第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述78

支援工学理学療法1

2015年6月6日(土) 17:30 〜 18:30 第10会場 (ガラス棟 G602)

座長:大籔弘子(兵庫県立西播磨総合リハビリテーションセンター リハビリ療法部)

[O-0584] カーボン製短下肢装具walk onが下肢に与える影響と角度の違いが与える関係性

小倉征慈1, 土居健次朗1, 河原常郎1,2, 大森茂樹1 (1.医療法人社団鎮誠会, 2.千葉大学大学院工学研究科)

キーワード:walk on, locking, 歩行

【はじめに,目的】
脳卒中患者において装具療法を行う機会がある。軽度麻痺であれば,支柱が金属に換わって軽量なカーボンで作成された短下肢装具(以下walk on)を用いる。walk onはカーボンのために軽量で,動きに対して機能的な制限と弾性を与えることができる。当院でwalk onを用いた歩行で,膝のlocking現象が生じるケースを経験した。本研究では,歩行におけるwalk onが下肢に与える影響を評価し,さらに角度の違いが身体へ与える関係性を捉えることを目的とした。

【方法】
対象は健常成人12名(男性10名,女性2名,平均年齢25.2±2.1歳)とした。計測には三次元動作解析システムVICON MX-3(vicon),床反力計(AMTI,OR6-7,1000Hz)を使用した。walk on(ottobock)には脛骨前傾角度調整のために踵部に厚さ5mmのEVAを用いた。計測課題はwalk onなし(以下normal)・walk onあり(以下0EVA)・walk on+EVA1枚(以下1EVA)・walk on+EVA2枚(以下2EVA)の4パターンでの自然歩行とした。また,locking現象を判定するためにnormalと作為的にlocking現象を模した歩行(以下locking)を事前に比較した。
解析項目は,立脚前期(IC~MSt)の膝関節屈曲最大角度(以下KFA),膝関節伸展最大角度(以下KEA),股関節屈曲最大角度(以下HFA),股関節伸展最大角度(以下HEA),膝関節の最大屈曲から最大伸展に要する時間(以下時間),膝関節前方移動量(以下移動量)とした。
また,立脚期全体の膝関節屈曲モーメント(以下KFM),膝関節伸展モーメント(以下KEM),股関節屈曲モーメント(以下HFM),股関節伸展モーメント(以下HEM)に着目した。
統計は,4パターンで上記項目の一元配置分散分析を行った。有意差を生じた場合,多重比較検定(Bonferroni)にて検証した。統計学的有意水準は5%未満とした。

【結果】
normalとlockingでの比較で,移動量はnormalが102.6±27.9mm,lockingが22.8±27.6mmであり,normalが有意に大きかった(p=0.0002)。時間はnormalが0.26±7.8秒,lockingが0.17±4.6秒であり,normalが有意に大きかった(p=0.02)。
歩行4パターンでの比較で移動量は1EVAが96.9±23.6mm,2EVAが131.3±28.5mm,0EVAが98.9±26.8mm,normalが109.8±20.6mmであり,1EVAは2EVAよりも有意に小さかった(p=0.0095)。また,2EVAは0EVAよりも有意に大きかった(p=0.0169)。
HEMは1EVAが-22.3±367.8Nm,2EVAが-185.6±448.2Nm,0EVAが-54.2±374.3Nm,normalが-70.1±402.1Nmであり,有意差を認めなかった。HFMは1EVAが678.7±380.9Nm,2EVAが774.1±332.1Nm,0EVAが651.7±343.7Nm,normalが690.1±370.2Nmであり,有意差を認めなかった。KFAは1EVAが18.1±8.5度,2EVAが19.7±8.1度,0EVAが17.8±8.5度,normalが16.3±10.4度であり,有意差を認めなかった。KEMは1EVAが-229.5±131.8Nm,2EVAが-195.9±147.2Nm,0EVAが-221.4±144.4Nm,normalが-299.2±141.1Nmであり,有意差を認めなかった。KFMは1EVAが528.0±321.6Nm,2EVAが598.3±318.4Nm,0EVAが493.0±328.3Nm,normalが382.3±446.1Nmであり,有意差を認めなかった。

【考察】
normalと比較しlockingは立脚前期に,膝関節の前方移動量の減少と時間の短縮を示した。これは荷重の際に膝関節が最大伸展域まで伸び,荷重線が関節軸より伸展側に移ることで,筋活動を必要とせずに伸展を保つlocking現象が起きていると言える。
walk onはカーボンのために軽量で,動きに対して機能的な制限と弾性を与えることができるとされているが,健常者において装具装着の有無による膝関節・股関節の角度とモーメントへ与える影響はないことが示唆された。健常者においては,装具の生み出す弾性力を随意的にコントロールする事ができたと考えた。また,装具の角度をつける事により,locking現象の抑制が生じる可能性が示唆された。
歩行ではIC時にHFMは大きく作用し,TSt~PSwにHEMが大きく作用する。2EVAにおいてIC時のHFMが大きく,TStのHEMが小さい値を示した。そのことより,立脚期に2EVAが脛骨前傾を促し,前方推進に寄与したと考えた。
walk onを装着する事はnormalと比較し,立脚期に膝関節屈曲・伸展モーメントを大きくする傾向にあると言えた。健常者では装具の生み出す弾性力を,主に膝関節で制御していると考えた。

【理学療法学研究としての意義】
健常者を計測する事により,装具の評価を行うことができると考える。それにより適応患者により適切な設定・環境で装着が可能となり,機能・能力の向上,さらなる歩容の改善に寄与できると考える。