[O-0486] 介護老人保健施設職員を対象とした腰痛予防の取り組み
~1ヵ月間の腰痛体操プログラム実践報告~
Keywords:腰痛体操, 腰痛予防, 介護老人保健施設
【はじめに,目的】
腰痛は労働衛生分野において重要な課題となっており,業種別での統計では保健衛生業における割合として78.5%と最も高率であると報告されている。厚生労働省は平成25年6月に「職場における腰痛予防対策指針」を改定し予防対策を推進する動きがある。しかし,現状では腰痛予防対策が不足しており,具体的な介入が行われていない。
そこで施設職員93名(委託業者を含む)を対象に腰痛実態のアンケート調査を実施したところ,約86%(93名中80名)が腰痛の経験や症状を有しており,腰痛と「精神状態の低下」との間に相関関係を認めた(r=0.45)。また,自己治療の方法は「運動や体操」の実施が最多数だったが,現在は効果がうすい状況だった。
アンケート調査の結果より,『運動による腰痛管理』が効果的ではないかと考え,①「就労中に行える腰痛体操プログラムを作成し,効果の検証をすること」,②「腰痛体操プログラムの取り組み継続へ向けた課題を分析すること」の2点を本研究の目的とした。
【方法】
対象は当施設常勤職員97名中,研究参加に同意が得られ,急性症状がなく,評価が可能であった20代から50代の職員72名(全体の74%)とした。
腰痛体操プログラム実施前に腰痛の自覚を認めた52名(以下「腰痛群」,男性22名,女性30名,平均年齢32.0±8.71歳)と,腰痛の自覚がなかった20名(以下「非腰痛群」,男性12名,女性8名,平均年齢33.3±9.32歳)の2群に分類し群間比較により分析した。
腰痛体操プログラムは6種の骨盤帯周囲のストレッチで構成し,所要時間は1セット5分間,原則1日2セット以上を勤務時間中(※休憩時間を含む)に行うこととした。
評価項目は,検査・測定にて腹筋群と背筋群の筋持久力と柔軟性(前方・左右側方指床間距離,脊柱自動背屈テスト)を評価し,問診票にて,痛み(Numeric Rating Scale(以下NRS)),腰痛特異的QOL(Roland-Morris Disability Questionnaire(RDQ日本語版)),抑うつ状態(Self-Rating Questionnaire For Depression(以下SRQ-D)),腰痛体操プログラムの評価(5点満点),就業状況・生活状況(1日の平均残業時間,1日の平均運動時間,1日の平均睡眠時間)について評価した。
統計学的処理は,腰痛体操プログラム実施前後の比較にウィルコクソン符号付順位和検定を,得られた結果の相関分析にスピアマンの順位相関係数を用い,いずれも危険率5%未満を有意水準とした。
【結果】
腰痛体操プログラム実施前後では,「腰痛群」において,NRS(3.38±1.80→2.70±2.09)とSRQ-D(9.88±4.81→8.48±5.43点),前方指床間距離(2.69±10.1→4.82±10.0cm)と右側方指床間距離(38.56±4.74→37.61±4.06cm),左側方指床間距離(39.45±4.63→37.93±3.87cm)が有意に改善した(p<0.05)。また「腰痛群」でのNRSの改善とSRQ-Dの改善との間に相関関係を認めた(r=0.33,p<0.01)。
一方,「非腰痛群」において1日の平均残業時間(1.28±0.94→2.15±1.34時間)が有意に増加していた(p<0.05)。
腰痛体操プログラムの満足度は平均3.5点,取り組みやすさは平均3.2点であったが,業務中の行いやすさは平均2.3点となり,勤務中での実施は難しいプログラムだった。
【考察】
腰痛の自覚症状の改善(p<0.05),体幹周囲の柔軟性の改善(p<0.05),精神状態(抑うつ感)の改善(p<0.05)に効果があることが示され,一定の成果をあげた腰痛体操プログラムであったと考える。
一方で,実施期間が1ヵ月間と非常に短期間での検証のため,長期的に実施していく中で,非腰痛群の残業時間が増加したことの影響等の検証が必要になると考える。
勤務時間や勤務内容を考慮すると就労中の実施は難しい現状が確認されたことから,一定の成果を認めたプログラムであることを動機付けとし,長期的な継続に向け,効果について検証していきたいと考える。
【理学療法学研究としての意義】
