[O-0706] 腰部脊柱管狭窄症の術後1年の歩行能力とQOL
キーワード:腰部脊柱管狭窄症, 歩行能力, QOL
【はじめに,目的】
腰部脊柱管狭窄症では間欠性跛行が特徴的で,歩行能力とQOLが阻害される。腰部脊柱管狭窄症に対する歩行能力とQOLの報告はいくつか見受けられる。しかし,腰部脊柱管狭窄症における手術前後の歩行能力テストと患者立脚型QOL評価を調査した報告は少ない。本報告の目的は,当院における腰部脊柱管狭窄症の術前と術後1年の歩行能力とQOLについて調査することである。
【方法】当院において整形外科医に腰部脊柱管狭窄症と診断され,間欠性跛行を呈し,手術を施行した21例(男性8例,女性13例,平均年齢73.8±7.7歳)を対象とした。歩行困難な症例,評価項目に不備があった症例は対象から除外した。評価項目は,10m歩行テスト,30m歩行テスト,連続歩行テスト,包括的健康関連QOL尺度であるMOS Short-Form 36-Item Health Survey日本語版ver.2(以下:SF-36)と患者立脚型の腰痛疾患特異的評価尺度である日本整形外科学会腰痛評価質問票(以下:JOABPEQ),腰部脊柱管狭窄症患者の疾患特異的評価尺度であるチューリヒ跛行質問票(以下:ZCQ)を用いて評価した。歩行テストは,患者に苦痛のない最大スピードで10m歩行テストは直線路を歩行し,30m歩行テストは15mを折り返し地点とし往復歩行し,歩行時間と歩数を計測した。連続歩行テストでは,スピードを問わず,15分を上限とする連続歩行可能距離を計測した。なおSF-36では国民標準値を用いてスコアリング(平均50点,標準偏差10点)した。手術前と手術施行後1年に評価した。手術内容は全例部分腰椎椎弓切除術であった。術後の理学療法はおおむね3,4週間入院期間中のみ実施した。理学療法の内容は,下肢・体幹の筋力増強運動,股関節周囲筋を中心とした静的ストレッチング,バランス練習,基本動作練習,歩行練習,ADL指導であった。また,術後の腰椎コルセットは全例使用していない。統計的処理は手術前と手術後1年の比較にWilcoxonの符号付順位検定を用いて有意水準は5%未満とした。
【結果】
10m歩行時間の術前,術後1年の中央値は,10.0秒,7.8秒,歩数は22.0歩,16.5歩。30m歩行時間の中央値は,31.2秒,23.3秒,歩数は68.0歩,50.0歩。連続歩行距離の中央値は480m,563m。歩行時VASの中央値は61mm,18mm。SF-36の身体機能(PF)の中央値は18点,39点,日常役割機能-身体(RP)は31点,39点,体の痛み(BP)は27点,44点,全体的健康感(GH)は44点,45点,活力(VT)は38点,47点,社会生活機能(SF)は34点,57点,日常役割機能-精神(RE)は41点,46点,心の健康(MH)は45点,50点だった。JOABPEQの中央値は疼痛関連障害では,43点,71点,腰椎機能障害は,67点,79点,歩行機能障害は,25点,71点,社会生活機能障害は,38点,73点,心理的障害は,52点,63点だった。ZCQの中央値は,39点,28点だった。術前と比べて術後1年に有意な改善が認められたのは,10m歩行時間,30m歩数,SF-36の体の痛み(BP),JOABPEQの疼痛関連障害,社会生活障害,ZCQだった。その他の項目では術後1年の時点では有意な改善が認められなかった。
【考察】
腰部脊柱管狭窄症患者は間欠性跛行が代表的症状の1つで,QOLの低下を招き,術後は歩行能力の改善,痛みの改善,QOLの向上が期待される。今回の結果から術前に比べ術後1年の時点では,SF-36の体の痛み(BP)やJOABPEQの疼痛関連障害などでは有意な改善が認められており,痛みに関してはおおむね改善されていることがわかった。しかし,10m歩行時間以外の連続歩行距離などの歩行能力は改善されていないことが明らかとなった。また,痛み以外のQOL項目に関しても,術後1年では改善が乏しいことが示唆された。本研究の限界として,罹病期間を考慮していないこと,対象群が比較的高齢者であったこと,筋力などを評価していないことが挙げられ今後の課題である。
【理学療法学研究としての意義】
腰部脊柱管狭窄症患者の術前と術後1年の比較を行い,術後1年の時点では痛みは改善しているもの,歩行能力や痛み以外のQOLは改善しきれていないことが明らかとなった。本研究は,我々が腰部脊柱管狭窄症患者に対する今後の術後の理学療法を進めていく上での説明や治療の一助になると考えられる。
