,%FVC,疼痛,10m最速歩行時間,安静時の息切れ,歩行後の息切れ,PeakTVにおいて有意に悪化していた。術後期と退院期の比較では,安静時の息切れ,10m最速歩行時間が有意な改善を認めた。術前期と退院期の比較では,疼痛,歩行後の息切れが有意に悪化していた。また,有意な交互作用が認められた項目は,10m最速歩行時間,歩行後の息切れであった。DLCO,TUG,安静時の息切れ,PeakTVは,有意ではないものの交互作用を示す傾向にあった。70歳以上群による,術前期と術後期の比較では,10m最速歩行時間,歩行後の息切れ,が悪化し,術前期と退院期の比較では,歩行後の息切れ,PeakTVが悪化していた。QOLの経時的変化としては,有意な主効果を認めた項目は,身体的側面であった。また,有意な交互作用が認められた項目は役割/社会的側面であった。
【考察】
退院期において手術操作後の肺容量の減少による%FVCやPeakTVなどの換気量低下はあるものの,最大運動能力や最大仕事量としてのPeakVO2/Wt,PeakWRに有意な低下は認めなかった。PeakVEは維持していたが,70歳以上群では退院期においても,PeakTVの低下を呼吸回数で代償していたことで運動時の息切れが増加していたと考える。肺葉切除後の息切れは,手術による器質的な肺容量低下と,胸部の疼痛による運動時の機能的な換気量低下が要因であると考える。健康関連QOLにおいて,身体的側面が低下したのは,身体機能の変化が影響したと考える。70歳以上群では役割/社会的側面が低下したことの要因として,抑うつなど精神的や社会的な術後変化を来しやすいためではないかと考える。
【理学療法学研究としての意義】
肺癌葉切除患者の身体機能,健康関連QOL変化に年齢による影響が関与する可能性が示唆された。これにより,疼痛,息切れ,歩行能力の改善に向けた治療アプローチの効果が,高齢者の健康関連QOLにいくらかの影響を与える可能性が期待される。