第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述59

地域理学療法4

Sat. Jun 6, 2015 12:30 PM - 1:30 PM 第10会場 (ガラス棟 G602)

座長:盆出義也(陽だまり訪問看護ステーション 東久留米サテライト)

[O-0450] FIMデータベースに基づいたクリニカルパスは在宅復帰率を向上させる

荒木大輔1, 山中あゆみ1, 門永愛史1, 田邊慶子1, 瀬尾真裕1, 岡本朋子2, 松浦晃宏1 (1.大山リハビリテーション病院リハビリテーション部, 2.大山リハビリテーション病院看護部)

Keywords:回復期, クリニカルパス, 機能的自立度評価法(FIM)

【はじめに,目的】
回復期リハビリテーション病棟(以下,回復期病棟)の役割は他職種が連携する事で日常生活活動(以下,ADL)能力の改善を図り,在宅復帰を促進する事である。また,先行研究では,移動や排泄等のADL能力の改善が在宅復帰に関与していると報告されている。そこで,我々はADLの指標として多く用いられているFunctional Independence Measure(以下,FIM)を用い,過去のFIMデータベースに基づいたクリニカルパス(以下,パス)を作成した。作成したパスは,脳血管疾患用,運動器疾患用,廃用症候群用からなり,それぞれを障害高齢者の日常生活自立度判定基準のA,B,Cに分けた9通りからなる。今回は,脳血管疾患用,廃用症候群用,運動器疾患用のBランク,Cランクの6通りのパスで,運用前後のADLや転帰状況等を比較し,クリニカルパスの効果について調査した。

【方法】
脳血管疾患用のパスは2011年6月より運用を開始したため,その前後3年間の2008年6月1日~2014年5月31日に回復期病棟に入院された274名,運動器疾患・廃用症候群用のパスは2013年6月より運用を開始したため,その前後1年間の2012年6月1日~2014年5月31日に回復期病棟に入院された105名を対象とした。パス運用開始後をパス使用群,パス運用開始前をパス不使用群とし,除外基準をAランクで入院された者,回復期対象外で入院している者,急性増悪や著しい認知機能障害等により回復期病棟での入院継続が困難であった者とした。条件を満たした脳血管疾患患者はパス使用群62名(平均年齢77.0±12.0歳,男性25名・女性37名),パス不使用群65名(平均年齢77.2±9.2歳,男性27名・女性38名)であった。同様に条件を満たした運動器疾患,廃用症候群患者はパス使用群42名(平均年齢84.4±7.2歳,男性12名・女性30名),パス不使用群33名(平均年齢84.6±8.1歳,男性5名・女性28名)であった。
脳血管疾患用のパスは2008年11月~2010年1月,運動器疾患・廃用症候群用のパスは2011年11月~2012年10月に回復期病棟に入院した患者のFIM運動項目のデータベースから,各月の各ADL項目で50%~60%の方が達成できた得点を各月の達成目標として採用した。パスは月に1度行われる,他職種が参加するケアカンファレンスにて使用した。パス使用群とパス不使用群で,在宅復帰率,在院期間,Barthel index(以下,BI)利得(退院時BI-入院時BI),FIM利得とFIMの項目ごとの利得を算出した。在院期間は疾患により異なるため脳血管疾患と運動器疾患・廃用症候群を分けて算出した。統計処理はMann-WhitneyのU検定を行い,有意水準は5%とした。
【結果】
在宅復帰率はパス使用群:76.0%,パス不使用群:54.1%であった。BI利得(26.7±18.6点,24.4±17.2点),FIM利得(21.9±14.1点,17.8±13.4点)はいずれもパス使用群が高値であり,FIM利得と運動FIM利得において有意差を認めた(P<0.05)。項目ごとのFIMで有意差を認めたのは排便コントロールのみであったが,整容,清拭,更衣(上),トイレ動作,移乗(トイレ),移動,階段において改善傾向であった(Ps<0.09)。在院期間は脳血管疾患ではパス使用群144.8±32.0日,パス不使用群132.4±38.8日,運動器疾患・廃用症候群ではパス使用群77.5±20.2日,パス不使用群79.9±12.8日で差を認めなかった。
【考察】
今回用いたパスはADL項目ごとに分かれており,それぞれにFIMによる達成目標が設定されている。また,各項目の内容を具体的に把握・検討出来るようになっており,ADL全般に渡ってアプローチが出来る。この事が,今回は有意なものは少なかったものの多くのADL項目で改善傾向がみられた要因であると考えられた。また,在宅復帰率も向上を認めた。これは,先行研究と同様に移動・排泄動作が改善傾向であったと同時に運動項目の合計が有意に改善していたことが関係していると考えられた。一方で,認知FIM利得と在院日数はこのパスでは改善がみられず,認知機能の低下が在院日数の延長に影響するものと考えられる。今後の課題として,FIM認知項目を含めたパスを検討すると同時に,患者の意欲や意志を反映した,より個別的な目標を提示できるようにし,改善効果や達成目標を患者と共有していくことが必要であると考えた。このような課題を解決するために,より個別的な目標提示と視覚的に改善効果を確認できるアプリケーションをこのパスを元に開発している。

【理学療法学研究としての意義】
FIMデータベースに基づいたクリニカルパスは,運動FIM利得の向上に寄与し,在宅復帰率を向上させる事が示唆された。