第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述62

生体評価学3

2015年6月6日(土) 13:50 〜 14:50 第8会場 (ガラス棟 G402)

座長:河野一郎(九州大学病院 リハビリテーション)

[O-0471] 歩行速度と下肢荷重率及び等尺性膝伸展筋力の関連

高齢入院患者における検討

加嶋憲作1, 津田泰路1, 河邑貢1, 大菊覚1, 馬渕勝1, 峯田拓也1, 山﨑裕司2 (1.独立行政法人国立病院機構高知病院, 2.高知リハビリテーション学院)

キーワード:歩行速度, 下肢荷重率, 等尺性膝伸展筋力

【はじめに,目的】
歩行速度は,実用歩行に欠かせない要素である。日本の道路横断に必要な歩行速度は1.0m/sec以上であり,実用的な歩行能力の指標とされている。歩行速度と下肢筋力には密接な関連があり,一定の筋力水準を下回る場合,筋力低下にしたがって歩行速度は低下することが示されている。しかしながら,同等の筋力水準にありながらも歩行速度に明らかな差を認める場合も少なからずあり,立位バランス能力など下肢筋力以外の因子が歩行速度を規定していることが考えられる。我々は過去に,等尺性膝伸展筋力測定と市販体重計を用いた下肢荷重率測定を併用することで,良好な歩行自立度の判別が可能であったことを報告した。これと同様の方法で,1.0m/sec以上の歩行速度の可否を判別できれば,歩行速度を制限する要因を具体的に考察することが可能となる。そこで本研究では,歩行速度と下肢荷重率及び等尺性膝伸展筋力の関連について検討した。
【方法】
対象は,65歳以上の高齢入院患者133名(男性70名,女性63名)である。中枢神経疾患や明らかな荷重関節の整形外科疾患,認知症を有する者は対象から除外した。下肢荷重率の測定は,市販の体重計2台に左右の脚をのせた立位で行った。片側下肢に最大限体重を偏位させるように指示し,5秒間安定した姿勢保持が可能であった荷重量(kg)を体重(kg)で除し,その値を下肢荷重率(%)とした。等尺性膝伸展筋力の測定にはアニマ社製μ-TasF-01を用い,端坐位下腿下垂位において約3秒間の最大努力による膝伸展運動を行わせた。左右脚の平均値(kgf)を体重(kg)で除した値を等尺性膝伸展筋力とした。歩行速度は10m歩行試験にて測定し,最大速度が1.0m/sec以上をfast群,1.0m/sec未満をslow群に分類した。各測定は2回ずつ実施し,最大値を採用した。統計学的解析には,対応のないt検定,カイ二乗検定を用いた。また,Receiver Operating Characteristic曲線(以下,ROC曲線)より,1.0m/sec以上の歩行速度を有するための下肢荷重率のカットオフ値を決定した。いずれも危険率5%未満を有意水準とした。

【結果】
fast群は78名,slow群は55名であった。fast群,slow群の順に,年齢は74.8±6.1歳,81.0±6.2歳,性別は男性43名(55%),男性27名(49%),身長は154.9±8.3cm,150.5±9.1cm,体重は52.6±9.7kg,47.5±9.2kgであり,性別以外で群間に有意差を認めた(p<0.01)。また,下肢荷重率は89.1±4.3%,75.7±8.1%,等尺性膝伸展筋力は,0.50±0.11kgf/kg,0.30±0.09kgf/kgであり,それぞれ群間に有意差を認めた(p<0.01)。等尺性膝伸展筋力が0.54kgf/kg以上(28名)では全例がfast群であったのに対して,0.28kgf/kg未満(21名)では全例がslow群であった。等尺性膝伸展筋力が0.28~0.54kgf/kg未満の範囲ではfast群(50名)とslow群(34名)が混在していた。ROC曲線における曲線下面積は0.939であり,下肢荷重率は1.0m/sec以上の歩行速度の可否を判別する因子であった(p<0.01)。感度と特異度の和が最も高くなる下肢荷重率は,83.4%であり,全症例で83.4%をカットオフ値とした場合,感度は91.0%,特異度は87.3%,陽性適中率は91.0%であった。さらに,fast群とslow群が混在する筋力範囲(0.28~0.54kgf/kg未満)の症例に対して,1.0m/sec以上の歩行速度の可否を下肢荷重率83.4%にて判別した場合,陽性適中率は90.0%,正診率は88.1%であった。

【考察】
下肢荷重率は,1.0m/sec以上の歩行速度の可否を判別するのに有用な指標であった。特に,fast群とslow群が混在する筋力範囲において良好な判別が可能であったことから,この筋力域において立位バランスが歩行速度に強く影響することが示唆された。以上のことから,等尺性膝伸展筋力測定に下肢荷重率測定を併用することで,実用的な歩行速度を有するための下肢機能をより高い精度で判別することが可能になると考えられた。

【理学療法学研究としての意義】
市販体重計を使用した下肢荷重率測定は,病院や在宅など様々な場面で広く活用できる。本研究の結果は,実用歩行の獲得を阻害する要因の推測や治療方針の決定,対象者に治療の必要性を説明する際などに役立てられる。