[O-0643] 健常高齢者を対象とした異なる2種類の腹筋運動が端座位側方移動動作に及ぼす影響
座圧中心軌跡および体幹・下肢筋活動からの検討
キーワード:腹筋運動, 重心動揺, 筋活動
【はじめに,目的】
加齢に伴う腹筋の筋力低下は日常生活活動の能力低下を反映するとされ,高齢者では腹筋の筋力維持・増強運動を積極的に実践することが推奨されている。腹筋運動に関する先行研究では,若年者を対象とした一般的な腹筋運動であるcurl-up運動(以下:CU運動)やこれに回旋を伴うcross curl-up(以下:CCU)運動を主体とする胸郭運動時と,殿部を持ち上げるreverse curl-up運動(以下:RCU運動)やこれに回旋を伴うreverse cross curl-up(以下:RCCU)運動を主体とする骨盤運動は多数報告されているものの,高齢者を対象とした研究は極めて少ない。その為,胸郭運動と骨盤運動のトレーニング効果が高齢者の動作能力にどのような影響があるかは,殆ど明らかにされていない。本研究の目的は高齢者に対して胸郭運動と骨盤運動の2種類の異なる腹筋運動を実施し,その後座位での最大努力側方移動動作を行わせ,その動作能力を座圧中心軌跡,および体幹・下肢筋活動から分析し,両腹筋運動の臨床的意義について検討する事である。
【方法】
対象は健常高齢者17名(平均年齢67,2±3,1歳,BMIは22,1±24,1kg/m2)とした。台上に床反力計を設置し,被検者の足部が床に着かない状態で床反力計の上に端座位を取らせ,安静座位時の筋活動を2回測定した。開始肢位を左肩関節90°外転位とし,左側への最大努力側方移動動作時の座圧中心総軌跡長,実効値面積および筋活動をそれぞれ床反力計と表面筋電図を用いて2回測定した。さらに腹筋運動を行った後に再度同様に測定した。腹筋運動については,胸郭運動を主体とするCU運動と左・右CCU運動の2種類,および骨盤運動を主体とするRCU運動と左・右RCCU運動の計2種類の計4種類とした。無作為に胸郭運動群と骨盤運動群に分けられた被検者にこれらの運動を行わせ,その後1週間の間隔をあけて,胸郭運動群と骨盤運動群の被検者を入れ替えて同様の運動を実施した。これを各運動で10回ずつ計20回実施した。側方移動動作の測定時間は目標距離に到達した2秒後からの10秒間とした。側方移動時の被検筋は右外腹斜筋,右内腹斜筋,右多裂筋,左大殿筋の4筋とした。計測時の筋活動を全波整流処理後,筋積分値を算出し単位時間当たりの筋積分値に換算した。また側方移動動作時の筋積分値においては,安静座位時の筋積分値に対する相対的筋活動比率(%)とした。最大努力側方移動時の座圧中心軌跡に運動前後の有意な変化が認められなかったことより,座圧中心総軌跡長が腹筋運動後に減少した被検者を良好群,増加した被検者を不良群に分けた。両群の最大努力側方移動動作時の外腹斜筋と内腹斜筋の筋活動比率(以下,EO/IO比率)を算出した。
【結果】
胸郭運動と骨盤運動時の筋活動特性の結果については,胸郭運動時では骨盤運動時と比べ外腹斜筋の筋活動が増加傾向を示し,逆に骨盤運動時では胸郭運動時と比べ内腹斜筋の筋活動が有意に増加を認めた。胸郭運動前後の良好群では多裂筋の筋活動とEO/IO比率が有意な減少を示した。
【考察】
腹筋運動の先行研究においてRCU運動ではCU運動に比べ外内腹斜筋の筋活動が増加傾向にあったと報告している。本研究の結果,外腹斜筋に関しては報告と異なっていた。理由として,外内腹斜筋は呼吸補助筋であるために呼吸方法による筋活動の違いが考えられる。CU運動時の呼吸方法の違いを検討した先行研究では,呼吸方法の指示を与えない場合のCU運動では,外腹斜筋の筋活動は内腹斜筋と比べ増加傾向にあったと述べている。本研究では呼吸方法については指示しておらずCU運動では外腹斜筋が優位に活動した可能性がある。側方移動動作では骨盤と体幹を結合させるために特に非移動側の外内腹斜筋が関与し,外腹斜筋は胸郭を内腹斜筋は骨盤を結合させる役割が示唆されている。本研究より胸郭運動前後の良好群のEO/IO比率が100%に近づいたことで,腹斜筋群の協調性が向上し,拮抗筋である多裂筋が低下したものと考えられる。胸郭運動と骨盤運動前後の不良群における筋活動について,EO/IO比率は双方の群が共に100%から離れた値をとった。つまり側方移動動作においては筋活動量や腹筋運動方法の相違よりも,腹斜筋の安静時と動作時の相対的比率が重要であることが示唆される。
【理学療法学研究としての意義】
