第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述50

人工股関節1

Sat. Jun 6, 2015 10:15 AM - 11:15 AM 第11会場 (ガラス棟 G610)

座長:吉田佳弘(日本赤十字社長崎原爆病院 リハビリテーション科)

[O-0380] 片側人工股関節置換術後の筋力低下が階段昇段時の床反力垂直分力に与える影響

―膝関節伸展筋力に着目して―

有馬泰昭1, 森公彦1, 脇田正徳1, 久保田良1, 金光浩1, 長谷公隆1, 飯田寛和2 (1.関西医科大学附属枚方病院リハビリテーション科, 2.関西医科大学医学部整形外科)

Keywords:階段昇段, 床反力垂直分力, 下肢筋力

【はじめに,目的】人工股関節置換術(THA)術後患者では,術後長期経過後も股関節,膝関節筋力回復の遅延や階段昇降速度の低下が報告されている。健常者において階段昇段時の床反力垂直分力は二峰性波形を呈する。また,鉛直方向への身体支持能力として下肢関節伸展モーメントが重要となる。THA術後患者では昇段時の術側下肢関節伸展モーメントが減少していると報告されているが,下肢筋力低下が床反力垂直分力に及ぼす影響については明らかにされていない。本研究の目的は,THA術後患者の下肢筋力と階段昇段時の床反力垂直分力との関連を検討することである。
【方法】対象は,片側性変形性股関節症に対し,片側THAを施行した患者40名(男性6名,女性34名,術後185.0±14.8日)とした。平均年齢,身長,体重は63.4±10.4歳,153.0±6.7 cm,体重55.2±9.0kgであった。測定項目は,階段昇段時の床反力,下肢筋力とした。床反力の計測は,歩行時に連続して床反力垂直分力が計測可能な靴型下肢加重計(アニマ社製,ゲートコーダMP-1000)を用いて,約1mの助走路を歩行した後,高さ18cm,踏み幅29cmの8段の昇段を行い,1段目と8段目を除いた6段の床反力垂直分力を算出した。昇段速度はメトロノームを使用し80steps/minとした。床反力波形から二峰性の同定が可能なデータを抽出し,床反力垂直分力の極値として単脚立脚期の前半と後半に生じる2つの峰の第1最大値(Fz1),第2最大値(Fz3)とその間の谷の最小値(Fz2),を求め,いずれも体重で正規化した。下肢筋力は,徒手筋力測定器(アニマ社製,ミュータスF-100)を使用し,股関節伸展,股関節外転,膝関節伸展の最大等尺性筋力を2回測定し,最大値を採用した。股関節筋力,膝関節筋力のアーム長は,それぞれ大転子から腓骨外果の5cm近位,膝関節中心から腓骨外果の5cm近位までの距離とし,筋力測定値との積をさらに体重で除して算出した値を下肢筋力として用いた。非術側に対する術側の筋力低下率は,非術側,術側筋力値の差を非術側筋力値で除して算出した値をパーセント(百分率)で求めた。統計解析は,術側と非術側の床反力パラメータの比較はWilcoxonの符号付き順位検定を用い,床反力および下肢筋力の関連はSpearmanの順位相関係数を用いて検定した。各筋における筋力低下率の比較にはKruskal-Wallis検定を使用し,事後検定としてBonferroni補正を行った後,因子間の比較をWilcoxonの符号付き順位検定を用いて検討した。
【結果】二峰性の床反力波形が同定不可能であった5名は除外し,35名を解析対象とした。8段の平均昇段時間は5.90±0.30秒であった。術側と非術側の床反力パラメータの比較では,Fz1(術側91.8±7.0%,非術側97.0±6.6%),Fz3(術側120.6±8.9%,非術側131.5±12.2%)で有意差を認めた(p<0.01)が,Fz2(術側80.1±6.4%,非術側78.5±6.2%)では有意差を認めなかった。術側と非術側の床反力パラメータの関係性については,Fz2(r=0.54,p<0.01),Fz3(r=0.47,p<0.01)は術側と非術側に正の相関を示したが,Fz1(r=0.17,p>0.05)は術側と非術側で有意な相関を示さなかった。床反力パラメータと筋力との関係性については,術側Fz1は術側膝関節伸展筋力(r=0.44,p<0.05),術側Fz3は術側膝関節伸展筋力(r=0.35,p<0.05),非術側Fz1は非術側の股関節外転筋力(r=0.39,p<0.05),膝関節伸展筋力(r=0.45,p<0.01)と正の相関を示した。各筋における筋力低下率はそれぞれ股関節外転12.5±19.1%,股関節伸展7.6±15.1%,膝関節伸展24.5±20.4%であり,膝関節伸展は股関節外転(p<0.01),股関節伸展(p<0.01)と有意差を認めたが,股関節外転と股関節伸展には有意差を認めなかった。
【考察】THA術後の下肢筋力低下率は,股関節周囲筋力よりも膝関節伸展筋力で大きかった。また,昇段時の床反力垂直分力前半の指標は膝関節伸展筋力と関連した。これは,昇段動作時に術側下肢接地後の荷重応答機能として,膝関節伸展モーメントを有効に発揮できていないことを示唆している。また,術側と非術側のFz1値に有意な相関はみられないことから,その病態には非術側下肢による代償機構を含めた昇段動作制御の変化が関与していると推察された。ゆえに階段昇段時の術側下肢機能は,非術側下肢との関係で個々に検討し,特に膝関節伸展筋力に着目する必要性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】本研究により,THA術後患者の昇段動作時の床反力と下肢筋力との関連が,術側,非術側各々について明確になった。本研究は,THA術後患者の昇段動作能力の維持,改善において重要な情報を提供するものと考えられる。