第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述87

ICU・その他

Sun. Jun 7, 2015 8:30 AM - 9:30 AM 第9会場 (ガラス棟 G409)

座長:瀬崎学(新潟県立新発田病院 リハビリテーション科)

[O-0655] 集中治療病棟(ICU)への理学療法士専従配置による効果

野島丈史, 柳賀文, 中尾周平, 宮崎雅司, 吉田輝 (鹿児島大学医学部・歯学部附属病院リハビリテーション部)

Keywords:ICU, 病棟専従, 超急性期

【はじめに,目的】
近年集中治療領域における超急性期からの早期離床・運動療法の重要性が指摘されており,その効果が報告されている。当リハビリテーション部においてもICUにおける早期理学療法を行っており,より早期からの積極的な介入を行うべく,2012年8月より理学療法士(以下,PT)1名のICU専従配置を開始した。今回,ICUのPT専従配置前後における効果検証を後方視的に行ったので報告する。
【方法】
対象はPT専従配置前の2011年8月から1年間(以下,専従前)にICUにてPT介入した96例,専従配置後の2012年8月から2014年3月までに介入した284例とした。専従配置後は組織としての知識や経験の蓄積による変化があるのではないかと考え2012年8月から2013年7月の1年間163例(以下,第1期),2013年8月から2014年3月までの8カ月間121例(以下,第2期)の2群とした。(1)カテコラミンインデックス(以下,CAI),ICU入室からPT開始までの期間(以下,PT開始期間),ICU在室期間,ICU入室から退院までの期間(以下,在院期間),ICU入室から離床開始までの期間(以下,離床開始期間),(2)人工呼吸器装着率(NPPV除く),ICU入室中のPT介入率,自宅退院率について診療カルテ情報より後方視的に検討した。(1)では3群間の比較にKruskal-Wallis検定を行い,多重比較の方法にはSteel-Dwassの方法を用いた。(2)では3群間の比較にカイ二乗検定を用いた。いずれも危険率5%未満とした。
【結果】
入室患者総数は専従前727例,第1期801例,第2期537例で,PT介入率は専従前13.3%,第1期21.0%,第2期22.5%と有意(p<0.01)に上昇した。PT開始期間は専従前7.3±8.7日,第1期4.2±3.9日 第2期3.7±3.8日と有意に短縮した(p<0.01)。離床開始期間は専従前12.8±11.7日,第1期9.4±8.4日,第2期8.0±8.5日と専従前と第2期の間で有意に短縮した(p<0.05)。ICU在室期間は専従前23.1±23.3日,第1期17.2±17.4日,第2期13.0±12.7日と有意に短縮した(p<0.05)。在院期間は専従前69.4±72日,第1期58.0±59.8日,第2期44.3±31.6日と専従前と第2期の間で有意に短縮した(p<0.01)。自宅退院率は専従前19.8%,第1期30.7%,第2期37.5%と有意差を認め(p<0.05)上昇の傾向がみられた。CAIと人工呼吸器装着率は専従前2.0±3.7,60.4%,第1期2.7±3.6,49.7%,第2期3.2±6.8,62.5%と各群間に有意差を認めなかった。
【考察】
先行研究において,リハスタッフの病棟専従化がリハ開始期間を短縮し実施単位数を増加させること,ICUにおける人工呼吸器装着患者に対する早期理学療法がせん妄日数の短縮,人工呼吸器離脱期間の延長,ICU在室期間・入院期間の短縮,退院時機能的自立度の向上をもたらすこと等が報告されている。本研究においてPT介入率の向上と開始期間の有意な短縮を認めたことは,PT専従後よりICUカンファレンスへの参加等で全入室患者の病態や治療経過・方針の把握が可能となり,未介入症例の把握やより早期に理学療法適応の検討が可能となったことによるものと推察される。また離床開始期間が有意に短縮した点については,重症例に対して早期から積極的介入が可能となったことで,集中治療領域において危惧される廃用性筋力低下やせん妄等の合併症が予防・軽減された可能性が示唆される。またその結果,ICU在室期間や在院期間,更には自宅退院率の改善につながった可能性が考えられる。改善したいずれの項目においても第2期に向けてより改善する傾向を示しているが,CAI,人工呼吸器装着率には有意差を認めておらず各群の重症度は同程度と推察され,この間,実施方法や退室基準等の変更は行われていないことから,他職種との連携強化や他科医師への周知拡大,PT指導によるICUスタッフの理学療法技術の熟練度向上等が反映した可能性が推察される。
【理学療法学研究としての意義】
リハスタッフの病棟専従化へ向けた動きが加速する中,その具体的な効果に関するデータを蓄積し検証していく必要がある。今回の研究では,特にICUへのPT専従配置によって先行研究で報告される早期理学療法の効果をより促進する可能性が示唆された。