[O-0614] 自宅内歩行自立在宅要介護高齢者における等尺性膝伸展筋力の検討
キーワード:要介護, 等尺性膝伸展筋力, 歩行自立度
【はじめに,目的】
等尺性膝伸展筋力(膝筋力)は,歩行能力と関連する。高齢者の膝筋力と歩行自立度との関係を検討した先行研究(山崎ら,2001)では,運動器疾患のない高齢患者が歩行自立するために必要な膝筋力水準が示されている。
しかし,在宅要介護高齢者を対象として,膝筋力と歩行自立度との関係について検討した報告は極めて少ない。自宅内歩行が自立するために必要な膝筋力水準の抽出は,医療機関等から自宅復帰を目的とした理学療法を行う際の膝筋力改善の目標値として活用可能な情報となりえる可能性がある。
そこで我々は,「医療機関等と自宅では,歩行が自立するために必要な膝筋力水準に相違がある」という仮説をたて,それを検証すべく以下の検討を行った。
本研究の目的は,在宅要介護高齢者の膝筋力と自宅内歩行自立度との関係を明らかにすることである。
【方法】
対象者は,当事業所から訪問理学療法(訪問PT)を実施した連続症例188名である。188名中,取り込み基準は,年齢が65歳以上であり要介護認定を受けている者である。除外基準は,神経筋疾患,著明な麻痺を有する者,Mental Status Questionnaireの誤解答数が9以上の者,測定困難であった者である。
測定項目は,膝筋力,歩行自立度そして転倒歴である。膝筋力は,固定用ベルトを用いた加藤ら(2001)の方法に準じて測定された。我々は,測定値を体重で除した値の左右平均値を膝筋力と定義した。歩行自立度は,自立,監視,要介助の3段階で定義された。歩行自立度は,訪問PTの担当者により,対象者の自宅内歩行の実行状況を確認したうえで判定された。転倒歴は,訪問PT開始時以前半年間における転倒経験の有無が対象者から面接により聴取された。各測定は,訪問PT開始時に担当理学療法士によって実施された。
統計学的手法として我々は,まず対象者を膝筋力が15%未満の者(A群),15%以上20%未満の者(B群),20%以上25%未満の者(C群),25%以上30%未満の者(D群),30%以上35%未満の者(E群),35%以上40%未満の者(F群),40%以上の者(G群)に分類した。次に各群の歩行自立度別の人数を算出した。最後に,歩行自立度が自立と判定された対象者に限定し,転倒歴がある対象者の割合を群別に算出した。統計解析にはIBM SPSS Statistics(Version 18)が用いられた。
【結果】
最終対象者は,男性31名,女性56名,平均年齢は82.8歳±6.6であった。介護度は,要支援1-2が26名,要介護1-2が32名,要介護3以上が29名であった。主たる疾患の内訳は,整形外科疾患56名,呼吸循環器疾患11名,内科疾患16名,精神疾患2名,その他3名であった。
各群の対象者数は,A群8名,B群13名,C群25名,D群19名,E群12名,F群7名,G群3名であった。各群における歩行自立度判定の結果(人)は,自立,監視,要介助の順に,A群2,1,5名,B群8,2,3名,C群19,4,2名,D群17,2,0名,E群11,1,0名,F群7,0,0名,G群3,0,0名であった。
歩行自立度が自立と判定された対象者(67名)に限定した際,各群における転倒歴がある者の人数と各群に占める割合は,A群2名(100%),B群5名(62.5%),C群11名(57.9%),D群6名(35.3%),E群3名(27.3%),F群2名(28.6%),G群0名(0%)であった。
【考察】
自宅内歩行が自立している在宅要介護高齢者の膝筋力の最頻値は20~25%であった。このことから,在宅要介護高齢者が自宅で生活する場合には,少なくとも,20%以上の膝筋力を有している必要がある。この値は,先行研究(山崎ら,2002)において,運動器疾患がない高齢患者が病院内を自立して歩行するために必要な膝筋力として報告されている30~35%に比し低い値であった。以上より,在宅要介護高齢者は,より低い膝筋力水準でも自宅内歩行が自立する可能性があるものと考えられた。
本研究の結果では,膝筋力が40%未満(A群からF群)の群には,転倒歴がある者が含まれていた。そのため,これらの中には転倒リスクを抱えながら在宅生活を送っているとも考えられる。したがって,本研究で得られた膝筋力水準(20%以上)は,安全な自宅内の歩行を保証するわけではない。
昨今,在院日数の短縮化により早期退院を余儀なくされる場合もある。やむを得ず,20%程度の膝筋力しか有さない要介護高齢者を自宅退院させる場合には,自宅生活における環境および転倒予防策を十分に検討する必要があるものと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の意義は,在宅要介護高齢者が自宅内歩行を自立するために必要な膝筋力水準を抽出し,かつ医療機関等から自宅復帰を目的とした理学療法を行う際の膝筋力の目標値を示したことである。
