[O-0567] 高校生サッカー競技者を対象にした競技復帰時全身持久性における基準の検討
~二重積変曲点と心拍数二乗法を用いたATの算出~
Keywords:競技復帰, 二重積変曲点, 心拍数二乗法
【はじめに,目的】
アスリートにおいて膝前十字靱帯損傷や半月板損傷等の外傷は,動作制限により競技活動性の高いレベルを維持する上で大きな支障となり復帰に長期間を要する。膝前十字靭帯損傷を例に挙げると当院の前十字靭帯再建術後プロトコルにおいて,全身持久性のトレーニングといえる下肢エルゴメータは術後4週,ジョギングは7週より許可されている。これらのトレーニングが許可されるまでの期間はもちろん,競技復帰までの期間において活動制限による全身持久性の低下が起こることが予想される。そのため競技復帰には外傷部位の機能回復のみではなく,活動性の低下で衰えた全身持久性を健常競技者レベルへ向上させることが必要になる。ヒトの有酸素性運動能力の指標であるとされている嫌気性代謝閾値(Anaerobic Threshold:AT)の算出には呼気ガス分析装置を用いるのが一般的だが,測定できる環境であることは少ない。しかしながら我々が調べた限りでは健常競技者を対象にした全身持久性の基準は,呼気ガス分析装置を使用したもの以外では明確にされていない。今回,健常高校生サッカー競技者を対象に,呼気ガス分析装置を用いたAT算出と高い相関関係にあり,簡便な方法とされている二重積変曲点(Double Product Break Point:DPBP),心拍数二乗法から競技復帰時における基準の明確化を試み,復帰までのリハビリテーションに反映させることを目的とした。
【方法】
健常高校生サッカー競技者のうち,研究の主旨を説明し同意が得られた20名を対象として下肢エルゴメータを用いて運動負荷試験を実施した。運動負荷はramp負荷で行い,エルゴメータ上での3分間の安静後,1分間のウォーミングアップに続いて初期負荷20Wattsで漸増負荷運動(20Watts/分)を行った。測定項目は収縮期血圧,心拍数とし,それぞれ非観血的手動血圧計とパルスオキシメータを使用して1分毎に測定した。運動の中止基準は,呼吸困難,眩暈,狭心痛などの自覚症状に加え,予測最大心拍数の85%に到達したとき,エルゴメータの回転数(50rpm)の維持が困難になった時点とした。なお収縮期血圧と心拍数を用い,DPBP,心拍数二乗法における視覚的に上昇度合いの大きい時点をATと定義し,Wattsの平均値を求め各個人の体重で除した値を基準とした。
【結果】
本研究で得られたDPBPの平均値は18347.5±4738.7mmHg×beats,検出時のWattsを体重で除した値の平均は2.2±0.6Watts/kgであった。心拍数二乗法による上昇点の平均値は18700.7±6395.1beats×beats,検出時のWattsを体重で除した値の平均は2.5±0.8Watts/kgであった。
【考察】
先行研究において,大槻らは10名の健常成人男性(23.8±2.5歳)を対象に下肢エルゴメータにて測定したDPBPの平均値は15992.1±1279.5 mmHg×beatsで検出時は61.0±11.0Watts,心拍数二乗法による上昇点は15635.9±1176.6 beats×beatsで検出時は59.0±12.9Wattsであったと報告している。今回は高校生サッカー競技者を対象としており,一般成人男性を対象とした先行研究の値よりも高値となることが予想されたが,標準偏差を考慮すると上昇点において差はなく,AT検出時のWattsにおいてのみ高値となった。今回の結果であるAT検出時のWattsを体重で除した値は,高校生におけるサッカー競技復帰時全身持久性の基準になりうると考える。アスリートにおける手術後や活動性低下による廃用で全身持久性が低下することは容易に予想できる。これを提示することで競技復帰までの全身持久性トレーニングの目標となり,競技者のモチベーションと競技復帰までの期間短縮を推進することが期待できる。また,算出された平均Wattsをトレーニングに反映することも可能であると考える。本研究の限界として非観血的な血圧測定,心拍数測定ではバラツキが起こりやすいこと,対象者が高校サッカー競技者であるため,他の競技や他の年代では違った結果になると予想されることが挙げられる。今後これらの検討をする必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
競技復帰には損傷部位の機能回復のみではなく全身持久性の回復が必要となることは周知だが,指標とされているATの算出には呼気ガス分析装置という高価な機器が必要であり,他の方法を用いた競技復帰時の基準は明確にされていない。ATと高い相関関係にあるDPBP,心拍数二乗法を用いた今回の結果は,呼気ガス分析装置を有しない施設でも簡便に使用可能であり,全身持久性におけるサッカー競技復帰時の基準となる可能性が示された。
