第50回日本理学療法学術大会

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口述

セレクション 口述11

管理運営

Sat. Jun 6, 2015 4:10 PM - 5:10 PM 第7会場 (ホールD5)

座長:三宅わか子(星城大学リハビリテーション学院)

[O-0543] マタニティ・ハラスメントに対する意識調査

市川保子1,2, 中邑まりこ1,3, 河合麻美1, 飯高加奈子1, 板垣美鈴1, 大林松乃1, 大和田まりや1, 奥住彩子1, 山田紀子1 (1.PTママの会, 2.志豊会特別養護老人ホーム松葉園, 3.藤リハビリテーション学院)

Keywords:妊娠, マタニティ・ハラスメント, 女性就労

【はじめに,目的】
「PTママの会」(以下,本会)が発足し6年目を迎え,妊娠・出産・育児の過程において就労上での悩みが会員より多く寄せられている。マタニティ・ハラスメント(以下マタハラ)とは,働く女性が妊娠・出産を理由として職場で受ける精神・肉体的に不当な扱いをいう。今回,本会会員に就労におけるマタハラの意識・実態調査を行い,検討したのでここに報告する。

【方法】
本会会員330名を対象とし,全会員へ調査内容について説明,協力の意思を確認できた女性会員に調査を実施した。本会主催の勉強会(2013年4,2014年6月)参加者は即日回収し,その他会員にはE-mailを用いて調査を行い回収した(2014年7月から8月)。質問紙調査は無記名,選択回答および自由回答方式で実施した。
調査内容は1)働く女性を保護する妊娠・出産に関する法律・制度について2)妊娠・出産・子育てに関する職場環境と心理3)マタハラの実情について聴取した。

【結果】
回答は66名より得られ,回収率は21%だった。
1)働く女性を保護する妊娠・出産に関する法律・権利:全く知らない12.1%,法律・内容の一部を知っている54.5%,両方知っている33.3%であった。職場の妊娠・出産をする女性社員への支援制度:制度があり十分に活用している23%,制度は特にない25.7%,制度はあるが活用を推励する雰囲気ではなく,十分に活用されていない10.6%,制度はあるがよくわからない10.6%,無回答4.5%であった。
2)妊娠・出産・子育てに関する職場環境と心理:在職中の妊娠では71.2%が不安を感じたと答え,仕事と育児の両立では60%が働きながら子育てしたいと答えた。また,他職員と対等に仕事ができない負い目を感じる30.7%,トランスファーや歩行介助等腹部への負担の心配が26%,妊娠を上司・他職員へ報告するタイミングに悩むが12.8%と多かった。
3)マタハラの実情:マタハラを受けた経験有り42.4%,無し45.4%,無回答・妊娠未経験12.1%であった。自身の周囲で「職場にマタハラにあった人を見聞きした」の有無:有り48.4%,無し40.9%,無回答は10.6%となった。マタハラの内容:心無い言葉を言われた41.4%,相談できる職場文化がなかった17.0%で多かった。マタハラを受けた際の対応:家族に相談した28.9%,我慢した・相談しなかった23.6%,職場の上司・同僚・専門部署等への相談31.5%であった。マタハラが起こる原因:男性社員の妊娠・出産への理解不足22.9%,会社の支援制度設計や運用の徹底不足18.9%,職場の定常的な業務過多15.5%,女性社員の妊娠・出産への理解不足13.1%となった。


【考察】
本調査から,働きながら妊娠・子育てする権利が法律で守られていることを内容まで理解しているものは33%に留まった。職場で女性支援の制度を活用できているものは23%で,本会先行研究「理学療法士における妊娠経過の現状2011」では,70%以上の施設で妊娠に関わる業務軽減や配慮はあると回答を得ていることから,当事者が法律,制度を知ることと同時に,職場で制度を活用出来る体制作りがマタハラ回避の一手段になると考える。また,仕事と育児の両立を希望する者が60%を占める一方,マタハラ経験者は40%となり,働きながら妊娠した女性の25%がマタハラ経験者という報告(日本労働組合総連合)を上回る結果となった。マタハラの内容としては言葉によるものが多く,精神的な苦痛は社会的に表面化されにくい部分でもある。さらに,原因では他職員の理解不足,支援体制の活用不足が多かったことから,職場の妊娠・出産に対する理解,リスクマネジメント周知が重要であると考えられる。また,(公社)日本理学療法士協会(以下協会)が行った「女性理学療法士就業環境調査2010」では,妊娠・出産時のトラブルの有無で,切迫流産は25%,切迫早産は18%となっており,一般労働者の切迫流産17%,切迫早産15%(日本女性労働協会)より上回っている。これは,腹部等への負担を心配しながらも他職員と対等に仕事ができない負い目を感じる者が多く,女性理学療法士では無理をしやすい傾向があると推測される。これらの現状を踏まえ,協会においても妊娠経過や業務上リスクについて会員へ向けた啓発活動が重要であると考える。
最後に,妊娠の経過は個々で異なるため,当事者と職場の相互理解を深めることが大切で,普段からの密な対話が必要といえる。

【理学療法学研究としての意義】
協会会員の40%が女性であり,働きながら妊娠・子育てをできる環境作りは必要である。本研究から得られた結果を共有することで,女性の就業継続や就労における質の向上について貢献できると考える。