第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述47

人体構造・機能情報学1

2015年6月6日(土) 10:15 〜 11:15 第8会場 (ガラス棟 G402)

座長:坂本美喜(北里大学 医療衛生学部 理学療法学専攻)

[O-0359] 不動によって惹起される皮膚性拘縮における線維化の発生メカニズムに関する検討

後藤響1,2, 坂本淳哉3, 佐々部陵2,4, 本田祐一郎2,4, 近藤康隆5, 片岡英樹1, 中野治郎3, 沖田実2 (1.社会医療法人長崎記念病院リハビリテーション部, 2.長崎大学大学院医歯薬学総合研究科医療科学専攻リハビリテーション科学講座運動障害リハビリテーション学分野, 3.長崎大学大学院医歯薬学総合研究科保健学専攻理学・作業療法学講座理学療法学分野, 4.長崎大学病院リハビリテーション部, 5.日本赤十字社長崎原爆諫早病院リハビリテーション科)

キーワード:皮膚性拘縮, 筋線維芽細胞, TGF‐β1

【はじめに,目的】
われわれはラット膝関節屈曲拘縮モデルを用いたこれまでの検索において,不動によって惹起される皮膚性拘縮の病態の一つとして真皮から皮下組織における線維性結合組織の増生,すなわち線維化の発生を見出している。ただ,これは組織所見と画像解析による半定量解析の結果であり,その詳細については明らかにできておらず検討課題となっていた。一方,皮膚性拘縮が惹起されることが知られている強皮症では,皮膚の線維化の発生メカニズムに関する分子機構の解明が進んでおり,具体的には形質転換成長因子(transforming growth factor;TGF)-β1の発現の増加を介した筋線維芽細胞の発現増加に伴う過剰なコラーゲン増生が関与していることが明らかにされている。つまり,強皮症における皮膚性拘縮の発生メカニズムに関する知見を参考にすると,不動状態に曝された皮膚においてもTGF-β1の発現が増加しており,これを介して筋線維芽細胞が増加することで過剰なコラーゲン増生が生じているのではないかと予想される。そこで,本研究では不動によって惹起される皮膚性拘縮の発生メカニズムの分子機構の解明を目的として,ラット膝関節屈曲拘縮モデルの皮膚におけるTGF-β1,筋線維芽細胞ならびに皮膚を構成する主要なコラーゲンであるタイプI・IIIコラーゲンの変化について免疫組織学的・分子生物学的手法を用いて検討した。
【方法】
実験動物には12週齢のWistar系雄性ラット12匹を用いて,これらを無作為に両側股・膝関節最大屈曲位,足関節最大底屈位にて4週間ギプスで不動化する不動群(n=7)と,不動群と週齢を合わせるために16週齢まで無処置で通常飼育する対照群(n=5)に振り分けた。4週間の実験終了後は,麻酔下にて両側膝関節後面の皮膚を採取し,右側試料については4%パラホルムアルデヒドで組織固定した後に通法のパラフィン包埋を行い,連続横断切片を作製し,筋線維芽細胞のマーカーであるα-smooth muscle actin(SMA)に対する免疫組織化学的染色に供した。そして,得られた染色像を検鏡した後,コンピューター内に取り込み,画像処理ソフトを用いて真皮から皮下組織における血管内皮細胞および毛包内に存在する細胞を除く全細胞数に対するα-SMA陽性細胞の出現率を計測した。一方,左側試料についてはRNA laterに24時間以上浸漬し,-80℃で保存した後,RT-PCR法にてタイプI・IIIコラーゲンmRNAおよびTGF-β1 mRNAの発現量を検索した。なお,internal controlにはglyceraldehydes 3-phosphate dehydrogenase(GAPDH)を採用した。統計学的解析には対応のないt検定を採用し,有意水準は5%未満とした。
【結果】
タイプI・IIIコラーゲンmRNAの発現量については,いずれも不動群は対照群と比べて有意に高値を示した。また,α-SMA陽性細胞の出現率およびTGF-β1 mRNAの発現量についても,不動群は対照群と比べて有意に高値を示した。
【考察】
今回の結果と前述した自験例の結果を併せて考えると,不動状態に曝された皮膚ではタイプI・IIIコラーゲンが過剰増生することで線維化が発生すると推察され,この変化が不動によって惹起される皮膚性拘縮の主要な病態と考えられる。そして,不動群においてはα-SMA陽性細胞の出現率とTGF-β1 mRNAの発現量がいずれも増加しており,このことはTGF-β1の発現増加を介した筋線維芽細胞の増加がコラーゲンの過剰増生に関与している可能性を示唆している。つまり,不動によって惹起される皮膚性拘縮においても,強皮症の場合と同様の分子機構が線維化の発生メカニズムの一端を担っていると推察される。ただ,今回の研究では不動4週における横断的検索しか行えておらず,今後は異なる不動期間を設定した縦断的検索を行い,上記の分子機構を詳細に検討する予定である。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,不動によって惹起される皮膚性拘縮の病態の一つである皮膚の線維化の発生メカニズムについて検討したものであり,今回得られた結果は拘縮の病態および発生メカニズムの解明,ひいては治療手段の確立の一助となる成果である。