[O-0334] 脳損傷後片麻痺者におけるpropulsion impulseの特性
ステップ動作と歩行機能との差異
キーワード:片麻痺, 歩行, ステップ動作
【はじめに,目的】
片麻痺者の歩行機能改善は,リハビリテーションにおいて重要な目標である。歩行の力学的特性と運動機能との関連については多くの研究があり,麻痺側の足関節底屈,膝関節屈曲,股関節屈曲の最大筋力と歩行速度との関連が報告されている(Nadeau 1999, Hsu 2003, Kim 2003, Nasciutti-Prudente 2009)。さらに,歩行立脚期に産出される床反力前後成分のうち前方推進力は,対側下肢の遊脚期に体幹を前方に推進させるエネルギーとなり,歩行速度と関連することが報告されている(Bowden 2006)。一方で,非麻痺側下肢での最大前方ステップ動作は,麻痺側下肢による荷重の前方移動能力を反映すると予想されるが,ステップ動作における力学的特性については十分に検証されていない。本研究の目的は,片麻痺者における最大前方ステップ動作の力学的特性を検証し,筋力および歩行能力との関連について明らかにすることである。
【方法】
対象は,地域在住の脳損傷後片麻痺者11名(53.7±14.2歳,男性7名,女性4名,発症後7.7±4.6年,Brunnstrom recovery stageIII3名,IV4名,V4名)とし,歩行と最大前方ステップ動作における床反力前方成分を測定した。歩行課題では,3m歩行路の中央に床反力計(KISTLER社製)を設置し,対象者に裸足で歩行補助具を使用せずに,快適速度と最大速度の2条件で歩行するように指示した。課題は2回ずつ実施し,歩行速度と麻痺側および非麻痺側下肢の床反力成分を計測し,立脚期の前方推進力の積分値(propulsion impulse:PI)を算出した。最大前方ステップ課題では,床反力計上での裸足での安静立位を開始肢位とし,対象者に非麻痺側下肢をできるだけ前方にステップするように指示した。課題は3回実施し,ステップ長と麻痺側下肢の床反力成分を計測し,麻痺側単脚支持期でのPIを算出した。PIはすべて体重で正規化し,各課題の平均値を求めた。筋力測定では,徒手筋力計(ANIMA社製)を使用し,両側の膝関節伸展と屈曲,足関節背屈と底屈の最大等尺性筋力を計測して体重で正規化し,2回計測したうちの最大値を採用した。また,膝関節伸展と足関節背屈の最大筋力の合計値を下肢前面筋力,膝関節屈曲と足関節底屈の最大筋力の合計値を下肢後面筋力と定義した。統計解析では,歩行課題とステップ課題における各パラメーターおよび下肢前面筋力と後面筋力との関係性をSpearmanの順位相関係数を用いて検討した(有意水準5%)。
【結果】
歩行課題では,最大速度のみ歩行時の非麻痺側PIと有意な相関を示した(r=0.63)。一方,ステップ課題では,ステップ長とステップ時の麻痺側PIとの間に有意な相関を認めた(r=0.66)。また,ステップ時の麻痺側PIは麻痺側下肢後面筋力と有意に関連していた(r=0.63)。快適および最速歩行ともに,歩行時の麻痺側PIとステップ課題の麻痺側PIとの間に有意な関連は認めなかった。
【考察】
ステップ課題で麻痺側PIがステップ長および麻痺側下肢後面筋力と関連していたことは,麻痺側PIが下肢後面筋での蹴り出しにより,非麻痺側下肢を最大に前方ステップできる能力を反映する指標になることを示している。実際の歩行では,快適速度は両下肢のPIと関連せず,最大速度のみ非麻痺側PIと関連していた。快適歩行では両下肢の最大能力を発揮する必要はなかったため,PIおよび下肢最大筋力と関連しなかったと推察される。一方,最速歩行では非麻痺側下肢の前方推進力に依存しているため,非麻痺側でのみ関連が認められたと考えられた。Bowden(2006)は,本研究とは異なり,片麻痺者の歩行速度は麻痺側PIと相関すると報告している。先行研究に比べて,本研究では発症からの期間が長い者を対象にしているため,非麻痺側下肢による代償が大きかった可能性がある。代償的な歩行を行っている場合,ステップ課題で麻痺側PIを大きくできたとしても,歩行時の麻痺側PIが増加するとは限らないことが示唆された。すなわち,ステップ時の麻痺側PIで示された潜在的な能力を歩行に反映できるような理学療法アプローチが必要であることが示された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の意義は,片麻痺者における歩行時の代償性と麻痺側下肢の潜在的な運動機能との関連を定量的に示していることである。本研究により,片麻痺者の歩行における代償性の特性を示すことができたと考える。
