[O-0608] 歩行に類似した課題特異的な下腿三頭筋トレーニングが等尺性足関節底屈筋力と歩行能力に及ぼす影響
シングルケースデザインを用いて
キーワード:脳卒中, 課題特異性, 下腿三頭筋トレーニング
【はじめに,目的】
一般的に,脳卒中患者の歩行速度は低下している。歩行速度と生活範囲には密接な関係があり,歩行速度向上は理学療法上の重要な目標である。最大歩行速度と麻痺側足関節底屈筋力の関連が指摘されているが,実際に下腿三頭筋トレーニングを実施した場合の効果は不明である。また,筋力トレーニングには課題特異性があり,歩行能力の改善のためには,実際の歩行動作と類似した形式でトレーニングを行う方が効果が高いと予測される。
本研究の目的は歩行に類似した課題特異的な下腿三頭筋トレーニングが等尺性足関節底屈筋力と歩行能力に及ぼす影響を調査することである。
【方法】
対象は発症後116日経過した脳梗塞右片麻痺(左延髄腹側梗塞)の65歳男性で,身長155cm,体重53kg,Brunnstrom recovery stage下肢V,右下肢に軽度感覚障害,右足関節底屈筋群の筋緊張はModified Ashworth Scale2,右足関節背屈可動域は5kgfの力を加えた場合-20°であったが,荷重下では20°であった。等尺性足関節底屈筋力(kgf/kg)は右0.26,左0.87であり,右は左の30%と低下しており,右片脚立位での踵挙上は不可能であった。屋外独歩は自立で,歩容は右初期接地での膝関節屈曲位の踵接地,右前遊脚期での足関節底屈不足と膝関節屈曲不足,努力性の右下肢の振り出しを認めた。
ABA´型のシングルケースデザインを設定し,独立変数は歩行に類似した課題特異的な麻痺側下肢の下腿三頭筋トレーニング(下腿三頭筋トレーニング)であり,従属変数は等尺性足関節底屈筋力,下腿周径,最大歩行速度,最大歩幅とした。等尺性足関節底屈筋力はハンドヘルドダイナモメータを用い,端座位,膝関節屈曲90°位,足関節底屈0°位,測定肢の膝関節直上をベルトで固定し,最大等尺性収縮3秒間を2回行い,最大値を体重で除してトルク体重比(kgf/kg)を算出した。基礎水準期(A期)は従来から継続していた理学療法内容(下肢筋力強化練習,下肢ROM練習)を外来で週1から2回行い,加えて自主トレーニング(歩行練習60分間)を毎日継続した。介入期(B期)では,A期の理学療法と自主トレーニングに下腿三頭筋トレーニングのみを加えた形で介入した。下腿三頭筋トレーニングは左下肢を一歩前に出したステップ位とし,右立脚終期時の下肢関節角度を再現した状態で両足関節底屈運動を挙上に2秒間,挙上位での静止1秒間,下降に2秒間かけて行うものである。一日に20回3セット実施した。自覚的疲労感は「きつい」を目標とした。右下肢荷重量は40kg程度であった。A期26日間,B期52日間,A´期24日間とし,週1回の割合で従属変数の測定を行った。解析はB期を二等分して,B1期,B2期として,A期に比較して,B1期,B2期,A´期の各期において2連続以上のデータが2標準偏差量を超える改善があった場合,有意な改善があると判定した。等尺性足関節底屈筋力(右/左),下腿周径(右/左),最大歩行速度,最大歩幅の2標準偏差量は,順に0.07/0.17(kgf/kg),0.4/0.5(cm),4.3(m/min),0.0(cm)であった。矢状面上の歩容を動画撮影し,歩行分析を行った。
【結果】
B2期に麻痺側等尺性足関節底屈筋力,最大歩行速度,最大歩幅が有意に改善した。A´期にも有意な改善を維持できたものとして最大歩行速度と最大歩幅があった。A期とB2期での歩容上の変化点としては,右踵離地量の増加を認めた。
【考察】
最大歩行速度と麻痺側足関節底屈筋力の関連が指摘されていたが,単純な筋力増強が動作改善に結びつくかどうかは不明とされている。1種類の下腿三頭筋トレーニングの追加によって麻痺側等尺性足関節底屈筋力のみではなく,同時に最大歩行速度や最大歩幅といった歩行能力指標の改善が確認できた。これは歩行に類似した課題特異的な筋力トレーニングが有効であったことを示している。
B2期で麻痺側等尺性足関節底屈筋力が改善した理由として,下腿三頭筋トレーニングの麻痺側下肢への荷重量が大きかったこと,目標とする自覚的疲労感が「きつい」であったことを考える。
B2期での最大歩幅の改善理由として,麻痺側等尺性足関節底屈筋力改善に伴う右踵離地量の増加を考え,最大歩行速度の改善理由として,麻痺側等尺性足関節底屈筋力の改善,最大歩幅改善による他動的関節抵抗モーメントの増加を考える。
【理学療法学研究としての意義】
