[O-0639] 地域在住高齢者における平均歩数,活動強度と転倒恐怖感の関連
Keywords:地域在住高齢者, 身体活動量, 転倒恐怖感
【はじめに,目的】
転倒恐怖感は,「身体能力が残されているにも関わらず,移動などの活動を避けようとする永続した恐れ」と定義され,地域在住高齢者の約60%が有しているとも報告され,転倒恐怖感を有していることが生活の質の低下や日常生活動作(以下,ADL)能力の低下の原因となるとの報告もされている。また転倒恐怖感は年齢や性別,認知機能,身体機能,ADL制限,活動範囲など多くの要因との関連が既に報告されており,これらより転倒恐怖感を有していることで身体活動量は低下していることが考えられる。しかし転倒恐怖感と身体活動量の関連についての先行研究では,身体活動量を自記式質問紙により評価した研究が多く客観的に評価しておらず,また歩数計を用いて平均歩数を算出した先行研究では転倒恐怖感と身体活動量の関連は一致していないのが現状である。近年は加速度計を用いて活動強度を測定し,平均歩数とは異なる身体活動の側面を測定することが可能となっているが,転倒恐怖感との関連については未だ明らかになっていない。そこで本研究の目的は地域在住高齢者における転倒恐怖感と身体活動量の関連を,活動強度も含めて検討することとした。
【方法】
対象は地域在住高齢者142名のうち,包含基準を65歳以上,Mini Mental State Examinationが24点以上,歩数計を4日以上装着していることとし,除外基準を神経筋疾患の既往,歩行補助具の日常的な使用として,これらを満たした106名(平均年齢74.9±5.2[歳])を対象とした。転倒恐怖感は,「普段の生活で転倒に対して恐怖感を感じますか?」の問いに対し,「非常に怖い」「とても怖い」と回答した者を転倒恐怖感有り群(以下,FoF群),「怖くない」「全く怖くない」と回答した者を転倒恐怖感無し群(以下,No-FoF群)の2群に分類した。また,これに加えて過去一年間の転倒回数も聴取した。歩数計はLifecorder4秒版(スズケン社製)を用い,7日間装着するように指示した。歩数計で得られたデータから,平均歩数に加えて低強度(1~3METs)の活動時間(以下,LPA),中等強度(3METs)以上の活動時間(以下,MVPA)を算出した。身体機能を示す指標として歩行速度を,精神面を表す指標としてGeriatric Depression Scale(以下,GDS)をそれぞれ測定した。GDSについては6点以上をうつ症状有り,以下をうつ症状なしとした。統計解析は2群間の比較をするためにχ二乗検定,対応のないt検定を実施後,歩数計データそれぞれを従属変数,独立変数を転倒恐怖感(有/無),年齢,性別,過去一年間の転倒回数,うつ症状(有/無),歩行速度とした重回帰分析を行った。5%未満を統計学的有意とした。
【結果】
対象者のうち,FoF群が39名,No-FoF群が67名であった。平均歩数,LPA,MVPAはそれぞれNo-FoF群がFoF群に比較して有意に多かった(平均歩数:FoF群;7277±2963[歩/日],No-FoF群;8841±3547[歩/日],p=.022,LPA:FoF群;201.0±62.7[分/日],No-FoF群;230.4±67.2[分/日],p=.028,MVPA:FoF群;20.6±16.6[分/日],No-FoF群;28.7±24.8[分/日],p=.048)。重回帰分析の結果,LPAは年齢,性別に加えて転倒恐怖感が独立して有意に関連していた(標準β=.212,p=.029)。平均歩数とMVPAは転倒恐怖感と関連が見られなくなったが(平均歩数:p=.126,MVPA:p=.246),年齢に加えて歩行速度が独立して有意に関連していた(平均歩数:標準β=.287,p=.002,MVPA:標準β=.333,p=.001)。
【考察】
地域在住高齢者において転倒恐怖感は身体活動量の,特に低強度の身体活動に関連していることが示唆された。多くの先行研究が転倒恐怖感とADL制限の関連を報告しているが,ADLの多くの動作は低強度の活動に含まれることから,ADL制限に対して転倒恐怖感が関連していることを客観的に示唆した可能性が考えられる。また平均歩数及び中等強度以上の身体活動については身体機能が関連していた。歩数計を用いて身体活動量を客観的に測定している先行研究では,平均歩数は転倒恐怖感よりも身体機能と強く関連していると報告している。我々の研究は先行研究を支持,拡大していると考える。本研究は地域在住の健康高齢者を対象としているが,疾患を有した対象者において同様の検討することで,地域で日常生活を営む上での阻害因子を明らかにし,適切な介入を可能にすると考えられるため,今後更なる検討をしていく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
地域で自立している高齢者においても,日常生活で多くの時間を過ごす屋内動作を含む低強度の活動に対して,転倒恐怖感の関連が示されたことは,高齢者が病院を退院し地域で生活を開始する際に,転倒恐怖感を評価することが重要であることを示したと考える。
