第50回日本理学療法学術大会

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口述

セレクション 口述11

管理運営

Sat. Jun 6, 2015 4:10 PM - 5:10 PM 第7会場 (ホールD5)

座長:三宅わか子(星城大学リハビリテーション学院)

[O-0542] アウトカム基盤型教育の導入後の経時的変化

学習者と教育者の視点

三岡相至1, 吉田生馬2 (1.医療法人社団昌医会葛西昌医会病院リハビリテーション科, 2.医療法人社団昌医会葛西昌医会病院消化器内科)

Keywords:アウトカム基盤型教育, 学習者, 教育者

【はじめに,目的】当科では,平成24年度よりThe Institute for International Medical Education(国際医学教育機関,以下IIME)のGlobal Minimum Essential Requirements(世界の医学教育に共通に求められる,卒業に求められる,卒業時点の医師が身につけているべき能力,以下GMER)の7項目の医学的目標を考慮したアウトカム基盤型を教育方法に導入した。平成25年には,導入後5ヵ月経過時点(以下24年と略す)での臨床3年以上の教育者と臨床1年未満の学習者へのアンケート結果について,その違いを考察し報告した。本研究では,その後2年経過(以下26年と略す)した当科職員の学習者と教育者の変化について比較し考察を加え報告する。
【方法】対象は,平成24年学習者20名,教育者37名の合計57名のアンケート調査結果と,平成26年学習者15名,教育者18名の合計33名。教育者と学習者は,1年に1度以上GMERを理解するための学習機会をもった。また,一般目標とそれを達成するための行動目標(群)の設定,省察や問題解決を援助する関わりを持つ環境であった。アンケートは自記式質問票の自由記述式調査票を用い,学習者と教育者の到達目標を24年と26年の違いについて検討した。アンケート結果である設定目標は,用語を理解した3名により7つのGMERに分類した。
【結果】調査票の回収率は,24年の学習者97.7%,教育者64.9%,26年の学習者100%,教育者97.6%であった。24年の学習者で過半数を超えた項目は,職業人としての価値・姿勢・態度・倫理66.7%,コミュニケーション技術50.0%であった。教育者で過半数を超えた項目はなかったが,職業人としての価値・姿勢・態度・倫理37.5%,臨床技術25.0%の順であった。26年の学習者では,医学における科学的基礎60.0%,公衆衛生および保険制度53.3%であった。コミュニケーション技術は0.0%であった。教育者で過半数を超えた項目は,職業人としての価値・姿勢・態度・倫理66.7%のみであった。
【考察】
アウトカム基盤型の教育手法は,学習者の能動的な学習参加を促すことで,最終的な到達目標が明確となり,学習に責任をもたせることができるとされている。今回の結果より,24年から26年に教育者側で変化していったものとして,職業人としての価値・姿勢・態度・倫理であったことから,アウトカム基盤型教育自体が職業人としての価値観や態度などを形成していく方法であると考えられた。なぜなら,Sean. Hiltonは「良い専門家とは内省かつ倫理的に行動するものである」とプロフェッショナリズムを定義している。学習者の主体的な学習を支援するための一般目標や行動目標の設定や振り返り,到達可能なぎりぎりの目標設定が,職業人としての洗練された行動規範の形成へとつながっていくと考えられる。
一方,学習者ではコミュニケーション技術が50.0%から0.0%と変化し,医学における科学的基礎60.0%,公衆衛生および保険制度53.3%へと変化した。これは,学習者の成長モデルを表していると考えられた。まず初学者としての学習目標をコア・コンピーテンシーとしてのコミュニケーション技術や情報管理などにおき,徐徐にどの疾患でも対応できる能力と患者の抱える真の目標獲得として,患者転帰モデルを学習課題の中心にすえていると考えられた。ゆえに,この姿は学習者に対する教育支援のあるべき姿が示されていると考えられ,経験年数に応じた到達目標の設定が可能となると考えられる。
ところで,26年の学習者と教育者ともに批判的思考と研究は高い傾向になかった。批判的思考や研究が不足することは,経験に基づく知識は増えるものの,知識に基づく経験とならないため,技術の応用が困難となる可能性がある。7つのGMERのバランスを考慮し偏った教育にならぬような教育者側の視点も必要であり,7項目の構成要素を考慮したコア・カリキュラムとしての目標を提示することが課題と考えられた。
【理学療法学研究としての意義】アウトカム基盤型教育手法導入後,2年経過した当科の学習者および教育者の目標設定を過去と現在を比較検討し,現状からの課題を抽出した。アウトカム基盤型教育を導入することにより,学習者のみならず教育者も専門職業職者としての強い自覚を有していくことが示唆された。これは,臨床医学教育におけるアウトカム基盤型教育の導入の必要性を示唆するものである。生涯学習者としての変化しつづける医療人を育てる方法であることが示唆された。