第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述64

地域理学療法5

Sat. Jun 6, 2015 1:50 PM - 2:50 PM 第10会場 (ガラス棟 G602)

座長:井口茂(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 保健学専攻)

[O-0483] 介護職員の腰痛に対する腰痛回避行動の要因の検討

―機能障害,HRQOL,自尊心の比較―

溝口桂1, 野村卓生2 (1.JA山口厚生連周東総合病院リハビリテーション科, 2.関西福祉科学大学保健医療学部理学療法学専攻)

Keywords:介護職員, 腰痛, 腰痛回避行動

【諸言】
超高齢化社会を迎えようとしている我が国において介護老人保健施設などにおける介護職員の業務上疾病の発生率が問題視されている。業務上疾病の発生率最大の要因として腰痛の存在が推測され,厚生労働省からも「腰痛対策指針」が制定されている。保健衛生業の職業性腰痛としておむつ交換時などの中腰姿勢,移乗・入浴介助時の労作やその方法に関する報告が多く,その対策として介助動作の指導,移乗動作の指導,腰痛体操の指導等(従来の指導)が主に行われている。職業性腰痛に関する報告は多く,発生要因として身体的要因のみでなく心理社会的要因の関与が指摘され多面的な解析が行われている。大江らの報告(長崎国際大学論叢2001)によると腰痛回避行動(姿勢・動作の注意,腰痛予防ベルトの使用,腰痛体操,事前体操)の実施に自尊心の高低を提唱しているが実施要因の報告は散見される程度である。そこで本研究では腰痛予防対策において従来の方法論的観点からではなく,腰痛回避行動の実施状況から実施要因を明らかする事を目的とする
【対象と方法】
腰痛予防教室に参加した近隣施設の介護職員60名(男性14名,女性46名:平均年齢42.7±12.4歳)を対象にアンケート調査を実施した。調査は無記名,自己記入式とした。調査項目は対象者属性として年齢,性別,職種(看護師,介護福祉士,その他),経験年数,腰痛回避行動の有無,腰痛関連項目としてVAS,腰痛歴,腰痛による機能障害(RDQ),HRQOLとしてSF-8,心理学的要因として自尊心(SES)と健康統制感(MHLC)を調査した。各変数はRDQとSESは合計点を,SF-8とMHLCでは下位項目を算出し用いた。各調査項目に応じて4~6段階リッカート式尺度で尋ね,その合計もしくは下位項目単独で腰痛回避行動の結果より実施群と非実施群の2群に割り付け各項目を比較した。統計学的解析について各変数の正規性を確認した後に名義尺度変数にはχ2検定を,順序・比率・間隔尺度変数にはMann-WhitneyのU検定もしくは対応のないt検定を用いた。統計解析にはSPSS ver.15.0Jを使用した。いずれの検定も統計学的有意水準は5%とした。
【結果】
腰痛回避行動の実施群と非実施群を比較した結果,有意差を認めた項目(実施群/非実施群)は経験年数(中央値12.5/10,p=0.041),SES(中央値30/25,p=0.010),MHLCの下位項目であるInternal-HLC(平均値20.2±3.7/19.1±3.9,p=0.026)であった。
【考察】
本研究の結果より経験年数,SES,IHLCで有意差を認めた。経験年数について厚生労働省「職場における腰痛発生状況の分析について」より経験年数別腰痛発生割合では3年未満で約半数を占めており,技術の習熟と共に腰痛回避行動の有無も関連が伺える。SESについて大江らの学生を対象とした報告では自尊心の差と行動意志との間に関係性を認め,自尊心の高さは腰痛回避に積極的とあり先行研究と同じく,自己反応の要素である自尊心が目標の達成に必要な大きな努力をするよう自ら動機付けると言う説を支持する結果となった。健康統制感とは健康や病気を統制する所在の認知であり,健康や病気の原因は自分自身にあるとするIHLC傾向が強く,かつ健康に価値を置く人は,自主的な健康関連行動に優れていると言われている。また渡辺はHLCを把握することからその人の健康行動を予測することを試み,内的統制傾向が強い人ほど健康的な行動を自主的にとることを報告している。本研究の限界としてあくまでも自己申告制の調査であるため客観性に欠け,信頼性を検討できていない事が挙げられる。今後は腰痛の再現性を検討すると共に症例数を増やし腰痛回避行動との相関関係を明らかにする事で自尊心,健康統制感への働き掛けが腰痛発生率に寄与できるか検討して行きたい。
【理学療法学研究としての意義】
腰痛と心理学的要因について,これまで様々な研究がなされてきが,多くの研究対象は急性腰痛で受診を必要とした患者レベルのものが多く,腰痛予防として受診前の無症状な人々を対象とした研究は少ない。人は刺激に対する反応だけでなく行動を予測し基準や目標を設定し行動する。この行動のための自己調整能力は腰痛回避行動と関連する事が示唆され方法論的観点以外にも着目して行く事は産業保健分野における一助となる。