等尺性膝伸展筋力(膝筋力)は,歩行能力と関連する。高齢者の膝筋力と歩行自立度との関係を検討した先行研究(山崎ら,2001)では,運動器疾患のない高齢患者が歩行自立するために必要な膝筋力水準が示されている。
しかし,在宅要介護高齢者を対象として,膝筋力と歩行自立度との関係について検討した報告は極めて少ない。自宅内歩行が自立するために必要な膝筋力水準の抽出は,医療機関等から自宅復帰を目的とした理学療法を行う際の膝筋力改善の目標値として活用可能な情報となりえる可能性がある。
そこで我々は,「医療機関等と自宅では,歩行が自立するために必要な膝筋力水準に相違がある」という仮説をたて,それを検証すべく以下の検討を行った。
本研究の目的は,在宅要介護高齢者の膝筋力と自宅内歩行自立度との関係を明らかにすることである。
【方法】
対象者は,当事業所から訪問理学療法(訪問PT)を実施した連続症例188名である。188名中,取り込み基準は,年齢が65歳以上であり要介護認定を受けている者である。除外基準は,神経筋疾患,著明な麻痺を有する者,Mental Status Questionnaireの誤解答数が9以上の者,測定困難であった者である。
測定項目は,膝筋力,歩行自立度そして転倒歴である。膝筋力は,固定用ベルトを用いた加藤ら(2001)の方法に準じて測定された。我々は,測定値を体重で除した値の左右平均値を膝筋力と定義した。歩行自立度は,自立,監視,要介助の3段階で定義された。歩行自立度は,訪問PTの担当者により,対象者の自宅内歩行の実行状況を確認したうえで判定された。転倒歴は,訪問PT開始時以前半年間における転倒経験の有無が対象者から面接により聴取された。各測定は,訪問PT開始時に担当理学療法士によって実施された。
統計学的手法として我々は,まず対象者を膝筋力が15%未満の者(A群),15%以上20%未満の者(B群),20%以上25%未満の者(C群),25%以上30%未満の者(D群),30%以上35%未満の者(E群),35%以上40%未満の者(F群),40%以上の者(G群)に分類した。次に各群の歩行自立度別の人数を算出した。最後に,歩行自立度が自立と判定された対象者に限定し,転倒歴がある対象者の割合を群別に算出した。統計解析にはIBM SPSS Statistics(Version 18)が用いられた。
【結果】
最終対象者は,男性31名,女性56名,平均年齢は82.8歳±6.6であった。介護度は,要支援1-2が26名,要介護1-2が32名,要介護3以上が29名であった。主たる疾患の内訳は,整形外科疾患56名,呼吸循環器疾患11名,内科疾患16名,精神疾患2名,その他3名であった。
各群の対象者数は,A群8名,B群13名,C群25名,D群19名,E群12名,F群7名,G群3名であった。各群における歩行自立度判定の結果(人)は,自立,監視,要介助の順に,A群2,1,5名,B群8,2,3名,C群19,4,2名,D群17,2,0名,E群11,1,0名,F群7,0,0名,G群3,0,0名であった。
歩行自立度が自立と判定された対象者(67名)に限定した際,各群における転倒歴がある者の人数と各群に占める割合は,A群2名(100%),B群5名(62.5%),C群11名(57.9%),D群6名(35.3%),E群3名(27.3%),F群2名(28.6%),G群0名(0%)であった。
【考察】
自宅内歩行が自立している在宅要介護高齢者の膝筋力の最頻値は20~25%であった。このことから,在宅要介護高齢者が自宅で生活する場合には,少なくとも,20%以上の膝筋力を有している必要がある。この値は,先行研究(山崎ら,2002)において,運動器疾患がない高齢患者が病院内を自立して歩行するために必要な膝筋力として報告されている30~35%に比し低い値であった。以上より,在宅要介護高齢者は,より低い膝筋力水準でも自宅内歩行が自立する可能性があるものと考えられた。
本研究の結果では,膝筋力が40%未満(A群からF群)の群には,転倒歴がある者が含まれていた。そのため,これらの中には転倒リスクを抱えながら在宅生活を送っているとも考えられる。したがって,本研究で得られた膝筋力水準(20%以上)は,安全な自宅内の歩行を保証するわけではない。
昨今,在院日数の短縮化により早期退院を余儀なくされる場合もある。やむを得ず,20%程度の膝筋力しか有さない要介護高齢者を自宅退院させる場合には,自宅生活における環境および転倒予防策を十分に検討する必要があるものと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の意義は,在宅要介護高齢者が自宅内歩行を自立するために必要な膝筋力水準を抽出し,かつ医療機関等から自宅復帰を目的とした理学療法を行う際の膝筋力の目標値を示したことである。