第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述50

人工股関節1

Sat. Jun 6, 2015 10:15 AM - 11:15 AM 第11会場 (ガラス棟 G610)

座長:吉田佳弘(日本赤十字社長崎原爆病院 リハビリテーション科)

[O-0378] 人工股関節全置換術後の靴下着脱動作について

―術後1年における着脱方法と獲得に必要な股関節可動域―

二木亮1, 高山正伸1, 小西将広1, 陳維嘉2, 久賀太2 (1.相生会杉岡記念病院リハビリテーション部, 2.相生会杉岡記念病院整形外科)

Keywords:人工股関節全置換術, 靴下着脱動作, 関節可動域

【はじめに】
人工股関節全置換術(THA)後の靴下着脱動作の獲得は患者の日常生活活動(ADL)だけでなく満足度の向上にも影響を及ぼす重要な動作である。我々はできるADL動作として後側方進入法THA後早期において股関節屈曲開排動作(以下,開排動作)にて靴下着脱動作を獲得するためには,股屈曲85度以上もしくは股屈曲+外旋110度以上の可動域が必要であることを報告した。しかしながら術後可動域は股屈曲で術後1年,外旋では2年以上改善が認められたとの報告もあり,可動域の増加に伴い退院後に患者がどのような方法を獲得し靴下着脱を行っているか定かではない。そこで本研究ではしているADLとしてTHA後1年における靴下着脱方法とその動作獲得に必要な股関節可動域について検討した。

【対象と方法】
2011年1月から2013年9月までに当院にてTHAを施行した症例のうち,術後1年評価が可能であった63症例67関節(年齢65.7±8.2歳,男性8関節,女性59関節)を対象とした。手術方法は,全例後側方進入法であり術後1年経過までに脱臼などの合併症は認められなかった。評価項目は股関節角度(屈曲,外旋)とし角度の計測は他動にて柄の長いゴニオメーターを使用し日本整形外科学会および日本リハビリテーション医学会の方法に準じて測定した。あわせて股屈曲角度と股外旋角度の和を算出し股屈曲+外旋角度とした。
靴下着脱動作は1)開排動作にて着脱する方法(開排法),2)股関節屈曲にて着脱する方法(屈曲法),3)それ以外の立位や股関節内旋位,ソックスエイドなどの自助具を用いて着脱する方法(別法)の3つのパターンに分類し術後1年評価時に実際に行っている動作を記録した。統計学的検定は有意水準を5%未満とし,分散分析を用いて各方法における股屈曲・股外旋・股屈曲+外旋角度を比較した。多重比較にはBonferroni/Dunn法を用いた。

【結果】
THA後1年における靴下着脱動作方法の割合は開排法33名(49%),屈曲法28名(41%),別法6名(10%)であった。各着脱方法における股屈曲角度の平均値および標準偏差はそれぞれ開排法97.0±8.2度,屈曲法105.5±5.3度,別法71.6±9.3度であった。股外旋角度のそれは開排法38.3±8.4度,屈曲法38.7±7.7度,別法23.3±9.8度であった。股屈曲+外旋角度のそれは開排法135.3±13.5度,屈曲法144.2±11.2度,別法95.0±11.8度であった。いずれの角度も各方法間において有意な差が認められた。多重比較の結果,屈曲法の股屈曲,股屈曲+外旋角度は開排法,別法と比較して有意に高値であり,開排法は別法よりも有意に高値であった。股外旋角度は開排法と屈曲法が別法と比較して有意に高値であった。
股屈曲100度の15名においては7名(46%)が開排法で8名(56%)が屈曲法であった。屈曲100度超の25名では開排法7名(28%),屈曲法18名(72%)と屈曲法の割合が多かった。屈曲100度未満の27名では屈曲法は2名(7%)だけであり別法6名(22%),開排法19名(61%)と開排法の割合が多かった。股屈曲+外旋105度以下の症例はすべて別法であり,110度以上では開排法で着脱を行っていた。

【考察】
股屈曲100度以上の症例では開排法と屈曲法が混在していたことから,股屈曲角度が良好で股外旋角度が不良であれば屈曲法での着脱を,どちらも良好であれば症例にとって好ましい方法を選択できることが示唆された。股屈曲100度以下では開排法の割合が多く,股屈曲+外旋105度以下の症例はすべて別法であり,110度以上では開排法で着脱を行っていたことから股屈曲角度が不良であっても外旋角度が良好であれば開排法での着脱をおこなうことができる一方で股屈曲,外旋角度がともに不良であれば立位での着脱や,ソックスエイドなどの自助具を用いて着脱する方法といった股関節の可動性を重要としない動作方法を選択しなければならなくなると思われる。いずれにせよ股屈曲,外旋角度はTHA後におけるしているADL動作としての靴下着脱方法を決定する因子となることが推察された。
本研究の結果から,THA後1年における靴下着脱動作獲得に必要な可動域として開排法は股屈曲+外旋110度以上,屈曲法では股屈曲100度以上が一つの指標になると思われる。

【理学療法学研究としての意義】
本研究によって得られた知見はTHA後1年におけるしているADLとしての靴下着脱動作に必要な股関節角度について具体的な目標数値を提供でき,患者指導の一助となりうる。