[O-0523] 地域在住高齢者における抑うつ症状と歩行時の体幹加速度によって評価された歩行の規則性の関係
キーワード:地域在住高齢者, 歩行, 抑うつ
【はじめに,目的】
大うつ病は精神症状のみならず身体症状を呈し,日常生活・社会生活に重大な支障をきたすという点で地域在住高齢者において重要な疾患であるが,その診断基準に満たない軽度の抑うつ症状を持つものも多数存在するといわれている。地域在住高齢者において,抑うつ症状を持つものは身体機能や認知機能の低下が生じることが報告され,さらには転倒リスクが高くなることも明らかとなっている。抑うつ症状を持つものにおける転倒を予防するためには,転倒が特に歩行中に発生することを考えると,抑うつ症状により歩行がどのような影響を受けるのか知ることは重要である。安定した歩行には,身体の重心が存在し,身体の中で最も大きい部位を占めるために慣性力の影響を強く受ける体幹の動きが非常に重要となる。しかし,高齢者において抑うつ症状が歩行時の体幹の動きに与える影響は未だ明確になっていない。そこで,本研究の目的は,地域在住高齢者における抑うつ症状と歩行時の体幹の動きとの関係を明らかにすることとした。
【方法】
対象者は,60歳以上の地域在住高齢者120名のうち,Rapid Dementia Screening Test(以下,RDST)の点数が7点以下であり認知機能の低下が疑われる者,Geriatric Depression Scale(以下,GDS)の点数が10点以上であり大うつ病を有する疑いがある者,脳卒中の既往を持つ者の24名を除外した96名(73.0±4.2歳,男性39名)であった。抑うつ症状はGDSを用いて評価した。歩行時の体幹の動きの評価は3軸加速度計を用い,自由歩行における体幹の加速度変化を計測した。3軸加速度計は第3腰椎棘突起(以下,L3)に装着した。歩行路は加速路・減速路を各2.5m,その間の測定路を10mとし,測定路の歩行速度の計測も実施した。得られた加速度データより,垂直(VT)・左右(ML)・前後(AP)の各方向における加速度波形の自己相関係数(Autocorrelation Coefficient:以下,AC)を算出した。ACは歩行時のL3の動きの規則性を示す指標として,加速度波形に1ストライド分の時間の遅れを与えた波形と元の波形との相関係数を求めることによって算出され,0から1の値をとり,値が1に近づくほど規則性が高いことを示す。また,その他の身体機能の評価として下肢筋力指標である5 Chair Stand Test(以下,5CS)の測定も実施した。統計解析として,GDSと歩行速度および各方向のACとの関係を見るためにSpearmanの順位相関係数を求めた。その後,従属変数を各方向のAC,独立変数をGDS,年齢,性別,5CS,歩行速度として強制投入した重回帰分析を行った。統計学的有意水準は5%未満とした。
【結果】
GDSと歩行速度,各方向のACに有意な相関が見られた(歩行速度:r=-0.14,p<.05,AC-VT:r=-0.23,p<.05,AC-ML:r=-0.27,p<.01,AC-AP:r=-0.27,p<.01)。ML,AP方向のACは重回帰分析においても,GDSとの独立した有意な関連が見られた(AC-ML:標準化偏回帰係数=-0.23,p<.05,AC-AP:標準化偏回帰係数=-0.23,p<.05)。
【考察】
本研究の結果より,地域在住高齢者において,抑うつ症状が強くなるほど歩行時のML,AP方向の体幹の動きの規則性が低下することが示唆された。これまで,抑うつ傾向を持つ高齢者における歩行機能については,歩行速度の低下やストライド長の増加,遊脚期時間のばらつきの増大が生じることが報告されている。本研究の結果は,先行研究の結果を支持・拡大するものであると考えられる。また,歩行時の体幹の動きの規則性が低いことが転倒のリスクファクターの一つであると報告されていることから,本研究は,抑うつ症状と転倒との関係を説明するうえで重要な情報となるかもしれない。
【理学療法研究としての意義】
本研究の結果より,抑うつ症状を持つ高齢者は歩行の安定性が低下していることが示唆され,その改善の必要性が考えられた。抑うつ症状をもつ高齢者は地域に住む高齢者だけでなく臨床現場においても存在することを考慮すると,本研究の結果は理学療法士においても重要な情報になると考える。
