[O-0312] パーキンソン病患者に対する経頭蓋直流電気刺激(tDCS)が起立・歩行動作に与える効果
―姿勢・動作スピードの改善が見られた2症例の検討―
Keywords:経頭蓋直流電気刺激, パーキンソン病, 歩行
【はじめに,目的】
脳卒中後の運動麻痺の治療として経頭蓋直流電気刺激(Transcranial Direct Current Stimulation:tDCS)の有効性について報告がされている。中枢性運動障害のパーキンソン症候群でも一次運動野を刺激することによる上肢の運動緩慢の改善(Fregni et al, 2006他)や,tDCSによる皮質脊髄性の興奮性の向上(Siebner et al, 2004),パーキンソン病(Parkinson disease:PD)のジストニアに対する有効性(Wu et al, 2008)などの報告が見られる。しかし,本邦ではPDに対するtDCSによる治療効果の報告はまだ少ない。今回,起立・歩行動作障害を呈するPD患者に対し,tDCSを実施し,動作の改善が見られた症例について,報告する。平成26年日本理学療法士協会研究助成の一部を利用して実施した。
【方法】
対象はPDの患者2名,症例Aは75歳,女性,Hoehn & Yahrの分類4で日常的に起立・歩行は困難で介助を要し,すくみ足も顕著であった。症例Bは71歳,女性,Hoehn & Yahrの分類3で自力での起立・歩行は可能であるが補助具を要し,体幹屈曲姿勢が著明であった。方法はtDCSはDC Stimulator(NeuroConn GmbH社製)を利用し,陽極を左運動野,陰極を右前頭部に設置し,1mAの直流電流を20分実施した。刺激前後での評価は,tDCS刺激の前後に,立ち上がり動作と10m歩行テストを実施した。各動作について,前額面・矢状面よりデジタルビデオカメラにて撮影を行い,所要時間の計測を行った。動作分析のため,肩峰・大転子・膝関節・足関節・第5中足骨頭にマーカーを貼付し,撮像データから動作時の体幹・下肢関節角度の算出を行った。tDCS実施前後での計測データの比較を行い,tDCSによる効果について検証した。また,別日にSham刺激前後で同様に測定を行い,tDCSによる効果との比較を行った。
【結果】
tDCS前後での歩行について,速度:症例A 5.4±0.1→11.0±0.4m/min,症例B 7.8±0.2→8.9±0.1m/min,歩行率:A 92.3±7.2→106.4±6.5steps/min,症例B 88.6±0.9→90.2±3.5steps/minと2症例ともに歩行指標の改善が見られた。特に症例Aについて,大幅な歩行速度の増加が見られ,刺激前にはバランス自制困難で介助を要していたが,刺激後には自制内となった。起立動作について,所要時間:症例A 7.6±0.7→5.6±0.6秒,症例B 33.2±12.8→19.6±3.4秒と動作スピードの改善が見られた。また,起立動作の失敗回数について,症例Aにおいて,刺激前4回/2試行であったものが,1回/2試行と動作失敗の減少が見られた。立位姿勢における股関節屈曲角度:症例A 71.8±1.8→74.0±4.7°,症例B 38.5±0.7°→28.5±2.1°と症例Bにおいて伸展方向に姿勢の変化が見られた。Sham刺激前後においてはtDCS実施時に比べ,改善効果は小さい結果となった。
【考察】
tDCS前後でのPD患者における歩行動作と立ち上がり動作の効果について検討した。一次運動野(M1)上に陽極設置し,直流電気刺激を行うことで運動誘発電位の振幅が上昇し,陰極下では反対の効果がある。このように脳皮質の活動性の促通/抑制により,活動のバランスを整えることで歩行・立ち上がり動作の改善に寄与していると考えられる(Krause et al, 2013)。歩行に関しては検討した症例はすくみ足・小刻み歩行が顕著で歩行に時間を要していたが,歩行速度・歩行率の改善はこれらPD特有の症状の改善に効果を示したものと考えられる。同様に立ち上がり動作においても,後方重心と動作緩慢により動作困難であったものが。前方への重心移動や動作の円滑性の改善により,起立動作遂行を可能とし,所要時間の短縮が見られた。このようにtDCSにより運動野を刺激することで,PD特有の症状の改善が認められたのは,一次運動野からの入力刺激によって大脳基底核の入力が増大することや,刺激位置(電極接触位置)から運動野前方の補足運動野へも刺激が波及し,運動プログラムの活性化などが関与した可能性が考えられる。脳刺激部位による特異性に関しては今後とも検討を必要とする。今後さらに症例数を増やして検討していく。
【理学療法学研究としての意義】
tDCSによる脳刺激でPDに対する即時効果として動作遂行能力,動作緩慢に影響することが示唆された。PDに対する脳刺激による治療の可能性を示唆したものであり,今後,詳細な効果の検証を行う上での基盤となると考える。また,その効果や程度を把握することで,その後の理学療法が円滑に実施可能になると考えられる。
