第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述59

地域理学療法4

Sat. Jun 6, 2015 12:30 PM - 1:30 PM 第10会場 (ガラス棟 G602)

座長:盆出義也(陽だまり訪問看護ステーション 東久留米サテライト)

[O-0449] ライフゴール概念を取り入れた目標設定が入院患者の心理機能と意欲に与える影響

―準ランダム化比較試験による検討―

尾川達也1,2, 大門恭平1,3, 湯田智久1,2, 森岡周1,4 (1.畿央大学大学院健康科学研究科神経リハビリテーション学研究室, 2.西大和リハビリテーション病院リハビリテーション部, 3.高橋病院, 4.畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター)

Keywords:回復期リハビリテーション, 目標設定, ライフゴール

【はじめに,目的】
リハビリテーション(リハビリ)における目標設定は他職種チームと患者がどのようにリハビリを実行していくかを議論する過程と定義されており,目標設定に患者を参加させる重要性が強調されている。近年,目標設定に患者を参加させる1つのツールとして,ライフゴール概念というものが報告されている(Wade 1999, Dalton 2012)。この概念は患者の最も関心のある生活領域を評価し,直接または間接的にリハビリへ応用するため,動機づけの要因として考えられており(Nair 2003, Wade 2009),心理機能への効果も期待されている(McGrath 1999, Conrad 2010)。しかし,ライフゴール概念を用いた目標設定が患者の心理機能や意欲に影響するかどうかは未だ検証されていない。そこで今回,ライフゴール概念を用いた目標設定が通常の目標設定と比較して,患者の心理機能や意欲に影響するかを検証することとした。
【方法】
対象は回復期リハビリ病棟の新規入院患者から採用した。除外基準はMini Mental State Examinationが24点未満のもの,精神疾患の既往のあるもの,入院1ヶ月以内の退院予定があるものとした。研究デザインは盲検化なしの準ランダム化比較試験とし,対象者を追加の目標設定介入を実施しないControl群,体系的な目標設定介入としてGoal Attainment Scaling(GAS)を実施したGAS群,ライフゴール概念を取り入れてGASを実施したLife群の3群に割り付けた。また,割り付けの際に各群の心理機能の偏りを防ぐためHospital Anxiety and Depression Scale(HADS)の不安を用いて対象者の層別化を行った。介入期間は4週間とし,GAS群では初期評価後に設定した目標を書面に記載し,目標達成度に関するフィードバックを週1回実施した。さらに,Life群ではRivermead Life Goal Questionnaireを用いて患者のライフゴールを評価した。この評価は患者が日常生活で経験する9つの領域に関して,重要度と優先順位を評価するものである。この評価結果を参考に目標を設定し,ライフゴールとリハビリ目標が関連していることを十分に説明した。評価は初期評価を入院後2週間以内,最終評価を介入終了後に実施した。主要評価項目は不安と抑うつをHADS,精神的健康感をGeneral Health Questionnaire 12(GHQ),リハビリ参加意欲をPittsburgh Rehabilitation Participation Scale(PRPS)を用いた。副次的評価項目は日常生活動作にFunctional Independence Measure(FIM)を用いた。また,介入後に患者へアンケートを実施し,目標設定における意思決定の程度をPatient Participation Scale(PPS),入院時からの主観的改善度をClinical Global Impression(CGI),意思決定に関する満足度をMan Son Hing Scale(MSH)を用いて聴取した。統計解析は介入前,介入後の3群間の比較にKruskal Wallis検定を用い,多重比較はSteel Dwass法を用いて実施した。有意水準は5%未満とした。
【結果】
Control群に22名,GAS群に22名,Life群に22名が割り付けられ,Control群で3名,GAS群で2名,Life群で2名が脱落した。初期評価において3群間に有意差はなかった。最終評価ではHADSの不安においてLife群はControl群と比較して有意に低かったが(p=0.049),GAS群とは有意差がなかった(Control群:6.5±3.6,GAS群:4.6±3.3,Life群:4.2±3.1)。また,PRPSにおいてLife群はControl群(p=0.030),GAS群(p=0.019)と比較して有意に高かった(Control群:4.9±0.6,GAS群:4.9±0.4,Life群:5.3±0.4)。その他の評価項目に3群間で有意差はなかった。介入後のアンケートにおいてもPPS,CGI,MSHともに3群間で有意差はなかった。
【考察】
GASにライフゴール概念を取り入れることで,追加の目標設定介入をしないものと比較して不安に効果があった。しかし,GAS単独とは差がなかったことから目標の共有やフィードバックだけでなく,患者のライフゴールを目標に含めることでより不安が軽減したと考えられる。また,意欲に関してはGAS単独のものと比較してもより効果があったことから,患者のライフゴールを評価しリハビリ目標との関連付けを強調するこの概念によって意欲が向上したと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究では,入院患者を対象にライフゴール概念を取り入れた目標設定の効果を検証することができた。理学療法を実施する際の目標設定や共有において,患者自身の生活に関する意見をリハビリ目標に取り入れることの重要性を示した意義のある研究と考える。