第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述52

脳損傷理学療法7

2015年6月6日(土) 11:25 〜 12:25 第8会場 (ガラス棟 G402)

座長:保苅吉秀(順天堂大学医学部附属順天堂医院 リハビリテーション室)

[O-0397] 短下肢装具を作製した在宅脳卒中者における屋内転倒予測因子の検討

―回復期リハビリテーション病棟での退院前評価を用いて―

村田真也, 森戸裕也, 澤島佑規 (医療法人偕行会偕行会リハビリテーション病院リハビリテーション部)

キーワード:短下肢装具, 在宅脳卒中者, 屋内転倒予測因子

【はじめに,目的】
当院回復期リハビリテーション病棟(以下,回復期病棟)では,歩行能力の獲得と在宅復帰に向けて短下肢装具(以下,装具)を作製することが多く,身体機能を補い自宅生活での転倒を予防するために装具を使用することを推奨している。しかし,川上らは装具を使用しても転倒を認めたと報告しており,転倒防止には装具使用の有無以外の要因を検討する必要があると考えられる。そこで本研究は,在宅脳卒中者の当院退院時の身体機能と自宅での転倒との関連を検討し,転倒に関わる予測因子を抽出することを目的とした。
【方法】
対象は,2009年7月~2014年1月の間に当院から自宅へ退院した初発の脳卒中者118例とした。郵送質問紙法にて屋内の転倒の有無(質問紙配布時から遡って1年以内),転倒時の状況について調査を行った。対象の除外条件としては当院退院後に新たな病気を罹患し,病院または施設入所となった者,アンケートや退院前評価に不備のあった者とした。有効な回答が得られた対象を屋内での転倒の有無から転倒群,非転倒群の2群に分類した。退院前評価項目は,Timed Up and Go test(以下,TUG)の所要時間(秒),Functional Reach Test(以下,FRT)の距離(cm),Trail Making Test PartA(以下,TMT-A)の所要時間(秒),Mini-Mental State Examination(以下,MMSE)およびFrontal Assessment Battery(以下,FAB)の点数,Stroke Impairment Assessment Set(以下,SIAS)の各項目の点数とした。統計学的解析は各項目において対応のないt検定,X2検定,Mann-WhitneyのU検定を用いて2群比較を行った。有意差を認め,かつSpearmanの順位相関係数で相関が高くなかった項目を説明変数,転倒の有無を目的変数とした変数増減法(尤度比)ロジスティック回帰分析を行った。有意に選択された変数に関しては,Receiver Operating-Characteristic(以下,ROC)曲線を求め,Area Under the Curve(以下,AUC),cut off,感度,特異度を算出した。統計解析ソフトはエクセル統計を使用し,有意水準は5%とした。
【結果】
有効回答数は35例(男性25例,女性10例,平均年齢63.9±9.8歳),転倒群14例,非転倒群21例であった。転倒時の状況は歩行6例,移乗5例,立位でのリーチ動作3例であった。2群比較の結果,転倒群はTMT-Aの所要時間が有意に長く,FAB・SIASの腹筋力・垂直性の点数が有意に低値であった。ロジスティック回帰分析ではFAB(オッズ比0.599,95%信頼区間:0.396-0.906),腹筋力(オッズ比0.059,95%信頼区間:0.006-0.558)の2変数が有意に採択された。2変数のcut offは,FABは13点(AUC0.71,感度71.4%,特異度23.8%),腹筋力は2点(AUC0.72,感度57.1%,特異度14.3%)であった。
【考察】
本研究の結果,転倒群はTMT-Aの所要時間が有意に長く,FABおよびSIASの腹筋力・垂直性の点数が有意に低値であり,その中でもFAB,SIASの腹筋力が独立した転倒予測因子として抽出された。Duboisは,FABを前頭葉行動・遂行機能検査と定義しており,Cahn-Weinerの遂行機能が転倒と関連するとの報告を踏まえると,遂行機能障害により転倒したと考えられる。そのため,場面に応じた対応ができないこと,運動プログラムが行えず,動作の順序を誤まること,行為中に外界の不要な刺激に反応し,二重課題を処理できないことなどが起因し転倒に至った可能性が考えられ,FABと転倒に関連を認めたと推察する。また,腹筋力に関しては,中俣はスリップからの姿勢回復反応に腹筋が重要であると報告している。そのため,腹筋力の低下が起因し転倒に至った可能性が考えられ,SIASの腹筋力と転倒に関連を認めたと推察する。また,FABのcut offは13点,SIASの腹筋力のcut offは2点であったことから臨床では前頭葉機能,腹筋力の強化を優先的にアプローチする重要性が示唆された。以上のことから環境面は生活空間を細目に変更しないことが転倒予防には重要であり,主介護者や後方施設への情報提供の観点では,回復期病棟で定着した方法を伝えることと回復期病棟退院後の能力に応じ,方法の妥当性を検討することが転倒予防に重要であると考える。
【理学療法学研究としての意義】
装具を使用する脳卒中者が自宅へ退院してから屋内で転倒する可能性を回復期病棟入院中から予測する上でFAB,SIASの腹筋力は臨床での転倒リスクの判断基準として有意義であると考える。