アスリートにおいて膝前十字靱帯損傷や半月板損傷等の外傷は,動作制限により競技活動性の高いレベルを維持する上で大きな支障となり復帰に長期間を要する。膝前十字靭帯損傷を例に挙げると当院の前十字靭帯再建術後プロトコルにおいて,全身持久性のトレーニングといえる下肢エルゴメータは術後4週,ジョギングは7週より許可されている。これらのトレーニングが許可されるまでの期間はもちろん,競技復帰までの期間において活動制限による全身持久性の低下が起こることが予想される。そのため競技復帰には外傷部位の機能回復のみではなく,活動性の低下で衰えた全身持久性を健常競技者レベルへ向上させることが必要になる。ヒトの有酸素性運動能力の指標であるとされている嫌気性代謝閾値(Anaerobic Threshold:AT)の算出には呼気ガス分析装置を用いるのが一般的だが,測定できる環境であることは少ない。しかしながら我々が調べた限りでは健常競技者を対象にした全身持久性の基準は,呼気ガス分析装置を使用したもの以外では明確にされていない。今回,健常高校生サッカー競技者を対象に,呼気ガス分析装置を用いたAT算出と高い相関関係にあり,簡便な方法とされている二重積変曲点(Double Product Break Point:DPBP),心拍数二乗法から競技復帰時における基準の明確化を試み,復帰までのリハビリテーションに反映させることを目的とした。
【方法】
健常高校生サッカー競技者のうち,研究の主旨を説明し同意が得られた20名を対象として下肢エルゴメータを用いて運動負荷試験を実施した。運動負荷はramp負荷で行い,エルゴメータ上での3分間の安静後,1分間のウォーミングアップに続いて初期負荷20Wattsで漸増負荷運動(20Watts/分)を行った。測定項目は収縮期血圧,心拍数とし,それぞれ非観血的手動血圧計とパルスオキシメータを使用して1分毎に測定した。運動の中止基準は,呼吸困難,眩暈,狭心痛などの自覚症状に加え,予測最大心拍数の85%に到達したとき,エルゴメータの回転数(50rpm)の維持が困難になった時点とした。なお収縮期血圧と心拍数を用い,DPBP,心拍数二乗法における視覚的に上昇度合いの大きい時点をATと定義し,Wattsの平均値を求め各個人の体重で除した値を基準とした。
【結果】
本研究で得られたDPBPの平均値は18347.5±4738.7mmHg×beats,検出時のWattsを体重で除した値の平均は2.2±0.6Watts/kgであった。心拍数二乗法による上昇点の平均値は18700.7±6395.1beats×beats,検出時のWattsを体重で除した値の平均は2.5±0.8Watts/kgであった。
【考察】
先行研究において,大槻らは10名の健常成人男性(23.8±2.5歳)を対象に下肢エルゴメータにて測定したDPBPの平均値は15992.1±1279.5 mmHg×beatsで検出時は61.0±11.0Watts,心拍数二乗法による上昇点は15635.9±1176.6 beats×beatsで検出時は59.0±12.9Wattsであったと報告している。今回は高校生サッカー競技者を対象としており,一般成人男性を対象とした先行研究の値よりも高値となることが予想されたが,標準偏差を考慮すると上昇点において差はなく,AT検出時のWattsにおいてのみ高値となった。今回の結果であるAT検出時のWattsを体重で除した値は,高校生におけるサッカー競技復帰時全身持久性の基準になりうると考える。アスリートにおける手術後や活動性低下による廃用で全身持久性が低下することは容易に予想できる。これを提示することで競技復帰までの全身持久性トレーニングの目標となり,競技者のモチベーションと競技復帰までの期間短縮を推進することが期待できる。また,算出された平均Wattsをトレーニングに反映することも可能であると考える。本研究の限界として非観血的な血圧測定,心拍数測定ではバラツキが起こりやすいこと,対象者が高校サッカー競技者であるため,他の競技や他の年代では違った結果になると予想されることが挙げられる。今後これらの検討をする必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
競技復帰には損傷部位の機能回復のみではなく全身持久性の回復が必要となることは周知だが,指標とされているATの算出には呼気ガス分析装置という高価な機器が必要であり,他の方法を用いた競技復帰時の基準は明確にされていない。ATと高い相関関係にあるDPBP,心拍数二乗法を用いた今回の結果は,呼気ガス分析装置を有しない施設でも簡便に使用可能であり,全身持久性におけるサッカー競技復帰時の基準となる可能性が示された。