第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述45

管理運営3

Sat. Jun 6, 2015 8:15 AM - 9:15 AM 第8会場 (ガラス棟 G402)

座長:薄直宏(東京女子医科大学八千代医療センター リハビリテーション室)

[O-0343] 急性期リハビリテーションにおける院内連携

転倒転落アセスメントスコアシートの分析と予測式の考案

立野伸一, 村田竜一郎 (熊本赤十字病院)

Keywords:院内連携, 急性期リハビリテーション, 転倒転落

【はじめに,目的】急性期リハビリテーション体制強化プロジェクトの一環として,看護部と連携し,一向に減少しない転倒・転落患者の要因を分析し対策を行うこととした。そこで,従来,看護部で用いられてきた転倒・転落アセスメントスコアシート(AS)に関して,調査・分析を行い,従来の転倒・転落対策下における転倒・転落の予後予測の可能性を検討した。
【方法】2013年1月から2013年4月の4ヵ月間に,転倒・転落の報告が多かったA病棟に入院となった全例(601名)を対象とし,ASの38項目について,後方視的に調査を行った。本検討では,入院中に転倒・転落の報告があった者を転倒・転落あり,報告がなかった者を転倒・転落なしとし,各項目の関連を単変量解析(Wilcoxonの順位和検定,カイ2乗検定)で検討,次に,名義ロジスティック回帰分析を行い,転倒ありに対するオッズ比を算出,関連性の高い項目を説明変数として,最尤推定法に基づきロジスティックモデルへの当てはめを行った。尚,モデルに加える説明変数の選択方法は,変数削除の基準p値をp>0.1(尤度比検定)としてステップワイズ変数減少法を用いた。また,回帰モデルの妥当性については,自由度調整R2,Lack of Fit(LOF),Receiver Operating Characteristiccurve(ROC)により,回帰診断を行った。最後に,作成した予測式から得られる予測値と実際の転倒・転落の可否の一致した割合を算出し,予測式の有効性を確認した。解析には,統計ソフトJMP8.02(SAS Institute Inc)を使用し,P<0.05を以って統計学的に優位とした。
【結果】平均年齢は66.3±18.1歳,平均在院日数12.0±9.2日,入院中の転倒・転落あり24名(4.0%)無しが577名(96.0%)であった。ASの38項目中,転倒したことがある,転落したことがある,ふらつき,不穏行動(多動・徘徊),見当識障害,判断力・理解力・注意力・記憶力の低下,車椅子・杖・歩行器使用,移動に介助が必要,付属品(点滴・O2導入・ドレナージ・チューブ類)の9項目で転倒・転落との関連性を示し,有意差を認めた。更に,ステップワイズ法とロジスティック回帰分析を用い関連性の高い,転倒したことがある,転落したことがある,ふらつき,見当識障害,移動に介助が必要の5項目からなる予測式を考案した。考案した転倒ありの予測式の感度,特異度は75.0%,75.9%であり,有効度は75.9%であった。
【考察】1.ASを用いた転倒・転落ありの予測式の考案:ステップワイズ法とロジスティック回帰分析を用いて,転倒したことがある,転落したことがある,ふらつき,見当識障害,移動に介助が必要,からなる予測式を本検討で考案した。考案した予測式の感度・特異度は75.0%,75.9%であり,有効度は75.9%であった。本検討で考案した予測式は当院A病棟に入院する全ての患者における急性期入院中の転倒・転落の可否を予測するうえで有用な予測式であったと考える。2.AS改定案の提案について:今回の検討にて,従来の転倒・転落対策を行うことで,当院A病棟に入院する患者の96.0%の患者の転倒・転落を予防することに成功していることが明らかになった。しかし,従来の対策では,残りの4.0%(24名)に転倒・転落をきたしていることから,ASの活用法の再検討と新たな対策を追加する必要性があると考えられた。そこで,ASの改定案を表8に示す。チェック項目や仕様は従来のASと同様だが,右下の危険度の下に転倒率とリスクの2項目を追加している。転倒率は,今回の検討で得られた転倒・転落の予測式を関数として,あらかじめ登録して置き,従来のように各項目にチェックをつけることでパーセンテージを表示するように設定した。次に,リスクは転倒・転落の予測式において,転倒・転落する確率がcutt off値の5.7%を超えた際に,「高」と表示し,5.7%~1.5%の場合を「中」,0.6%の場合「低」と表示するように設定した。
【理学療法学研究としての意義】
急性期リハにおいて,救急外来や手術直後より如何に内科的,外科的,精神的合併症の発症を抑え,早期に全身状態の安定を図り厳密なリスク管理下に積極的リハを施行することが重要である。その為には入院直後より「全職員でリハに携わる」という職員の意識が必要であり,その啓蒙の為にも院内におけるリハ科の連携に対する意識は高いものでなければならない。今回は,その一つの手段として転倒・転落に関する院内連携を視野に入れ本研究を行った。今後も多方面での連携を模索し,貢献することで,急性期リハの充実強化を進めていきたい。