第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述87

ICU・その他

Sun. Jun 7, 2015 8:30 AM - 9:30 AM 第9会場 (ガラス棟 G409)

座長:瀬崎学(新潟県立新発田病院 リハビリテーション科)

[O-0657] 集中治療室における早期理学療法は退院時日常生活動作能力に影響するか

理学療法の進捗状況に着目して

滑川博紀1,2, 加藤昂1, 河村健太1, 保坂洋平1, 大曽根賢一1, 水上昌文3 (1.筑波メディカルセンター病院リハビリテーション療法科, 2.茨城県立医療大学大学院保健医療科学研究科理学療法学・作業療法学専攻, 3.茨城県立医療大学大学院保健医療科学研究科)

Keywords:集中治療室, 早期理学療法, 機能予後

【はじめに,目的】近年,集中治療室(以下ICU)に入室した重症患者の機能予後を改善する取り組みとして早期からの理学療法(以下PT)が推奨されている。一方早期離床・PTの進め方については一定の見解が得られておらず,各施設ごとに異なるのが現状である。そこでICUにおけるPTプログラムの進捗状況とその後の日常生活動作能力(以下ADL)の回復との関係を明らかにし,ICUにおけるPTプログラムの在り方についての示唆を得ることを目的に検討を行った。
【方法】後方視的疫学観察研究である。対象は2009年1月から2013年12月までに当院の救命救急センター併設型ICUに入室し,人工呼吸器装着中からPTを実施した重症患者129名とした。平均年齢は60.2±18.3歳であった。組み入れ基準は18歳以上,入院前の高齢者日常生活自立度判定基準がA1以上とした。死亡患者,脳血管障害及び脊髄損傷の患者,既往に神経筋疾患・認知症を有する患者,入院中に人工呼吸器から離脱できなかった患者は除外した。全ての項目は診療録より後方視的に調査した。調査項目は①患者背景として年齢,性別,BMI,主病名,Acute Physiology and Chronic Health EvaluationIIスコア,既往歴(Charlson Comorbidity Index),血液検査結果(入院時アルブミン値・ICU入室中の平均血糖値・ICU入室中のCRP最悪値),鎮静剤の種類と使用日数,人工呼吸器装着日数,手術実施の有無,せん妄の有無,②PTに関する項目として,入院からPT開始までの時間,ICU在室中一日当たりのPT実施単位,PTレベル(初回評価翌日・人工呼吸器装着中・ICU退室時),座位・立位・歩行練習開始までの日数(7日以内~未達成までの5段階順序尺度),ICU退室時の基本動作能力(Ability For Basic Movement ScaleII),退院時のBarthel Index(以下BI)とした。PTレベルはMorrisが報告したプロトコールを参考に4段階の順序尺度で評価した。
退院時BI高値群(BI85点以上,以下高ADL群)と退院時BI低値群(BI80点以下,以下低ADL群)の2群に分け,対応のないt検定,χ2検定,Mann-WhitneyのU検定で各項目を比較した。その後退院時ADL高値・低値を従属変数,群間比較で有意差を認めた項目及びP<0.1で臨床的に有意義であると考えられる項目を独立変数として採用し,ロジスティック回帰分析(変数増加法尤度比)を実施した。多重共線性については単相関分析を行い,相関係数が0.8より大きい場合,臨床的に有意義であると考えられる変数を採用した。解析にはSPSSver.21.0を用い,有意水準は5%未満とした。

【結果】高ADL群69名,低ADL群60名であった。群間比較にて,主病名(P<0.01),座位・立位・歩行練習開始までの日数(全てP<0.01),ICU退室時のABMSII(P<0.01),初回評価翌日(P<0.05)及びICU退室時のPTレベル(P<0.01)に有意差を認めた。その他の項目は差がなかった。多重共線性の問題から立位開始までの日数を除外した残りの変数と,有意傾向であった入院時アルブミン値(P=0.06)を独立変数として採用した。その結果退院時ADLに影響する要因として,主病名,座位開始までの日数(オッズ比:3.40,95%CI1.32-8.79),歩行開始までの日数(オッズ比:0.06,95%CI0.02-0.20),ICU退室時のPTレベル(オッズ比:1.76,95%CI1.01-3.06),入院時アルブミン値(オッズ比:2.78,95%CI1.17-6.60)が抽出された(モデルχ2検定p<0.001,Hosmer -Lemeshowの検定p=0.513,判別的中率89.5%)。

【考察】退院時ADLには主病名,入院時アルブミン値,PTの進捗状況が影響することが示された。主病名や入院時アルブミン値が不可変的要因であることを考慮すると,ICUに入室した重症患者の退院時ADLを改善するためには,早期歩行開始及びICU退室までにできるかぎり離床をすすめておくことが重要である点が明らかとなった。

【理学療法学研究としての意義】ICUに入室した重症患者に対する退院時ADL改善を目的としたPTは,開始時期よりもICU入室中にどれだけ離床を進められるかが重要である。根拠のあるリスク管理の元,より積極的なPTプログラムの展開が求められる。