第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述66

運動制御・運動学習4

Sat. Jun 6, 2015 1:50 PM - 2:50 PM 第12会場 (ガラス棟 G701)

座長:池田由美(首都大学東京 健康福祉学部理学療法学科)

[O-0495] 回復期リハビリテーション病棟退院者におけるBalance Evaluation Systems Testの歩行自立を判別するカットオフ値の検討

長谷川智1,2, 大河原七生1,2, 幸地大州1, 渡辺真樹1, 臼田滋2 (1.公立七日市病院, 2.群馬大学大学院保健学研究科)

Keywords:バランス, 回復期リハビリテーション病棟, 歩行自立

【はじめに,目的】Balance Evaluation Systems Test(BESTest)は,I.生体力学的制限,II.安定性限界/垂直性,III.予測姿勢制御,IV.姿勢反応,V.感覚適応,VI.歩行安定性の6種類のセクションからなるバランス評価指標である。バランス障害の問題点を明確化することができ,理学療法プログラム立案の一助になることが期待されている。近年,短縮版のMini-BESTest,Brief-BESTestが開発されている。本研究の目的は,回復期リハビリテーション(リハ)病棟退院者における各種BESTestの歩行自立を判別するカットオフ値を検討することである。
【方法】対象は,回復期リハ病棟を退院時に杖(T字杖又は4点杖)歩行,又は杖なし歩行が監視レベル以上で可能であった69名(男性26名,女性43名,平均年齢76.8±10.0歳)とした。退院前2週間以内にBESTsetを測定し,その時点の病棟での歩行自立度を記録した。BESTestのスコアよりMini-BESTest,Brief-BESTestの得点を算出した。BESTestは各セクション,合計スコアともに得点率を算出した。BESTestは各セクションが3~7項目のテストで構成され,全27項目,左右等を加味すると36テストが含まれる。各テストは0点(最低)~3(最高)の4段階の順序尺度で評価される。Mini-BESTestはBESTestのセクションIII~VIに含まれる12項目,14テストで構成され,0(最低)~2(最高)の3段階で評価される。Brief-BESTestはBESTestの6セクションから1項目ずつ選出され,6項目8テストで構成され,BESTestと同様4段階で評価される。歩行自立度は病棟内又はそれ以上の範囲を自立して歩行することが許可となっているものを自立群とし,病棟内の一部のみ自立しているものと歩行は自立していないものを非自立群とした。歩行補助具の種類や使用の有無は問わなかった。自立群と非自立群の比較には対応のないt検定を用いた。BESTestの合計スコア,Mini-BESTest,Brief-BESTestに関して歩行自立の可否を判断するカットオフ値を検討するため,感度,特異度を算出し,Receiver Operating Characteristic Curve(ROC曲線)から曲線下面積(Area Under the Curve:AUC)を求め,Youden indexを用いて歩行自立を判断する最も適したカットオフ値を検討した。有意水準は5%とした。
【結果】対象は歩行自立群33名(男性13名,女性20名,平均年齢74.1±10.1歳),非自立群36名(男性13名,女性23名,平均年齢79.3±9.2歳)であった。BESTestの各セクションは自立群でセクションI83.6±16.5%,セクションII90.2±7.8%,セクションIII79.7±18.4%,セクションIV75.8±21.2%,セクションV88.1±10.2%,セクションVI72.7±19.1%,非自立群でセクションI52.8±19.3%,セクションII85.1±7.7%,セクションIII52.0±17.9%,セクションIV50.9±23.1%,セクションV65.2±18.9,セクションVI48.2±22.1%であり,合計スコアは自立群で86.6±14.9点(81.3±12.3%),非自立群で63.1±15.0点(58.9±13.6%)であった。Mini-BESTestは自立群で21.3±6.3点,非自立群で12.9±5.6点であり,Brief-BESTestは自立群で16.2±5.5点,非自立群で8.8±4.2点であった。自立群と非自立群の群間において,BESTestの各セクション及び合計スコア,Mini-BESTest,Brief-BESTestのいずれの項目も自立群が有意に高かった。BESTest合計スコアのカットオフ値は73点であり,感度0.85,特異度0.81,AUC0.87であった。Mini-BESTestのカットオフ値は19点であり,感度0.79,特異度0.89,AUC0.84であった。Brief-BESTestのカットオフ値は14点であり,感度0.73,特異度0.89,AUC0.85であった。
【考察】非自立群は病棟内を部分的に歩行自立している対象者も含んでいたが,病棟内を自立している自立群に比較しバランス能力が低い。バランス能力が優れている場合,歩行速度や歩行効率に優れ,より広範囲で自立することが可能になる。回復期リハ病棟入院患者において,歩行自立のカットオフ値はBESTest73点,Mini-BESTest19点,Brief-BESTest13点であった。いずれのBESTestも感度は0.79-0.85,特異度は0.81-0.89と高値を示しており,歩行自立を検討する上で有用であることが示唆された。臨床的にはBESTestより少ない項目で評価できるMini-BEST,Brief-BESTestが簡便で有用である。今後は歩行自立を判別する際のBESTestの有用性をより明確にするため,他のバランス評価指標との比較や,筋力や感覚機能などとの関連性を検討することが必要である。
【理学療法学研究としての意義】歩行自立の判別におけるBESTestのカットオフ値が有用である可能性が示され,BESTestは臨床的意義が高いことが示唆された。