第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述39

がん4

Fri. Jun 5, 2015 5:30 PM - 6:30 PM 第12会場 (ガラス棟 G701)

座長:宮崎慎二郎(KKR高松病院 リハビリテーションセンター)

[O-0291] 早期非小細胞肺癌に対する胸腔鏡下肺葉切除術後の周術期入院呼吸リハビリテーション

~実現可能性と退院後運動耐容能への影響~

兵頭正浩1, 入江将考1, 濱田和美1, 岸本英孝1, 平川白佳1, 安田学2, 篠原伸二2, 中西良一2 (1.国家公務員共済組合連合会新小倉病院病院リハビリテーション部, 2.国家公務員共済組合連合会新小倉病院病院呼吸器外科)

Keywords:非小細胞肺癌, 胸腔鏡下肺葉切除術, 呼吸リハビリテーション

【目的】
非小細胞肺癌患者(NSCLC)に対する術後呼吸リハビリテーション(呼吸リハ)に関しては,開胸術後を対象とした報告が多く,胸腔鏡下肺葉切除術(Thoracoscopic lobectomy:TL)後の呼吸リハの効果や退院後運動耐容能を検討した報告は殆どない。我々は先行研究において,TL後患者の退院後運動耐容能回復の規定因子が年齢と退院時下肢筋力であることを報告したが,対象から進行肺癌症例を除外していなかった。つまり,術前診断StageII~IVまで含んでおり潜在的に手術侵襲や患者背景における不均質性を生じ,予測精度に課題を残した。そこで今回,進行度の影響を除外するため,対象をStageIの早期NSCLC患者に限定し,周術期入院呼吸リハの退院後運動耐容能への効果を検討することを目的としたfeasibility(実現可能性)studyを行ったので報告する。
【方法】2012年10月から2014年7月に当院において,術前病期StageIのNSCLCと診断され,TL並びに呼吸リハを実施した72名中,退院後(術後30病日:POD30)に6分間歩行試験(6MWT)を測定できた43名(男性:27名(63%),年齢:68歳(47~83))を対象とした。呼吸リハは午前午後の1日2セッションの介入で,術前は評価とオリエンテーションのみで,術後はPOD1に病棟での早期離床(起立,歩行)を,POD2から退院前日までは理学療法室で下肢筋力・持久力トレーニングを中心とした漸増的運動療法を行った。術前と術後に運動耐容能の評価として6MWTを,下肢筋力の評価として体重比膝伸展筋力を測定した。呼吸リハのfeasibilityを検討するために,カルテより後方視的に「POD1での歩行」「セッション履行数」「術後6MWT実施」の各完遂率と呼吸リハに伴う有害事象の件数を調査した。術後経過として胸腔ドレーン抜去日,術後在院日数を抽出した。呼吸リハの退院後運動耐容能への効果とその規定因子を検討するため,退院後6MWTの回復率を測定し「退院後回復率(術前比で100%以上か否か)」を従属変数とし,術前・術後患者因子,手術・腫瘍因子を独立変数とした単変量解析と多変量解析を行った。統計解析にはFisherの正確検定と多重ロジスティック回帰分析を用い,有意水準は5%未満とした。
【結果】
「POD1での歩行」「セッション履行数」「術後6MWT実施」の完遂率はそれぞれ93%,90%,100%であった。呼吸リハに起因した有害事象は0件であった。術後経過は,POD2までの胸腔ドレーン抜去率は72%で,術後在院日数の中央値は9日であった。術後6MWT回復率(%術前比)の中央値は,POD2:71%,POD7:90%,退院後:100%であった。多変量解析の結果,退院後運動耐容能回復の有意な独立因子は,術前肺拡散能(DLCO%)(<80%予測値)[オッズ比;5.70,p=0.0236]とPOD7の下肢筋力(<40%体重比)[オッズ比;5.24,p=0.0218]であった。
【考察】
胸腔鏡による最小侵襲手術や早期胸腔ドレーン抜去によって,術後の早期離床や積極的な運動療法は容易になる。今回,対象を早期NSCLCに限定したことで,進行肺癌に対する手術に伴う過大侵襲や患者背景の影響を除外した上で,TL患者に対する周術期入院呼吸リハのfeasibilityや効果を解析することが出来た。その結果,有害事象を生ずることなく早期歩行及びプログラムの高い完遂率と入院呼吸リハ介入中の速やかな運動耐容能改善を認め,呼吸リハが終了した退院後(POD30)においても,運動耐容能は術前レベルにまで回復していたことから,当院のTL後患者に対する呼吸リハはfeasibleかつ退院後の運動耐容能回復に寄与していたことが示唆された。退院後運動耐容能回復の規定因子に,先行研究で有意であった年齢ではなく,術前DLCO%が独立因子として残ったのは,進行度による年齢因子よりも術前低肺機能の方が重要な因子である事を示唆している。DLCO%低値は肺切除術後アウトカム(合併症,死亡率)の独立因子として多くの研究で証明されており,同様に術後運動耐容能回復においても不良因子であることが明らかになった。下肢筋力は先行研究同様,術前値ではなくPOD7の値が有意であったため,術後筋力低下が退院後の身体活動量減少に影響を及ぼしている可能性がある。本研究の限界は後方視的研究であり,退院後6MWT実施者率が約6割であること。更にリハ非介入の対照群が設けられておらず呼吸リハの単独効果が不明なことである。
【理学療法学研究としての意義】
肺切除患者においては,手術手技の進歩により低侵襲化が進めば,今後在院日数の短縮化によりリハビリ介入期間も制限されてくる。本研究により入院中の介入のみでも社会復帰や術後補助化学療法に支障を来さない事が示唆された。