第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述68

人体構造・機能情報学2

2015年6月6日(土) 15:00 〜 16:00 第9会場 (ガラス棟 G409)

座長:前島洋(北海道大学 大学院保健科学研究院 機能回復学分野)

[O-0517] 脊髄損傷後の皮質脊髄路再編成におけるリハビリテーションの効果

中西徹, 藤田幸, 山下俊英 (大阪大学大学院医学系研究科分子神経科学)

キーワード:脊髄損傷, 可塑性, 機能回復

【はじめに,目的】
近年,脊髄不完全損傷モデル動物を使った実験により,皮質脊髄路から発芽した側枝が,損傷を免れた脊髄固有ニューロンに接続して代償的な神経回路を形成することで,脊髄損傷後の運動機能回復に寄与することが明らかとなった。この過程で,皮質脊髄路軸索は損傷後に過剰な側枝を伸長するが,標的細胞とシナプスを形成した側枝のみが残り,神経回路に組み込まれなかった余分な側枝は刈り込みを受ける。本研究では,リハビリテーションが皮質脊髄路からの側枝の刈り込みを促進することで,損傷後の運動機能回復に寄与する可能性について検証した。

【方法】
生後7週齢の雌のマウスに対して,背側脊髄の半側切断術を施す群(脊髄損傷群)と椎弓切除のみを施す群(コントロール群)を作成した。さらに,脊髄損傷群を,術後2週から4週にかけてRotarodを使用したトレーニングを行う群(トレーニング群)と行わない群(ノントレーニング群)に振り分けた。これらの群に対して,大脳皮質運動野後肢領域に順行性トレーサーであるBiotinylated dextran amine;BDAを注入し,頸髄において後索から灰白質へ投射する皮質脊髄路の側枝の数を解析した。さらに,脊髄損傷後の運動機能の回復過程を運動機能評価法であるBMS score,Rotarod test,Grid-walking testを用いて評価した。統計にはTukey-Kramer testとT検定を用い,統計学的有意水準は5%未満とした。

【結果】
BDAにより標識された皮質脊髄路からの側枝の本数を解析したところ,非損傷群に比べ,脊髄損傷群では損傷後10日で有意な増加が認められた。また,損傷後10日から28日にかけて有意な減少が認められ,刈り込みがおきた事が示唆された。脊髄損傷28日後,ノントレーニング群に比べ,トレーニング群では側枝の本数の有意な減少が認められ,刈り込みの促進が示唆された。また,損傷後の運動機能評価をBMS score,Grid-walking test,Rotarod testにより解析した。

【考察】
本研究により,脊髄損傷後10日目までに皮質脊髄路軸索からの代償的な側枝形成が生じることが確認された。脊髄損傷後10日から28日にかけて側枝数が減少することから,この期間に側枝が刈り込まれることが示唆された。また,Rotarodを用いたトレーニングによって,皮質脊髄路からの側枝の刈り込みと,運動機能の回復が促された。以上のことから,Rotarodを用いたトレーニングは,皮質脊髄路からの側枝の刈り込みを促し,運動機能の回復に寄与していることが示唆された。

【理学療法学研究としての意義】
本研究は,中枢神経障害後の代償的神経回路の構築過程において,リハビリテーションが側枝の刈り込みによる神経回路の精密化を促すことで,運動機能の改善に寄与することを示唆するものである。本研究の成果は,リハビリテーションの科学的エビデンスを明らかにすると共に,最適なリハビリテーションアプローチの開発に貢献するものである。