[O-0375] 学際的アプローチによるペインマネジメントプログラム参加者における痛みの主観的改善度に影響を及ぼす因子の検討
キーワード:慢性痛, ペインマネジメントプログラム, 主観的改善度
【はじめに,目的】我々は平成23年より,難治性の慢性痛患者に対する学際的アプローチによるペインマネジメントプログラムを,「慢性痛教室」の名称で実施している。このプログラムは,諸外国で広く実施されているプログラムを参考に,認知行動療法と運動療法を基盤として立案したものである。第49回日本理学療法学術大会において,本プログラムによる効果について効果量を用いて分析し,痛みの強さ,破局的思考,生活障害度,自己効力感,QOL,柔軟性,日常生活動作,歩行機能,持久力などの改善に大きな効果量を認めたことを報告した。今回,プログラム参加者における,痛みの主観的改善度に影響を及ぼす因子について検討したので報告する。
【方法】対象は,平成23年10月から平成26年9月までに開催した本プログラムの参加者48名(男性17名,女性31名),平均年齢64.8歳(27~81歳),平均罹患期間8.3年(1~50年)である。1グループの定員を5~7名とし,痛みに関する講義とエクササイズを組み合わせ,週1回,全9回のスケジュールで実施した。講義内容は痛みのメカニズム,コーピング,ペーシング,睡眠,栄養などであり,医師(整形外科,精神科,麻酔科),理学療法士,管理栄養士が担当した。エクササイズはリラクセーション,ストレッチング,筋力強化,エルゴメーター,水中ウォーキングなどで構成し,医師(整形外科),理学療法士,トレーナーが担当した。またプログラム開始時及び終了時に,痛み・身体機能評価を実施した。痛みの評価は,痛みの強さ:Visual Analog Scale(VAS),生活障害度:Pain Disability Assessment Scale(PDAS),不安・抑うつ:Hospital Anxiety and Depression scale(HAD不安,HAD抑うつ),破局的思考:Pain Catastrophizing Scale(PCS),自己効力感:Pain Self-Efficacy Questionnaire(PSEQ)などの質問票を使用した。身体機能評価は,体重,長座体前屈(前屈),開眼片脚立位保持時間(片脚立位),10mジグザグ歩行(ジグザグ歩行),起居動作テスト(起居動作),身辺作業能力テスト(身辺作業),6分間歩行距離(6MD)などを計測した。終了時に,痛みの主観的改善度(1:非常に悪化,2:やや悪化,3:わずかに悪化,4:変わらない,5:わずかに改善,6:やや改善,7:非常に改善)の評価を行い,改善群(5~7),不変群(4),悪化群(1~3)の3群に分類し,開始時における属性,痛み・身体機能評価の群間比較,開始時及び終了時における痛み・身体機能評価の群内比較を実施した。統計処理は一元配置分散分析,二元配置分散分析,Fisher’s PLSDを使用し,危険率を5%未満とした。
【結果】改善群(26名),不変群(13名),悪化群(9名)において,年齢,罹患期間などに有意差は認めなかった。また開始時における痛み・身体機能評価の群間比較では,VAS,PDAS,HAD不安,HAD抑うつ,PCS,起居動作において,改善群が悪化群に比べ有意に良好な値を認めた(p<0.05)。開始時及び終了時における群内比較では,VAS,PDAS,HAD不安,HAD抑うつ,前屈,片脚立位,ジグザグ歩行,起居動作,身辺作業,6MDにおいて全ての群に有意な改善を認めた(p<0.05)。またPCS,PSEQにおいて,改善群,不変群に有意な改善を認めた(p<0.01)が,悪化群に有意な変化を認めなかった。なお全ての評価項目において,交互作用は認めなかった。
【考察】悪化群では,開始時の痛み,生活障害度,不安,抑うつ,破局的思考が強く,日常生活動作が不良である傾向を認め,また破局的思考や自己効力感のみが有意な改善を示さなかったことから,破局的思考,自己効力感が,痛みの主観的改善度に影響を及ぼす因子である可能性が推察される。破局的思考は現在及び将来の痛みに起因する障害を過大に見積り,そのような考えに囚われてしまう痛み認知の歪みである。悪化群ではこの思考が強く,痛みの強さや生活障害度,不安,抑うつ,身体機能の改善に関わらず,再発などに対する過度の恐怖から破局的思考,自己効力感の改善に至らず,痛みの主観的な改善感を得られなかったと考える。このようなケースに対しては,プログラム終了後もフォローを継続し,痛みの捉え方や注意の改善,コーピングスキルの習熟を図り,痛みに対する恐怖や囚われを軽減することが重要であると考える。
