[O-0514] 線条体出血モデルラットに対するトレッドミル運動は成長抑制因子の発現を抑制する
キーワード:脳出血, トレッドミル, 成長抑制因子
【目的】我々は,線条体出血モデルラットを用いて脳損傷後の運動療法の効果およびその作用メカニズムの解析を行っている。これまで,線条体出血により,直接的に損傷を受けていない大脳皮質の神経細胞が二次的に変性され,樹状突起の退縮が認められることを報告した。さらに,線条体出血後早期からトレッドミル運動を行うことにより運動機能回復が促進し,大脳皮質運動野における樹状突起の退縮が抑制されることを示した。その詳細なメカニズムを解明する第一段階として,昨年の本学術大会において成長抑制因子であるNogo-A陽性細胞数が線条体出血後に大脳皮質運動野で増加することを報告した。Nogo-AはRho/ROCK経路を介して神経細胞の成長抑制作用を有することが報告されている。一方,成長促進因子であるBDNFはTrkBを介してこの成長抑制作用に拮抗する作用を有する事が報告されている。我々が報告したトレッドミル運動による樹状突起の退縮抑制作用において,成長抑制因子および成長促進因子が関与していることが考えられるが,線条体出血モデルラットにおける報告はない。そこで,本研究では線条体出血後のトレッドミル運動が成長促進因子(TrkB)および成長抑制因子(Nogo-A,ROCK)に及ぼす影響を解析した。
【方法】実験動物にはWistar系雄性ラット(8週齢)を用いた。深麻酔下にて左線条体にコラゲナーゼ(Type IV)を1.2 μl注入し,線条体出血モデル(以下ICH群)を作成した。偽手術群(以下sham群)には同様の手順で1.2 μlの生理食塩水を注入した。トレッドミル運動は手術4日後から14日後まで速さ9 m/minで一日30分間毎日実施した。実験群はsham非運動群(SC),sham運動群(SE),ICH非運動群(IC),ICH運動群(IE)の4群とした。運動機能評価にはmotor deficit score(MDS),beam walking test,cylinder testを用いた。評価は手術前,手術後1,3,7,15日目に実施した(各群n=10)。手術後15日目,生理食塩水で脱血後,脳を摘出し,両半球の大脳皮質運動野領域を採取した。ウエスタンブロットにより,大脳皮質運動野におけるTrkB,Nogo-A,ROCKのタンパク量を解析した(各群n=3)。
【結果】運動機能テスト(MDS,beam walking test,cylinder test)により,ICH群は出血翌日より前肢および後肢に運動麻痺を呈していることが示され,15日目までその運動麻痺の残存を示した。MDS,beam walking testにおいてIE群はIC群に対して有意な運動機能回復を示した(P<0.05)。Cylinder testではIE群とIC群との間に有意差は認められなかった。ウエスタンブロットの結果,TrkBは群間に有意差は認められなかった。Nogo-Aは群間で有意差は認められなかったが,ICはSCに対して発現量が高い傾向であった(P=0.075)。ROCKはICがSCに対して有意に発現量が高く(P<0.05),IEに対しても発現量が高い傾向であった(P=0.09)。
【考察】線条体出血後のトレッドミル運動は運動機能回復を促進することが示された。ウエスタンブロットの結果,線条体出血後に成長抑制因子であるNogo-Aとその下流シグナルに位置するROCKの発現が増加している傾向が示された。さらに,線条体出血後にトレッドミル運動を実施すると,ROCK発現量をshamと同程度に抑える作用が示された。この知見は,我々が先行研究で示した線条体出血後に樹状突起の退縮が生じた機序およびトレッドミル運動による樹状突起退縮抑制の作用機序の一端を示したものと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】本研究は,線条体出血後に大脳皮質で生じる遅発的な神経細胞の変性メカニズムと運動療法の作用機序の一端を示しており,科学的根拠に基づいた理学療法の実践に繋がると考えられる。
【方法】実験動物にはWistar系雄性ラット(8週齢)を用いた。深麻酔下にて左線条体にコラゲナーゼ(Type IV)を1.2 μl注入し,線条体出血モデル(以下ICH群)を作成した。偽手術群(以下sham群)には同様の手順で1.2 μlの生理食塩水を注入した。トレッドミル運動は手術4日後から14日後まで速さ9 m/minで一日30分間毎日実施した。実験群はsham非運動群(SC),sham運動群(SE),ICH非運動群(IC),ICH運動群(IE)の4群とした。運動機能評価にはmotor deficit score(MDS),beam walking test,cylinder testを用いた。評価は手術前,手術後1,3,7,15日目に実施した(各群n=10)。手術後15日目,生理食塩水で脱血後,脳を摘出し,両半球の大脳皮質運動野領域を採取した。ウエスタンブロットにより,大脳皮質運動野におけるTrkB,Nogo-A,ROCKのタンパク量を解析した(各群n=3)。
【結果】運動機能テスト(MDS,beam walking test,cylinder test)により,ICH群は出血翌日より前肢および後肢に運動麻痺を呈していることが示され,15日目までその運動麻痺の残存を示した。MDS,beam walking testにおいてIE群はIC群に対して有意な運動機能回復を示した(P<0.05)。Cylinder testではIE群とIC群との間に有意差は認められなかった。ウエスタンブロットの結果,TrkBは群間に有意差は認められなかった。Nogo-Aは群間で有意差は認められなかったが,ICはSCに対して発現量が高い傾向であった(P=0.075)。ROCKはICがSCに対して有意に発現量が高く(P<0.05),IEに対しても発現量が高い傾向であった(P=0.09)。
【考察】線条体出血後のトレッドミル運動は運動機能回復を促進することが示された。ウエスタンブロットの結果,線条体出血後に成長抑制因子であるNogo-Aとその下流シグナルに位置するROCKの発現が増加している傾向が示された。さらに,線条体出血後にトレッドミル運動を実施すると,ROCK発現量をshamと同程度に抑える作用が示された。この知見は,我々が先行研究で示した線条体出血後に樹状突起の退縮が生じた機序およびトレッドミル運動による樹状突起退縮抑制の作用機序の一端を示したものと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】本研究は,線条体出血後に大脳皮質で生じる遅発的な神経細胞の変性メカニズムと運動療法の作用機序の一端を示しており,科学的根拠に基づいた理学療法の実践に繋がると考えられる。