第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述66

運動制御・運動学習4

Sat. Jun 6, 2015 1:50 PM - 2:50 PM 第12会場 (ガラス棟 G701)

座長:池田由美(首都大学東京 健康福祉学部理学療法学科)

[O-0499] Dual-task walkingによる疼痛緩和効果への影響

服部貴文1, 高沢百香1, 城由起子2, 松原貴子1 (1.日本福祉大学健康科学部, 2.名古屋学院大学リハビリテーション学部)

Keywords:疼痛緩和, dual task, 歩行

【はじめに,目的】運動は,慢性痛患者の疼痛および機能障害を改善するとのエビデンスが示されており,各国の疼痛診療ガイドラインにおいて強く推奨されている。また,運動による疼痛緩和(exercise-induced hypoalgesia:EIH)メカニズムには内因性疼痛抑制系の他,運動野や運動前野の活動による疼痛関連脳領域を介した下行性疼痛修飾系が関与する可能性が示されている(Ahmed 2011)。我々はこれまでに,運動の中でも歩行のような全身運動がEIHに有効であることを報告した(山形2013)。また,EIHが生じない者では交感神経の生理的反応が減弱していた(城2012)ことから,EIHには運動に伴う自律神経系の反応性も影響する可能性が示唆された。一方,手指運動のような局所運動であっても,注意要求課題を付加した認知-運動二重課題であればEIHが得られた(前野2014)ことから,歩行に注意要求課題を負荷することでEIH効果は増大する可能性が考えられる。しかし,歩行に計算課題のような認知課題を付加したdual-task walkingは,運動パフォーマンスを低下させると指摘されていることから(Dann 2014),転倒リスクのため臨床への応用は困難である。そこで本研究は,歩行に速度制御や姿勢保持といった注意要求を伴う運動課題を付加したdual-task walkingによるEIH効果と自律神経反応について調べた。
【方法】対象は健常成人45名(男性24名,女性21名,年齢21.7±0.9歳)とし,自由な歩行速度で室内歩行を行う対照(control:C)群,あらかじめ測定した各対象の快適速度に設定したトレッドミル上で一定速度を維持しながら歩行する単一課題(single task:ST)群,STに加え2分間隔で直立姿勢を保持するよう注意喚起する二重課題(dual task:DT)群の3群(各群15名)に無作為に分類し,各15分間行わせた。評価項目は,下腿と前腕の圧痛閾値(pressure pain threshold:PPT),自律神経活動の指標として心拍変動(hate rate variability:HRV),課題に対する注意の程度(visual analogue scale:VAS),自覚的運動強度(Borg scale)とした。PPTはデジタルプッシュプルゲージ(RX-20,AIKOH社)を用い,課題前(pre),終了直後(post 0)および5分後(post 5)に測定した。HRVは携帯型HRV記録装置(AC-301,GMS社)を用いて心電図を経時的に記録し,心拍数および心電図R-R間隔の周波数解析から低周波数成分(LF:0.04~0.15 Hz),高周波数成分(HF:0.15~0.40 Hz,副交感神経活動指標)およびLF/HF比(LF/HF,交感神経活動指標)を算出し,PPTの測定に対応した時点のそれぞれ前1分間の平均値を測定値とした。統計学的解析は,経時的変化の比較にはFriedman検定およびTukey-typeの多重比較検定,群間比較にはKruskal-Wallis検定およびDunn’s法による多重比較検定を用い,有意水準は5%とした。
【結果】PPTは,下腿でpreに比べC群でpost 0,ST群とDT群でpost 0とpost 5に上昇し,DT群がC群に比べpost 5で有意に高値を示した。前腕ではC群に変化なく,ST群とDT群でpost 0とpost 5に上昇し,DT群がC群に比べpost 0とpost 5で有意に高値を示した。心拍数とLF/HFは3群とも課題中に増大,HFは減衰し,またLF/HFはDT群がC群に比べ課題中に高値を示した。課題に対する注意の程度はDT群が他群に比べ高値であり,自覚的運動強度は3群で差がなかった。
【考察】有酸素運動によるEIHは強度と時間に依存するとされているが,注意要求を伴う運動課題を付加することで,快適速度のような低負荷歩行であってもEIH効果は得られ,その効果はdual-task walkingで最も顕著であった。また,すべての群の歩行条件で自覚的運動強度や運動中の心拍数に差がなかったにもかかわらず,DT群で交感神経活動の最も著明な増大を認めた。歩行に注意要求課題を付加することで前頭前野は賦活し(Dann 2014),また前頭前野の活動は下行性疼痛修飾系を作動させることが知られている。これらのことから,一定速度を維持したうえに姿勢保持に注意を向けるdual-task walkingは,注意要求が増強し,より下行性疼痛修飾系を作動させる可能性が考えられ,EIH効果を増大させうることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】疼痛患者にも適応可能な快適速度による低負荷歩行に簡便に注意を向けうる運動課題を付加したdual-task walkingは,運動への注意要求が高まることからEIH効果を増大させるとともに,転倒リスクが低いことから,安全性と有効性を兼ね備えた痛みの運動療法として臨床への応用が期待される。