【理学療法学研究としての意義】本研究は,難治性の慢性痛患者における痛みの主観的改善度に影響を及ぼす因子を明らかにしたものであり,慢性痛患者に対する治療アプローチの一助になると考える。
【方法】対象は,平成23年10月から平成26年9月までに開催した本プログラムの参加者48名(男性17名,女性31名),平均年齢64.8歳(27~81歳),平均罹患期間8.3年(1~50年)である。1グループの定員を5~7名とし,痛みに関する講義とエクササイズを組み合わせ,週1回,全9回のスケジュールで実施した。講義内容は痛みのメカニズム,コーピング,ペーシング,睡眠,栄養などであり,医師(整形外科,精神科,麻酔科),理学療法士,管理栄養士が担当した。エクササイズはリラクセーション,ストレッチング,筋力強化,エルゴメーター,水中ウォーキングなどで構成し,医師(整形外科),理学療法士,トレーナーが担当した。またプログラム開始時及び終了時に,痛み・身体機能評価を実施した。痛みの評価は,痛みの強さ:Visual Analog Scale(VAS),生活障害度:Pain Disability Assessment Scale(PDAS),不安・抑うつ:Hospital Anxiety and Depression scale(HAD不安,HAD抑うつ),破局的思考:Pain Catastrophizing Scale(PCS),自己効力感:Pain Self-Efficacy Questionnaire(PSEQ)などの質問票を使用した。身体機能評価は,体重,長座体前屈(前屈),開眼片脚立位保持時間(片脚立位),10mジグザグ歩行(ジグザグ歩行),起居動作テスト(起居動作),身辺作業能力テスト(身辺作業),6分間歩行距離(6MD)などを計測した。終了時に,痛みの主観的改善度(1:非常に悪化,2:やや悪化,3:わずかに悪化,4:変わらない,5:わずかに改善,6:やや改善,7:非常に改善)の評価を行い,改善群(5~7),不変群(4),悪化群(1~3)の3群に分類し,開始時における属性,痛み・身体機能評価の群間比較,開始時及び終了時における痛み・身体機能評価の群内比較を実施した。統計処理は一元配置分散分析,二元配置分散分析,Fisher’s PLSDを使用し,危険率を5%未満とした。
【結果】改善群(26名),不変群(13名),悪化群(9名)において,年齢,罹患期間などに有意差は認めなかった。また開始時における痛み・身体機能評価の群間比較では,VAS,PDAS,HAD不安,HAD抑うつ,PCS,起居動作において,改善群が悪化群に比べ有意に良好な値を認めた(p<0.05)。開始時及び終了時における群内比較では,VAS,PDAS,HAD不安,HAD抑うつ,前屈,片脚立位,ジグザグ歩行,起居動作,身辺作業,6MDにおいて全ての群に有意な改善を認めた(p<0.05)。またPCS,PSEQにおいて,改善群,不変群に有意な改善を認めた(p<0.01)が,悪化群に有意な変化を認めなかった。なお全ての評価項目において,交互作用は認めなかった。
【考察】悪化群では,開始時の痛み,生活障害度,不安,抑うつ,破局的思考が強く,日常生活動作が不良である傾向を認め,また破局的思考や自己効力感のみが有意な改善を示さなかったことから,破局的思考,自己効力感が,痛みの主観的改善度に影響を及ぼす因子である可能性が推察される。破局的思考は現在及び将来の痛みに起因する障害を過大に見積り,そのような考えに囚われてしまう痛み認知の歪みである。悪化群ではこの思考が強く,痛みの強さや生活障害度,不安,抑うつ,身体機能の改善に関わらず,再発などに対する過度の恐怖から破局的思考,自己効力感の改善に至らず,痛みの主観的な改善感を得られなかったと考える。このようなケースに対しては,プログラム終了後もフォローを継続し,痛みの捉え方や注意の改善,コーピングスキルの習熟を図り,痛みに対する恐怖や囚われを軽減することが重要であると考える。
【理学療法学研究としての意義】本研究は,難治性の慢性痛患者における痛みの主観的改善度に影響を及ぼす因子を明らかにしたものであり,慢性痛患者に対する治療アプローチの一助になると考える。