第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

参加型症例研究ディスカッション 口述8

がんのリハビリテーション

2015年6月6日(土) 16:10 〜 17:10 第5会場 (ホールB5)

座長:八並光信(杏林大学 保健学部理学療法学科), 皮居達彦(横浜市立脳血管医療センター)

[O-0538] 疼痛誘発への不安により身体機能の低下を認めた乳癌骨転移患者に対する運動療法の効果

近藤寛1, 芥川知彰1, 室伏祐介1, 高橋みなみ1, 小田翔太1, 細田里南1, 永野靖典1, 池内昌彦1,2 (1.高知大学医学部附属病院リハビリテーション部, 2.高知大学医学部附属病院整形外科)

キーワード:疼痛, 骨転移, がんのリハビリテーション

【目的】乳癌骨転移に対する治療により疼痛をコントロールしたにも関わらず,疼痛誘発への不安が強く不活動のために,身体機能が低下した症例を経験した。今回,適切な動作指導を行い,段階的に方法や負荷量を変更した結果,疼痛への破局的思考は改善し,身体機能の向上を認めたため報告する。
【症例提示】症例は60歳代の女性である。H25年2月に腰痛と下肢脱力感を認め,3月に当院受診し,左乳癌の脊椎転移と診断された。4月から治療を開始したが,7月に骨転移増悪を認め,入院となった。
【経過と考察】入院5日目にがんのリハビリテーションを開始した。開始時から安静時痛・運動時痛ともに認めなかった。しかし,疼痛への不安表出や悲観的な発言を認め,破局的思考を評価するPain Catastrophizing Scale(PCS)は41点で,カットオフ値を上回った。歩行は歩行器にて20m程度が限界で,10m歩行:31.8秒,TUG:21.8秒と身体機能の低下を認めた。開始3日目から疼痛を誘発しないことを説明して動作指導を行い,段階的に方法や負荷量を変更し,疼痛と運動は連動しないことを経験させた。1週でT字杖歩行が可能となり,歩行距離延長,介助量軽減を認め,29日目に退院した。退院時も疼痛は認めず,PCSは28点に改善し,不安や悲観的な発言も軽減した。歩行は200m程度可能になり,10m歩行:15.2秒,TUG:11.5秒と身体機能の改善を認めた。
乳癌骨転移に対して,放射線や薬物療法により身体的苦痛を抑制する事で骨関連事象を減らし,ADLを維持・向上するとされている。しかし,疼痛は不安による精神的苦痛も存在し,否定的な思考や認知の歪みは活動量や身体機能を低下させる。そのため,認知と行動の歪みを是正し,活動性を向上させる必要がある。今回,後続刺激として,段階的に変更した歩行距離や時間を終了時にフィードバックし,賞賛を与えた。結果,疼痛と運動は連動しないことを認知し,身体機能の向上に繋がったと考える。