腰部脊柱管狭窄症では間欠性跛行が特徴的で,歩行能力とQOLが阻害される。腰部脊柱管狭窄症に対する歩行能力とQOLの報告はいくつか見受けられる。しかし,腰部脊柱管狭窄症における手術前後の歩行能力テストと患者立脚型QOL評価を調査した報告は少ない。本報告の目的は,当院における腰部脊柱管狭窄症の術前と術後1年の歩行能力とQOLについて調査することである。
【方法】当院において整形外科医に腰部脊柱管狭窄症と診断され,間欠性跛行を呈し,手術を施行した21例(男性8例,女性13例,平均年齢73.8±7.7歳)を対象とした。歩行困難な症例,評価項目に不備があった症例は対象から除外した。評価項目は,10m歩行テスト,30m歩行テスト,連続歩行テスト,包括的健康関連QOL尺度であるMOS Short-Form 36-Item Health Survey日本語版ver.2(以下:SF-36)と患者立脚型の腰痛疾患特異的評価尺度である日本整形外科学会腰痛評価質問票(以下:JOABPEQ),腰部脊柱管狭窄症患者の疾患特異的評価尺度であるチューリヒ跛行質問票(以下:ZCQ)を用いて評価した。歩行テストは,患者に苦痛のない最大スピードで10m歩行テストは直線路を歩行し,30m歩行テストは15mを折り返し地点とし往復歩行し,歩行時間と歩数を計測した。連続歩行テストでは,スピードを問わず,15分を上限とする連続歩行可能距離を計測した。なおSF-36では国民標準値を用いてスコアリング(平均50点,標準偏差10点)した。手術前と手術施行後1年に評価した。手術内容は全例部分腰椎椎弓切除術であった。術後の理学療法はおおむね3,4週間入院期間中のみ実施した。理学療法の内容は,下肢・体幹の筋力増強運動,股関節周囲筋を中心とした静的ストレッチング,バランス練習,基本動作練習,歩行練習,ADL指導であった。また,術後の腰椎コルセットは全例使用していない。統計的処理は手術前と手術後1年の比較にWilcoxonの符号付順位検定を用いて有意水準は5%未満とした。
【結果】
10m歩行時間の術前,術後1年の中央値は,10.0秒,7.8秒,歩数は22.0歩,16.5歩。30m歩行時間の中央値は,31.2秒,23.3秒,歩数は68.0歩,50.0歩。連続歩行距離の中央値は480m,563m。歩行時VASの中央値は61mm,18mm。SF-36の身体機能(PF)の中央値は18点,39点,日常役割機能-身体(RP)は31点,39点,体の痛み(BP)は27点,44点,全体的健康感(GH)は44点,45点,活力(VT)は38点,47点,社会生活機能(SF)は34点,57点,日常役割機能-精神(RE)は41点,46点,心の健康(MH)は45点,50点だった。JOABPEQの中央値は疼痛関連障害では,43点,71点,腰椎機能障害は,67点,79点,歩行機能障害は,25点,71点,社会生活機能障害は,38点,73点,心理的障害は,52点,63点だった。ZCQの中央値は,39点,28点だった。術前と比べて術後1年に有意な改善が認められたのは,10m歩行時間,30m歩数,SF-36の体の痛み(BP),JOABPEQの疼痛関連障害,社会生活障害,ZCQだった。その他の項目では術後1年の時点では有意な改善が認められなかった。
【考察】
腰部脊柱管狭窄症患者は間欠性跛行が代表的症状の1つで,QOLの低下を招き,術後は歩行能力の改善,痛みの改善,QOLの向上が期待される。今回の結果から術前に比べ術後1年の時点では,SF-36の体の痛み(BP)やJOABPEQの疼痛関連障害などでは有意な改善が認められており,痛みに関してはおおむね改善されていることがわかった。しかし,10m歩行時間以外の連続歩行距離などの歩行能力は改善されていないことが明らかとなった。また,痛み以外のQOL項目に関しても,術後1年では改善が乏しいことが示唆された。本研究の限界として,罹病期間を考慮していないこと,対象群が比較的高齢者であったこと,筋力などを評価していないことが挙げられ今後の課題である。
【理学療法学研究としての意義】
腰部脊柱管狭窄症患者の術前と術後1年の比較を行い,術後1年の時点では痛みは改善しているもの,歩行能力や痛み以外のQOLは改善しきれていないことが明らかとなった。本研究は,我々が腰部脊柱管狭窄症患者に対する今後の術後の理学療法を進めていく上での説明や治療の一助になると考えられる。