転倒恐怖感は,「身体能力が残されているにも関わらず,移動などの活動を避けようとする永続した恐れ」と定義され,地域在住高齢者の約60%が有しているとも報告され,転倒恐怖感を有していることが生活の質の低下や日常生活動作(以下,ADL)能力の低下の原因となるとの報告もされている。また転倒恐怖感は年齢や性別,認知機能,身体機能,ADL制限,活動範囲など多くの要因との関連が既に報告されており,これらより転倒恐怖感を有していることで身体活動量は低下していることが考えられる。しかし転倒恐怖感と身体活動量の関連についての先行研究では,身体活動量を自記式質問紙により評価した研究が多く客観的に評価しておらず,また歩数計を用いて平均歩数を算出した先行研究では転倒恐怖感と身体活動量の関連は一致していないのが現状である。近年は加速度計を用いて活動強度を測定し,平均歩数とは異なる身体活動の側面を測定することが可能となっているが,転倒恐怖感との関連については未だ明らかになっていない。そこで本研究の目的は地域在住高齢者における転倒恐怖感と身体活動量の関連を,活動強度も含めて検討することとした。
【方法】
対象は地域在住高齢者142名のうち,包含基準を65歳以上,Mini Mental State Examinationが24点以上,歩数計を4日以上装着していることとし,除外基準を神経筋疾患の既往,歩行補助具の日常的な使用として,これらを満たした106名(平均年齢74.9±5.2[歳])を対象とした。転倒恐怖感は,「普段の生活で転倒に対して恐怖感を感じますか?」の問いに対し,「非常に怖い」「とても怖い」と回答した者を転倒恐怖感有り群(以下,FoF群),「怖くない」「全く怖くない」と回答した者を転倒恐怖感無し群(以下,No-FoF群)の2群に分類した。また,これに加えて過去一年間の転倒回数も聴取した。歩数計はLifecorder4秒版(スズケン社製)を用い,7日間装着するように指示した。歩数計で得られたデータから,平均歩数に加えて低強度(1~3METs)の活動時間(以下,LPA),中等強度(3METs)以上の活動時間(以下,MVPA)を算出した。身体機能を示す指標として歩行速度を,精神面を表す指標としてGeriatric Depression Scale(以下,GDS)をそれぞれ測定した。GDSについては6点以上をうつ症状有り,以下をうつ症状なしとした。統計解析は2群間の比較をするためにχ二乗検定,対応のないt検定を実施後,歩数計データそれぞれを従属変数,独立変数を転倒恐怖感(有/無),年齢,性別,過去一年間の転倒回数,うつ症状(有/無),歩行速度とした重回帰分析を行った。5%未満を統計学的有意とした。
【結果】
対象者のうち,FoF群が39名,No-FoF群が67名であった。平均歩数,LPA,MVPAはそれぞれNo-FoF群がFoF群に比較して有意に多かった(平均歩数:FoF群;7277±2963[歩/日],No-FoF群;8841±3547[歩/日],p=.022,LPA:FoF群;201.0±62.7[分/日],No-FoF群;230.4±67.2[分/日],p=.028,MVPA:FoF群;20.6±16.6[分/日],No-FoF群;28.7±24.8[分/日],p=.048)。重回帰分析の結果,LPAは年齢,性別に加えて転倒恐怖感が独立して有意に関連していた(標準β=.212,p=.029)。平均歩数とMVPAは転倒恐怖感と関連が見られなくなったが(平均歩数:p=.126,MVPA:p=.246),年齢に加えて歩行速度が独立して有意に関連していた(平均歩数:標準β=.287,p=.002,MVPA:標準β=.333,p=.001)。
【考察】
地域在住高齢者において転倒恐怖感は身体活動量の,特に低強度の身体活動に関連していることが示唆された。多くの先行研究が転倒恐怖感とADL制限の関連を報告しているが,ADLの多くの動作は低強度の活動に含まれることから,ADL制限に対して転倒恐怖感が関連していることを客観的に示唆した可能性が考えられる。また平均歩数及び中等強度以上の身体活動については身体機能が関連していた。歩数計を用いて身体活動量を客観的に測定している先行研究では,平均歩数は転倒恐怖感よりも身体機能と強く関連していると報告している。我々の研究は先行研究を支持,拡大していると考える。本研究は地域在住の健康高齢者を対象としているが,疾患を有した対象者において同様の検討することで,地域で日常生活を営む上での阻害因子を明らかにし,適切な介入を可能にすると考えられるため,今後更なる検討をしていく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
地域で自立している高齢者においても,日常生活で多くの時間を過ごす屋内動作を含む低強度の活動に対して,転倒恐怖感の関連が示されたことは,高齢者が病院を退院し地域で生活を開始する際に,転倒恐怖感を評価することが重要であることを示したと考える。