大うつ病は精神症状のみならず身体症状を呈し,日常生活・社会生活に重大な支障をきたすという点で地域在住高齢者において重要な疾患であるが,その診断基準に満たない軽度の抑うつ症状を持つものも多数存在するといわれている。地域在住高齢者において,抑うつ症状を持つものは身体機能や認知機能の低下が生じることが報告され,さらには転倒リスクが高くなることも明らかとなっている。抑うつ症状を持つものにおける転倒を予防するためには,転倒が特に歩行中に発生することを考えると,抑うつ症状により歩行がどのような影響を受けるのか知ることは重要である。安定した歩行には,身体の重心が存在し,身体の中で最も大きい部位を占めるために慣性力の影響を強く受ける体幹の動きが非常に重要となる。しかし,高齢者において抑うつ症状が歩行時の体幹の動きに与える影響は未だ明確になっていない。そこで,本研究の目的は,地域在住高齢者における抑うつ症状と歩行時の体幹の動きとの関係を明らかにすることとした。
【方法】
対象者は,60歳以上の地域在住高齢者120名のうち,Rapid Dementia Screening Test(以下,RDST)の点数が7点以下であり認知機能の低下が疑われる者,Geriatric Depression Scale(以下,GDS)の点数が10点以上であり大うつ病を有する疑いがある者,脳卒中の既往を持つ者の24名を除外した96名(73.0±4.2歳,男性39名)であった。抑うつ症状はGDSを用いて評価した。歩行時の体幹の動きの評価は3軸加速度計を用い,自由歩行における体幹の加速度変化を計測した。3軸加速度計は第3腰椎棘突起(以下,L3)に装着した。歩行路は加速路・減速路を各2.5m,その間の測定路を10mとし,測定路の歩行速度の計測も実施した。得られた加速度データより,垂直(VT)・左右(ML)・前後(AP)の各方向における加速度波形の自己相関係数(Autocorrelation Coefficient:以下,AC)を算出した。ACは歩行時のL3の動きの規則性を示す指標として,加速度波形に1ストライド分の時間の遅れを与えた波形と元の波形との相関係数を求めることによって算出され,0から1の値をとり,値が1に近づくほど規則性が高いことを示す。また,その他の身体機能の評価として下肢筋力指標である5 Chair Stand Test(以下,5CS)の測定も実施した。統計解析として,GDSと歩行速度および各方向のACとの関係を見るためにSpearmanの順位相関係数を求めた。その後,従属変数を各方向のAC,独立変数をGDS,年齢,性別,5CS,歩行速度として強制投入した重回帰分析を行った。統計学的有意水準は5%未満とした。
【結果】
GDSと歩行速度,各方向のACに有意な相関が見られた(歩行速度:r=-0.14,p<.05,AC-VT:r=-0.23,p<.05,AC-ML:r=-0.27,p<.01,AC-AP:r=-0.27,p<.01)。ML,AP方向のACは重回帰分析においても,GDSとの独立した有意な関連が見られた(AC-ML:標準化偏回帰係数=-0.23,p<.05,AC-AP:標準化偏回帰係数=-0.23,p<.05)。
【考察】
本研究の結果より,地域在住高齢者において,抑うつ症状が強くなるほど歩行時のML,AP方向の体幹の動きの規則性が低下することが示唆された。これまで,抑うつ傾向を持つ高齢者における歩行機能については,歩行速度の低下やストライド長の増加,遊脚期時間のばらつきの増大が生じることが報告されている。本研究の結果は,先行研究の結果を支持・拡大するものであると考えられる。また,歩行時の体幹の動きの規則性が低いことが転倒のリスクファクターの一つであると報告されていることから,本研究は,抑うつ症状と転倒との関係を説明するうえで重要な情報となるかもしれない。
【理学療法研究としての意義】
本研究の結果より,抑うつ症状を持つ高齢者は歩行の安定性が低下していることが示唆され,その改善の必要性が考えられた。抑うつ症状をもつ高齢者は地域に住む高齢者だけでなく臨床現場においても存在することを考慮すると,本研究の結果は理学療法士においても重要な情報になると考える。