施設職員を対象に理学療法士が腰痛体操プログラムを作成,提示することでの効果が確認されたことから,施設職員の腰痛軽減に理学療法士が貢献できることを本研究の意義とする。
腰痛は労働衛生分野において重要な課題となっており,業種別での統計では保健衛生業における割合として78.5%と最も高率であると報告されている。厚生労働省は平成25年6月に「職場における腰痛予防対策指針」を改定し予防対策を推進する動きがある。しかし,現状では腰痛予防対策が不足しており,具体的な介入が行われていない。
そこで施設職員93名(委託業者を含む)を対象に腰痛実態のアンケート調査を実施したところ,約86%(93名中80名)が腰痛の経験や症状を有しており,腰痛と「精神状態の低下」との間に相関関係を認めた(r=0.45)。また,自己治療の方法は「運動や体操」の実施が最多数だったが,現在は効果がうすい状況だった。
アンケート調査の結果より,『運動による腰痛管理』が効果的ではないかと考え,①「就労中に行える腰痛体操プログラムを作成し,効果の検証をすること」,②「腰痛体操プログラムの取り組み継続へ向けた課題を分析すること」の2点を本研究の目的とした。
【方法】
対象は当施設常勤職員97名中,研究参加に同意が得られ,急性症状がなく,評価が可能であった20代から50代の職員72名(全体の74%)とした。
腰痛体操プログラム実施前に腰痛の自覚を認めた52名(以下「腰痛群」,男性22名,女性30名,平均年齢32.0±8.71歳)と,腰痛の自覚がなかった20名(以下「非腰痛群」,男性12名,女性8名,平均年齢33.3±9.32歳)の2群に分類し群間比較により分析した。
腰痛体操プログラムは6種の骨盤帯周囲のストレッチで構成し,所要時間は1セット5分間,原則1日2セット以上を勤務時間中(※休憩時間を含む)に行うこととした。
評価項目は,検査・測定にて腹筋群と背筋群の筋持久力と柔軟性(前方・左右側方指床間距離,脊柱自動背屈テスト)を評価し,問診票にて,痛み(Numeric Rating Scale(以下NRS)),腰痛特異的QOL(Roland-Morris Disability Questionnaire(RDQ日本語版)),抑うつ状態(Self-Rating Questionnaire For Depression(以下SRQ-D)),腰痛体操プログラムの評価(5点満点),就業状況・生活状況(1日の平均残業時間,1日の平均運動時間,1日の平均睡眠時間)について評価した。
統計学的処理は,腰痛体操プログラム実施前後の比較にウィルコクソン符号付順位和検定を,得られた結果の相関分析にスピアマンの順位相関係数を用い,いずれも危険率5%未満を有意水準とした。
【結果】
腰痛体操プログラム実施前後では,「腰痛群」において,NRS(3.38±1.80→2.70±2.09)とSRQ-D(9.88±4.81→8.48±5.43点),前方指床間距離(2.69±10.1→4.82±10.0cm)と右側方指床間距離(38.56±4.74→37.61±4.06cm),左側方指床間距離(39.45±4.63→37.93±3.87cm)が有意に改善した(p<0.05)。また「腰痛群」でのNRSの改善とSRQ-Dの改善との間に相関関係を認めた(r=0.33,p<0.01)。
一方,「非腰痛群」において1日の平均残業時間(1.28±0.94→2.15±1.34時間)が有意に増加していた(p<0.05)。
腰痛体操プログラムの満足度は平均3.5点,取り組みやすさは平均3.2点であったが,業務中の行いやすさは平均2.3点となり,勤務中での実施は難しいプログラムだった。
【考察】
腰痛の自覚症状の改善(p<0.05),体幹周囲の柔軟性の改善(p<0.05),精神状態(抑うつ感)の改善(p<0.05)に効果があることが示され,一定の成果をあげた腰痛体操プログラムであったと考える。
一方で,実施期間が1ヵ月間と非常に短期間での検証のため,長期的に実施していく中で,非腰痛群の残業時間が増加したことの影響等の検証が必要になると考える。
勤務時間や勤務内容を考慮すると就労中の実施は難しい現状が確認されたことから,一定の成果を認めたプログラムであることを動機付けとし,長期的な継続に向け,効果について検証していきたいと考える。
【理学療法学研究としての意義】
施設職員を対象に理学療法士が腰痛体操プログラムを作成,提示することでの効果が確認されたことから,施設職員の腰痛軽減に理学療法士が貢献できることを本研究の意義とする。