[O-0484] メタボリックシンドロームの勤労者における職域サポート型運動指導の体組成,メタボリックシンドローム関連因子,動脈壁硬化度の改善効果
(J-STOP-METS WAVE2研究)
Keywords:メタボリックシンドローム, 職域サポート型運動指導, 予防医療
【はじめに,目的】
近年,過栄養状態や運動不足を背景にメタボリックシンドローム(MetS)が急増している。この病態は内臓脂肪蓄積を基礎とし,高血圧,脂質代謝異常,糖代謝異常が累積した状態で,動脈硬化性疾患の発症につながることから,医療費抑制の視点からもその予防対策が急務である。エクササイズガイド2006では,MetSの改善に週あたり10エクササイズ以上の運動が推奨されている。しかし,勤労者は運動する時間の確保が難しく,MetSであっても自発的運動に取り組めない者も多い。本研究では,従来指導に加えて,職場が運動の場所と時間を提供する職域サポート型運動指導を行うことで,従来指導の効果を向上させるのとの仮説を検討した。
【方法】
対象は,定期健康診断にてMetSの診断を受けた28名(49±10.8歳)の労災病院勤務者とした。研究デザインは,無作為化クロスオーバー法を用い,被験者をA群(n=14)とB群(n=14)に振り分け,12ヶ月間の介入を実施した。A群は職域サポート型運動指導+従来指導(サポート型指導)を6ヶ月間の後,従来指導を6ヶ月間行い,B群は従来指導6ヶ月間の後,サポート型指導を6ヶ月間行った。従来指導は2ヶ月毎に体重の5%程度の減量を目標に,食事や運動の指導を口頭で行った。職域サポート型運動指導は,職場のリハビリテーション室を使用して週3回の頻度で準備運動からはじめ,自転車エルゴメータを使った有酸素運動や筋力トレーニングを理学療法士の指導のもとに1時間程行った。また,介入前,6,12ヶ月後に,体組成測定,生化学検査,血圧,脈拍,脈波伝播速度(baPWV)などを測定した。
【結果】
6ヶ月後の減量効果はB群に比べA群で大きい傾向があった(-3.3kg vs -1.5kg,P=0.07)。6ヶ月から12ヶ月の減量効果はA群に比べB群で大きい傾向があった(+0.4kg vs -1.7kg,P=0.07)。6ヶ月後のA群と12ヶ月後のB群の減量効果には有意差はなかった。介入内容での比較でみると,サポート型指導の減量効果は従来指導のみと比べて有意に大きかった(-2.5kg vs -0.5kg,P=0.01)。また,サポート型指導は,前後で腹囲,体脂肪率,収縮期血圧,baPWV,HDL-コレステロール,血漿ノルアドレナリンは有意に改善したが(それぞれP<0.05),従来指導前後の比較では,いずれの指標も有意差を認めなかった。
【考察】
本研究は,MetSの減量指導において,従来指導に職域サポート型運動指導を加えることで,健康改善効果が向上することをクロスオーバー法で検証した。従来の口頭での栄養,運動指導に加えて,職場が運動の場所と時間を提供して理学療法士が運動の実践を行うことにより,体重の減少,体脂肪率の減少および血圧,脈拍の低下,HDL-コレステロールの増加などのMetS関連因子の改善が得られることを示した。また,脳・心血管疾患の予後予測能を有するbaPWVは低下し,血漿ノルアドレナリンも低下していることから,動脈壁硬化度の改善の背景に交感神経機能の低下も伴うことが示された。一方,従来指導の関わりだけでは,減量効果は小さく,健康改善は得られないことも示された。初めにサポート型指導をうけた群では,従来指導に戻すことにより,体重が増加傾向を示し,後でサポート型指導をうけた群では,従来指導時に比べ倍以上の減量効果を認めた。これらの結果は,サポート型指導と同様の運動活動を個人レベルで維持することは困難なことを示している。このことは,就労者のMetSの生活指導において,職場が運動の時間と場を提供し,理学療法士が運動の実践も含めて行うことの有用性を明確に示した。以上より,MetSに対する職域サポート型運動指導は,従来指導の効果を向上させることが示された。今回は,病院職員を対象としたが,今後は,病院職員以外の一般勤労者に対する検討を行う必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の成果は,MetSに対する生活指導において,運動の場,時間に加え理学療法士による職域サポート型運動指導(準備運動,エルゴメータによる個別の体力を考慮した有酸素運動,筋力トレーニング)が口頭の指導のみに比べ,減量効果に優れるのみならず,MetS構成因子である高血圧や脂質代謝さらには動脈壁硬化度,交感神経機能を有意に改善することを示した。これは,指導効果が上がりにくいMetS対する新たな介入戦略として,理学療法士が重要な役割を演ずることができることを示す。今後,理学療法士が日本の医療の現場において,リハビリテーションのみならず予防医療の分野においても重要な役割を担う可能性に一定の示唆を与えるものと考えられる。