歩行速度や歩幅の改善を目的とした場合,歩行に類似した課題特異的な下腿三頭筋トレーニングが有効であることが示唆された。
一般的に,脳卒中患者の歩行速度は低下している。歩行速度と生活範囲には密接な関係があり,歩行速度向上は理学療法上の重要な目標である。最大歩行速度と麻痺側足関節底屈筋力の関連が指摘されているが,実際に下腿三頭筋トレーニングを実施した場合の効果は不明である。また,筋力トレーニングには課題特異性があり,歩行能力の改善のためには,実際の歩行動作と類似した形式でトレーニングを行う方が効果が高いと予測される。
本研究の目的は歩行に類似した課題特異的な下腿三頭筋トレーニングが等尺性足関節底屈筋力と歩行能力に及ぼす影響を調査することである。
【方法】
対象は発症後116日経過した脳梗塞右片麻痺(左延髄腹側梗塞)の65歳男性で,身長155cm,体重53kg,Brunnstrom recovery stage下肢V,右下肢に軽度感覚障害,右足関節底屈筋群の筋緊張はModified Ashworth Scale2,右足関節背屈可動域は5kgfの力を加えた場合-20°であったが,荷重下では20°であった。等尺性足関節底屈筋力(kgf/kg)は右0.26,左0.87であり,右は左の30%と低下しており,右片脚立位での踵挙上は不可能であった。屋外独歩は自立で,歩容は右初期接地での膝関節屈曲位の踵接地,右前遊脚期での足関節底屈不足と膝関節屈曲不足,努力性の右下肢の振り出しを認めた。
ABA´型のシングルケースデザインを設定し,独立変数は歩行に類似した課題特異的な麻痺側下肢の下腿三頭筋トレーニング(下腿三頭筋トレーニング)であり,従属変数は等尺性足関節底屈筋力,下腿周径,最大歩行速度,最大歩幅とした。等尺性足関節底屈筋力はハンドヘルドダイナモメータを用い,端座位,膝関節屈曲90°位,足関節底屈0°位,測定肢の膝関節直上をベルトで固定し,最大等尺性収縮3秒間を2回行い,最大値を体重で除してトルク体重比(kgf/kg)を算出した。基礎水準期(A期)は従来から継続していた理学療法内容(下肢筋力強化練習,下肢ROM練習)を外来で週1から2回行い,加えて自主トレーニング(歩行練習60分間)を毎日継続した。介入期(B期)では,A期の理学療法と自主トレーニングに下腿三頭筋トレーニングのみを加えた形で介入した。下腿三頭筋トレーニングは左下肢を一歩前に出したステップ位とし,右立脚終期時の下肢関節角度を再現した状態で両足関節底屈運動を挙上に2秒間,挙上位での静止1秒間,下降に2秒間かけて行うものである。一日に20回3セット実施した。自覚的疲労感は「きつい」を目標とした。右下肢荷重量は40kg程度であった。A期26日間,B期52日間,A´期24日間とし,週1回の割合で従属変数の測定を行った。解析はB期を二等分して,B1期,B2期として,A期に比較して,B1期,B2期,A´期の各期において2連続以上のデータが2標準偏差量を超える改善があった場合,有意な改善があると判定した。等尺性足関節底屈筋力(右/左),下腿周径(右/左),最大歩行速度,最大歩幅の2標準偏差量は,順に0.07/0.17(kgf/kg),0.4/0.5(cm),4.3(m/min),0.0(cm)であった。矢状面上の歩容を動画撮影し,歩行分析を行った。
【結果】
B2期に麻痺側等尺性足関節底屈筋力,最大歩行速度,最大歩幅が有意に改善した。A´期にも有意な改善を維持できたものとして最大歩行速度と最大歩幅があった。A期とB2期での歩容上の変化点としては,右踵離地量の増加を認めた。
【考察】
最大歩行速度と麻痺側足関節底屈筋力の関連が指摘されていたが,単純な筋力増強が動作改善に結びつくかどうかは不明とされている。1種類の下腿三頭筋トレーニングの追加によって麻痺側等尺性足関節底屈筋力のみではなく,同時に最大歩行速度や最大歩幅といった歩行能力指標の改善が確認できた。これは歩行に類似した課題特異的な筋力トレーニングが有効であったことを示している。
B2期で麻痺側等尺性足関節底屈筋力が改善した理由として,下腿三頭筋トレーニングの麻痺側下肢への荷重量が大きかったこと,目標とする自覚的疲労感が「きつい」であったことを考える。
B2期での最大歩幅の改善理由として,麻痺側等尺性足関節底屈筋力改善に伴う右踵離地量の増加を考え,最大歩行速度の改善理由として,麻痺側等尺性足関節底屈筋力の改善,最大歩幅改善による他動的関節抵抗モーメントの増加を考える。
【理学療法学研究としての意義】
歩行速度や歩幅の改善を目的とした場合,歩行に類似した課題特異的な下腿三頭筋トレーニングが有効であることが示唆された。