第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述60

神経・筋機能制御1

Sat. Jun 6, 2015 12:30 PM - 1:20 PM 第11会場 (ガラス棟 G610)

座長:久保田雅史(福井大学医学部附属病院 リハビリテーション部)

[O-0454] 神経筋電気刺激を用いた棘下筋トレーニングとして有効な電流強度は?―即時での研究―

簗瀬康1, 長谷川聡1, 中村雅俊1,2, 山内大士1, 西下智1, 荒木浩二郎1, 梅原潤1, 藤田康介1, 市橋則明1 (1.京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻, 2.同志社大学スポーツ健康科学部)

Keywords:電気刺激, 棘下筋, 筋力トレーニング

【はじめに,目的】
先行研究において,肩関節疾患では棘下筋の萎縮,筋力低下が問題になるとの報告が散見される。それらの問題に対して,一般的に肩関節外旋運動で筋力トレーニングが行われるが,三角筋後部線維や肩甲骨周囲筋の代償動作などにより,効率よく棘下筋の筋力トレーニングを行えないことが多い。
一方で神経筋電気刺激(以下,Neuromuscular Electrical Stimulation:NMES)を用いた筋力トレーニングは以前から下肢筋に対して行われ,その有効性について報告されている。下肢筋に対して異なる電流強度のNMESを実施したところ,高い電流強度で行うことにより大きな筋力増強が生じるとされている。しかしながら,棘下筋に対するNMESの筋力トレーニング効果に関しての報告はなく,棘下筋に対し異なる電流強度でNMESを行った際の効果も不明である。
本研究の目的は,棘下筋の筋力トレーニングとして有効なNMESの電流強度を明らかにすることである。
【方法】
対象は健常男性30名(平均年齢23.6±2.9歳,BMI22.6±1.9kg/m2)の非利き肩とし,電流強度よりランダムに60mA群,90mA群,120mA群の3群に分けた。機器は低周波治療器(ホーマーイオン研究所社製オートテンズプロ)を使用した。NMESの設定は周波数20Hz,パルス幅250μsec,duty cycle 5秒on 2秒offの指数関数的漸増波で20分間実施した。電極は双極性の粘着パッド(5cm×5cm)を使用し,一方は棘下筋のモーターポイント部分にもう一方を筋腹部に貼付した。
評価はNMES前後に棘下筋筋断面積と肩関節外旋筋力を測定した。筋力トレーニング後の筋断面積増加は筋線維が微細損傷を起こして腫脹している状態であり,筋力トレーニング効果の指標であると考えられている。筋断面積は超音波画像解析装置(GEヘルスケア社製LOGIQe)を用いて測定し,得られた超音波画像をPhotoshop Elements 12(Adobe社製)を用いて繋ぎ合わせることで棘下筋の筋断層画像を作成し,Image Jを用いて筋断面積を算出した。NMES前後で各2回ずつ筋断面積を測定し,ICC(1.1)を算出した。
肩関節外旋筋力の評価は等速性筋力測定装置(BIODEX Medical社製BIODEX System4)を用いて,肩関節外転90°,肘関節屈曲90°位での等尺性外旋筋力と等速性外旋筋力(60°/s,180°/s)を計測した。
統計処理はSPSSを用い,棘下筋筋断面積の時期-強度の2要因で分割プロットデザインによる分散分析を用いて比較した。さらに各群のNMES前後の筋断面積,肩関節外旋筋力を対応のあるt検定を用いて比較した。また各群におけるNMES前後の棘下筋筋断面積の変化率を算出し,Bonferroni補正を用いた多重比較により3群間の比較をした。有意水準は5%とした。
【結果】
筋断面積評価のICC(1.1)は0.971(0.941-0.986)であり,検者内再現性は良好であった。分散分析の結果,時期-強度に交互作用が認められ,時期には主効果が認められた。90mA群,120mA群でのみNMES前と比較し,NMES後に筋断面積が有意に増加した。NMES前後の筋断面積の変化率は,60mA群3.6±6.6%,90mA群6.6±9.1%,120mA群12.5±6.8%であり,60mA群と比較し120mA群が有意に大きかった。全群において,肩関節外旋筋力はNMES前後で等尺性,等速性(60°/s,180°/s)ともに有意差は認めなかった。
【考察】
本研究の結果より,筋断面積の時期-強度に交互作用が認められたことから,電流強度によって即時的に筋断面積増加の程度が異なることが明らかになった。また,90mA,120mAの電流強度でのみNMES後に筋断面積が増加し,さらに60mAと比較し120mAに効果があると分かった。これらより,90mAより高い電流強度で行うことで即時的に筋断面積が増加し,さらに電流強度が高いほど大きなトレーニング効果を得られる可能性が示唆された。
一方,全群においてNMES前後で肩関節外旋筋力に変化がなかったことから,棘下筋に対するNMESは直後の疲労による筋力低下を生じさせない筋力トレーニングとなることが示唆された。
限界として,本研究は即時効果を検証したものであり,長期的な介入による筋肥大・筋力増強は今後検討する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
棘下筋に対するNMESによる筋力トレーニング効果は,90mAより高い電流強度で得られることが分かり,さらに電流強度が高ければ大きな効果をもたらすことが示唆された。臨床において,代償動作等により肩関節外旋運動を効率よく行えない症例に対してのトレーニング方法の一つとして応用できる可能性がある。