近年,過栄養状態や運動不足を背景にメタボリックシンドローム(MetS)が急増している。この病態は内臓脂肪蓄積を基礎とし,高血圧,脂質代謝異常,糖代謝異常が累積した状態で,動脈硬化性疾患の発症につながることから,医療費抑制の視点からもその予防対策が急務である。エクササイズガイド2006では,MetSの改善に週あたり10エクササイズ以上の運動が推奨されている。しかし,勤労者は運動する時間の確保が難しく,MetSであっても自発的運動に取り組めない者も多い。本研究では,従来指導に加えて,職場が運動の場所と時間を提供する職域サポート型運動指導を行うことで,従来指導の効果を向上させるのとの仮説を検討した。
【方法】
対象は,定期健康診断にてMetSの診断を受けた28名(49±10.8歳)の労災病院勤務者とした。研究デザインは,無作為化クロスオーバー法を用い,被験者をA群(n=14)とB群(n=14)に振り分け,12ヶ月間の介入を実施した。A群は職域サポート型運動指導+従来指導(サポート型指導)を6ヶ月間の後,従来指導を6ヶ月間行い,B群は従来指導6ヶ月間の後,サポート型指導を6ヶ月間行った。従来指導は2ヶ月毎に体重の5%程度の減量を目標に,食事や運動の指導を口頭で行った。職域サポート型運動指導は,職場のリハビリテーション室を使用して週3回の頻度で準備運動からはじめ,自転車エルゴメータを使った有酸素運動や筋力トレーニングを理学療法士の指導のもとに1時間程行った。また,介入前,6,12ヶ月後に,体組成測定,生化学検査,血圧,脈拍,脈波伝播速度(baPWV)などを測定した。
【結果】
6ヶ月後の減量効果はB群に比べA群で大きい傾向があった(-3.3kg vs -1.5kg,P=0.07)。6ヶ月から12ヶ月の減量効果はA群に比べB群で大きい傾向があった(+0.4kg vs -1.7kg,P=0.07)。6ヶ月後のA群と12ヶ月後のB群の減量効果には有意差はなかった。介入内容での比較でみると,サポート型指導の減量効果は従来指導のみと比べて有意に大きかった(-2.5kg vs -0.5kg,P=0.01)。また,サポート型指導は,前後で腹囲,体脂肪率,収縮期血圧,baPWV,HDL-コレステロール,血漿ノルアドレナリンは有意に改善したが(それぞれP<0.05),従来指導前後の比較では,いずれの指標も有意差を認めなかった。
【考察】
本研究は,MetSの減量指導において,従来指導に職域サポート型運動指導を加えることで,健康改善効果が向上することをクロスオーバー法で検証した。従来の口頭での栄養,運動指導に加えて,職場が運動の場所と時間を提供して理学療法士が運動の実践を行うことにより,体重の減少,体脂肪率の減少および血圧,脈拍の低下,HDL-コレステロールの増加などのMetS関連因子の改善が得られることを示した。また,脳・心血管疾患の予後予測能を有するbaPWVは低下し,血漿ノルアドレナリンも低下していることから,動脈壁硬化度の改善の背景に交感神経機能の低下も伴うことが示された。一方,従来指導の関わりだけでは,減量効果は小さく,健康改善は得られないことも示された。初めにサポート型指導をうけた群では,従来指導に戻すことにより,体重が増加傾向を示し,後でサポート型指導をうけた群では,従来指導時に比べ倍以上の減量効果を認めた。これらの結果は,サポート型指導と同様の運動活動を個人レベルで維持することは困難なことを示している。このことは,就労者のMetSの生活指導において,職場が運動の時間と場を提供し,理学療法士が運動の実践も含めて行うことの有用性を明確に示した。以上より,MetSに対する職域サポート型運動指導は,従来指導の効果を向上させることが示された。今回は,病院職員を対象としたが,今後は,病院職員以外の一般勤労者に対する検討を行う必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の成果は,MetSに対する生活指導において,運動の場,時間に加え理学療法士による職域サポート型運動指導(準備運動,エルゴメータによる個別の体力を考慮した有酸素運動,筋力トレーニング)が口頭の指導のみに比べ,減量効果に優れるのみならず,MetS構成因子である高血圧や脂質代謝さらには動脈壁硬化度,交感神経機能を有意に改善することを示した。これは,指導効果が上がりにくいMetS対する新たな介入戦略として,理学療法士が重要な役割を演ずることができることを示す。今後,理学療法士が日本の医療の現場において,リハビリテーションのみならず予防医療の分野においても重要な役割を担う可能性に一定の示唆を与えるものと考えられる。