脳卒中後の運動麻痺の治療として経頭蓋直流電気刺激(Transcranial Direct Current Stimulation:tDCS)の有効性について報告がされている。中枢性運動障害のパーキンソン症候群でも一次運動野を刺激することによる上肢の運動緩慢の改善(Fregni et al, 2006他)や,tDCSによる皮質脊髄性の興奮性の向上(Siebner et al, 2004),パーキンソン病(Parkinson disease:PD)のジストニアに対する有効性(Wu et al, 2008)などの報告が見られる。しかし,本邦ではPDに対するtDCSによる治療効果の報告はまだ少ない。今回,起立・歩行動作障害を呈するPD患者に対し,tDCSを実施し,動作の改善が見られた症例について,報告する。平成26年日本理学療法士協会研究助成の一部を利用して実施した。
【方法】
対象はPDの患者2名,症例Aは75歳,女性,Hoehn & Yahrの分類4で日常的に起立・歩行は困難で介助を要し,すくみ足も顕著であった。症例Bは71歳,女性,Hoehn & Yahrの分類3で自力での起立・歩行は可能であるが補助具を要し,体幹屈曲姿勢が著明であった。方法はtDCSはDC Stimulator(NeuroConn GmbH社製)を利用し,陽極を左運動野,陰極を右前頭部に設置し,1mAの直流電流を20分実施した。刺激前後での評価は,tDCS刺激の前後に,立ち上がり動作と10m歩行テストを実施した。各動作について,前額面・矢状面よりデジタルビデオカメラにて撮影を行い,所要時間の計測を行った。動作分析のため,肩峰・大転子・膝関節・足関節・第5中足骨頭にマーカーを貼付し,撮像データから動作時の体幹・下肢関節角度の算出を行った。tDCS実施前後での計測データの比較を行い,tDCSによる効果について検証した。また,別日にSham刺激前後で同様に測定を行い,tDCSによる効果との比較を行った。
【結果】
tDCS前後での歩行について,速度:症例A 5.4±0.1→11.0±0.4m/min,症例B 7.8±0.2→8.9±0.1m/min,歩行率:A 92.3±7.2→106.4±6.5steps/min,症例B 88.6±0.9→90.2±3.5steps/minと2症例ともに歩行指標の改善が見られた。特に症例Aについて,大幅な歩行速度の増加が見られ,刺激前にはバランス自制困難で介助を要していたが,刺激後には自制内となった。起立動作について,所要時間:症例A 7.6±0.7→5.6±0.6秒,症例B 33.2±12.8→19.6±3.4秒と動作スピードの改善が見られた。また,起立動作の失敗回数について,症例Aにおいて,刺激前4回/2試行であったものが,1回/2試行と動作失敗の減少が見られた。立位姿勢における股関節屈曲角度:症例A 71.8±1.8→74.0±4.7°,症例B 38.5±0.7°→28.5±2.1°と症例Bにおいて伸展方向に姿勢の変化が見られた。Sham刺激前後においてはtDCS実施時に比べ,改善効果は小さい結果となった。
【考察】
tDCS前後でのPD患者における歩行動作と立ち上がり動作の効果について検討した。一次運動野(M1)上に陽極設置し,直流電気刺激を行うことで運動誘発電位の振幅が上昇し,陰極下では反対の効果がある。このように脳皮質の活動性の促通/抑制により,活動のバランスを整えることで歩行・立ち上がり動作の改善に寄与していると考えられる(Krause et al, 2013)。歩行に関しては検討した症例はすくみ足・小刻み歩行が顕著で歩行に時間を要していたが,歩行速度・歩行率の改善はこれらPD特有の症状の改善に効果を示したものと考えられる。同様に立ち上がり動作においても,後方重心と動作緩慢により動作困難であったものが。前方への重心移動や動作の円滑性の改善により,起立動作遂行を可能とし,所要時間の短縮が見られた。このようにtDCSにより運動野を刺激することで,PD特有の症状の改善が認められたのは,一次運動野からの入力刺激によって大脳基底核の入力が増大することや,刺激位置(電極接触位置)から運動野前方の補足運動野へも刺激が波及し,運動プログラムの活性化などが関与した可能性が考えられる。脳刺激部位による特異性に関しては今後とも検討を必要とする。今後さらに症例数を増やして検討していく。
【理学療法学研究としての意義】
tDCSによる脳刺激でPDに対する即時効果として動作遂行能力,動作緩慢に影響することが示唆された。PDに対する脳刺激による治療の可能性を示唆したものであり,今後,詳細な効果の検証を行う上での基盤となると考える。また,その効果や程度を把握することで,その後の理学療法が円滑に実施可能になると考えられる。