高齢者への腹筋運動における研究は少なく,臨床場面での筋電図学的評価や,運動療法の一助に成り得ると考えられる。
加齢に伴う腹筋の筋力低下は日常生活活動の能力低下を反映するとされ,高齢者では腹筋の筋力維持・増強運動を積極的に実践することが推奨されている。腹筋運動に関する先行研究では,若年者を対象とした一般的な腹筋運動であるcurl-up運動(以下:CU運動)やこれに回旋を伴うcross curl-up(以下:CCU)運動を主体とする胸郭運動時と,殿部を持ち上げるreverse curl-up運動(以下:RCU運動)やこれに回旋を伴うreverse cross curl-up(以下:RCCU)運動を主体とする骨盤運動は多数報告されているものの,高齢者を対象とした研究は極めて少ない。その為,胸郭運動と骨盤運動のトレーニング効果が高齢者の動作能力にどのような影響があるかは,殆ど明らかにされていない。本研究の目的は高齢者に対して胸郭運動と骨盤運動の2種類の異なる腹筋運動を実施し,その後座位での最大努力側方移動動作を行わせ,その動作能力を座圧中心軌跡,および体幹・下肢筋活動から分析し,両腹筋運動の臨床的意義について検討する事である。
【方法】
対象は健常高齢者17名(平均年齢67,2±3,1歳,BMIは22,1±24,1kg/m2)とした。台上に床反力計を設置し,被検者の足部が床に着かない状態で床反力計の上に端座位を取らせ,安静座位時の筋活動を2回測定した。開始肢位を左肩関節90°外転位とし,左側への最大努力側方移動動作時の座圧中心総軌跡長,実効値面積および筋活動をそれぞれ床反力計と表面筋電図を用いて2回測定した。さらに腹筋運動を行った後に再度同様に測定した。腹筋運動については,胸郭運動を主体とするCU運動と左・右CCU運動の2種類,および骨盤運動を主体とするRCU運動と左・右RCCU運動の計2種類の計4種類とした。無作為に胸郭運動群と骨盤運動群に分けられた被検者にこれらの運動を行わせ,その後1週間の間隔をあけて,胸郭運動群と骨盤運動群の被検者を入れ替えて同様の運動を実施した。これを各運動で10回ずつ計20回実施した。側方移動動作の測定時間は目標距離に到達した2秒後からの10秒間とした。側方移動時の被検筋は右外腹斜筋,右内腹斜筋,右多裂筋,左大殿筋の4筋とした。計測時の筋活動を全波整流処理後,筋積分値を算出し単位時間当たりの筋積分値に換算した。また側方移動動作時の筋積分値においては,安静座位時の筋積分値に対する相対的筋活動比率(%)とした。最大努力側方移動時の座圧中心軌跡に運動前後の有意な変化が認められなかったことより,座圧中心総軌跡長が腹筋運動後に減少した被検者を良好群,増加した被検者を不良群に分けた。両群の最大努力側方移動動作時の外腹斜筋と内腹斜筋の筋活動比率(以下,EO/IO比率)を算出した。
【結果】
胸郭運動と骨盤運動時の筋活動特性の結果については,胸郭運動時では骨盤運動時と比べ外腹斜筋の筋活動が増加傾向を示し,逆に骨盤運動時では胸郭運動時と比べ内腹斜筋の筋活動が有意に増加を認めた。胸郭運動前後の良好群では多裂筋の筋活動とEO/IO比率が有意な減少を示した。
【考察】
腹筋運動の先行研究においてRCU運動ではCU運動に比べ外内腹斜筋の筋活動が増加傾向にあったと報告している。本研究の結果,外腹斜筋に関しては報告と異なっていた。理由として,外内腹斜筋は呼吸補助筋であるために呼吸方法による筋活動の違いが考えられる。CU運動時の呼吸方法の違いを検討した先行研究では,呼吸方法の指示を与えない場合のCU運動では,外腹斜筋の筋活動は内腹斜筋と比べ増加傾向にあったと述べている。本研究では呼吸方法については指示しておらずCU運動では外腹斜筋が優位に活動した可能性がある。側方移動動作では骨盤と体幹を結合させるために特に非移動側の外内腹斜筋が関与し,外腹斜筋は胸郭を内腹斜筋は骨盤を結合させる役割が示唆されている。本研究より胸郭運動前後の良好群のEO/IO比率が100%に近づいたことで,腹斜筋群の協調性が向上し,拮抗筋である多裂筋が低下したものと考えられる。胸郭運動と骨盤運動前後の不良群における筋活動について,EO/IO比率は双方の群が共に100%から離れた値をとった。つまり側方移動動作においては筋活動量や腹筋運動方法の相違よりも,腹斜筋の安静時と動作時の相対的比率が重要であることが示唆される。
【理学療法学研究としての意義】
高齢者への腹筋運動における研究は少なく,臨床場面での筋電図学的評価や,運動療法の一助に成り得ると考えられる。