第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述56

身体運動学4

2015年6月6日(土) 11:25 〜 12:25 第12会場 (ガラス棟 G701)

座長:廣瀬浩昭(宝塚医療大学 保健医療学部 理学療法学科)

[O-0421] トレンデレンブルグ,デュシャンヌ徴候と股関節内外転筋力との関連性について

奥井友香1,2, 猪股伸晃2, 武井健児2,3, 大河原和也2, 遠藤康裕2, 小保方祐貴2, 佐々木沙織1,2, 福原隆志2, 中川和昌2 (1.医療法人恵泉会せせらぎ病院附属あさくら診療所リハビリテーション科, 2.PSLab., 3.群馬大学医学部附属病院リハビリテーション部)

キーワード:片脚立位, 客観的計測, 肩甲帯傾斜

【はじめに】
我々は以前,トレンデレンブルグ(以下TR)徴候と股関節内外転筋力との関係を明らかにする目的で,TRテストにおける骨盤傾斜の客観的計測値と股関節外転筋の最大等尺性筋力の関連性について検討を行った(第33回関東甲信越ブロック理学療法士学会にて報告)。前研究の課題として,TR徴候陰性群の中に,体幹側屈にて骨盤保持を代償している者が含まれている可能性が考えられた。そこで本研究では,TRテストにおいて骨盤傾斜だけでなく,体幹側屈を評価するために肩甲帯傾斜の客観的計測値も評価項目に加え,TR徴候,デュシャンヌ(以下D)徴候と股関節内外転筋力の関係性について検討することとした。
【方法】
対象は健常成人29名で,計測・解析可能であった49脚とした。Hardcastle Pらの方法(1985)を参考に30秒間のTRテストを実施し,片脚立位の動画を前額面より撮影した。解析ソフト(Frame DiasIV)を用い骨盤傾斜角度(pelvic tilt angle:以下PTA),肩甲帯傾斜角度(shoulder girdle tilt angle:以下STA)および股関節内外転角度を計測した。PTAは水平線と両上前腸骨棘(以下ASIS)を結んだ線が成す角とし,挙上脚側のASISが水平線よりも上方に変位するとき,PTAが正であると定義した。またSTAは水平線と両肩峰を結んだ線が成す角とし,挙上脚側の肩峰が水平線よりも上方に変位するとき,STAは正であると定義した。テスト中,PTAの最小値が負の値を示す場合をTR徴候陽性と判断し,STAが正の値を示す場合をD徴候陽性と判断した。TRテスト中のPTA振幅(PTAの最大値と最小値の差)と,STA振幅(STAの最大値と最小値の差)も算出した。股関節内外転角度は,両ASISを結んだ線と,支持脚側のASISと膝蓋骨中央を結んだ線が成す角度とした。股関節内外転筋力はハンドヘルドダイナモメーター(μTas F-1)を用い最大等尺性筋力を測定した。統計学的解析では,はじめに全対象をTR徴候陽性・陰性の2群に群分けを行った。この2群間の,PTA(最大値,最小値,振幅),STA(最大値,最小値,振幅),股関節内外転角度(最大値,最小値),股関節内外転筋力の群間比較(Mann-WhitneyのU検定)を行った。さらに,各群内で測定値間の関連性(Spearmanの順位相関係数)を検討した。次に全対象をD徴候陽性・陰性の2群に群分けを行い,同様の検討を行った。さらに,全対象をTR徴候陽性・D徴候陽性,TR徴候陽性・D徴候陰性,TR徴候陰性・D徴候陽性,TR徴候陰性・D徴候陰性の4群に群分けした。この群分けの目的は,TR徴候,D徴候各現象のみがみられる被験者を識別することである。4群においても同様に,各測定値の群間比較(一元配置の分散分析)および各群内で測定値間の関連性(Spearmanの順位相関係数)を検討した。統計には,解析ソフト(IBM SPSS Statistics ver.21)を用い,有意水準は5%とした。
【結果】
49脚中TR徴候陽性群は16脚,陰性群は33脚であり,群間の各測定値の各測定値の群間比較における有意差や群内の測定値間の関連性はを認めなかった。また,D徴候陽性群は26脚,陰性群は23脚であった。群間のD徴候陽性・陰性群間では,各測定値に有意の差は認めなかったが,D徴候陰性群において,STA振幅と股関節内転筋力の相関係数はρ=-0.512(p<0.05)であり,負の相関を示した。TR徴候陽性・D徴候陽性群は9脚,TR徴候陽性・D徴候陰性群は7脚,TR徴候陰性・D徴候陽性群は17脚,TR徴候陰性・D徴候陰性群は16脚であった。各群間で測定値に有意差は認められなかった。TR徴候陽性・D徴候陰性群において,PTA振幅と股関節外転筋力の相関係数はρ=-0.857(p<0.05)であり,負の相関を示した。
【考察】
D徴候陽・陰性群間において,PTAの各数値の間に有意差が認められなかったことから,D徴候とTR徴候は直接的に関係していない可能性が考えられた。D徴候陰性群において,STA振幅と股関節内転筋力に負の相関を示したことから,肩甲帯の傾斜幅が小さい者ほど股関節内転筋力が大きいと考えられる。これより,D徴候と股関節内転筋力が関連している可能性が示唆された。また,TR徴候陽性・D徴候陰性群において,PTA振幅と股関節外転筋力に負の相関を示したことから,骨盤の傾斜幅が大きい者ほど股関節外転筋力が小さいと考えられる。これより,先行研究と同様に,TR徴候と股関節外転筋力とは関連している可能性が示唆された。
【理学療法研究としての意義】
片脚立位時のTR徴候およびD徴候と股関節内外転筋力との関連性に関して,正確な画像解析に基づいて分析している研究は少なく,本研究の結果が本評価の意義や目的に寄与し,結果理学療法評価および治療への応用が期待できる。