片麻痺者の歩行機能改善は,リハビリテーションにおいて重要な目標である。歩行の力学的特性と運動機能との関連については多くの研究があり,麻痺側の足関節底屈,膝関節屈曲,股関節屈曲の最大筋力と歩行速度との関連が報告されている(Nadeau 1999, Hsu 2003, Kim 2003, Nasciutti-Prudente 2009)。さらに,歩行立脚期に産出される床反力前後成分のうち前方推進力は,対側下肢の遊脚期に体幹を前方に推進させるエネルギーとなり,歩行速度と関連することが報告されている(Bowden 2006)。一方で,非麻痺側下肢での最大前方ステップ動作は,麻痺側下肢による荷重の前方移動能力を反映すると予想されるが,ステップ動作における力学的特性については十分に検証されていない。本研究の目的は,片麻痺者における最大前方ステップ動作の力学的特性を検証し,筋力および歩行能力との関連について明らかにすることである。
【方法】
対象は,地域在住の脳損傷後片麻痺者11名(53.7±14.2歳,男性7名,女性4名,発症後7.7±4.6年,Brunnstrom recovery stageIII3名,IV4名,V4名)とし,歩行と最大前方ステップ動作における床反力前方成分を測定した。歩行課題では,3m歩行路の中央に床反力計(KISTLER社製)を設置し,対象者に裸足で歩行補助具を使用せずに,快適速度と最大速度の2条件で歩行するように指示した。課題は2回ずつ実施し,歩行速度と麻痺側および非麻痺側下肢の床反力成分を計測し,立脚期の前方推進力の積分値(propulsion impulse:PI)を算出した。最大前方ステップ課題では,床反力計上での裸足での安静立位を開始肢位とし,対象者に非麻痺側下肢をできるだけ前方にステップするように指示した。課題は3回実施し,ステップ長と麻痺側下肢の床反力成分を計測し,麻痺側単脚支持期でのPIを算出した。PIはすべて体重で正規化し,各課題の平均値を求めた。筋力測定では,徒手筋力計(ANIMA社製)を使用し,両側の膝関節伸展と屈曲,足関節背屈と底屈の最大等尺性筋力を計測して体重で正規化し,2回計測したうちの最大値を採用した。また,膝関節伸展と足関節背屈の最大筋力の合計値を下肢前面筋力,膝関節屈曲と足関節底屈の最大筋力の合計値を下肢後面筋力と定義した。統計解析では,歩行課題とステップ課題における各パラメーターおよび下肢前面筋力と後面筋力との関係性をSpearmanの順位相関係数を用いて検討した(有意水準5%)。
【結果】
歩行課題では,最大速度のみ歩行時の非麻痺側PIと有意な相関を示した(r=0.63)。一方,ステップ課題では,ステップ長とステップ時の麻痺側PIとの間に有意な相関を認めた(r=0.66)。また,ステップ時の麻痺側PIは麻痺側下肢後面筋力と有意に関連していた(r=0.63)。快適および最速歩行ともに,歩行時の麻痺側PIとステップ課題の麻痺側PIとの間に有意な関連は認めなかった。
【考察】
ステップ課題で麻痺側PIがステップ長および麻痺側下肢後面筋力と関連していたことは,麻痺側PIが下肢後面筋での蹴り出しにより,非麻痺側下肢を最大に前方ステップできる能力を反映する指標になることを示している。実際の歩行では,快適速度は両下肢のPIと関連せず,最大速度のみ非麻痺側PIと関連していた。快適歩行では両下肢の最大能力を発揮する必要はなかったため,PIおよび下肢最大筋力と関連しなかったと推察される。一方,最速歩行では非麻痺側下肢の前方推進力に依存しているため,非麻痺側でのみ関連が認められたと考えられた。Bowden(2006)は,本研究とは異なり,片麻痺者の歩行速度は麻痺側PIと相関すると報告している。先行研究に比べて,本研究では発症からの期間が長い者を対象にしているため,非麻痺側下肢による代償が大きかった可能性がある。代償的な歩行を行っている場合,ステップ課題で麻痺側PIを大きくできたとしても,歩行時の麻痺側PIが増加するとは限らないことが示唆された。すなわち,ステップ時の麻痺側PIで示された潜在的な能力を歩行に反映できるような理学療法アプローチが必要であることが示された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の意義は,片麻痺者における歩行時の代償性と麻痺側下肢の潜在的な運動機能との関連を定量的に示していることである。本研究により,片麻痺者の歩行における代償性の特性を示すことができたと考える。