[O-0709] 脊柱矢状面アライメントと身体機能因子の関係性の検討
キーワード:脊柱矢状面アライメント, 身体機能, 脊柱背屈テスト
【はじめに,目的】
脊柱矢状面アライメントの正常値は,Staffelらによる体表からの姿勢分類に始まり,1980年頃までは胸椎・腰椎角の健常者平均値が中心であった。その後,sagittal vertical axis(SVA)などを用いた矢状面バランスを経て,2000年以降は骨盤形態を含む脊柱骨盤アライメント評価が増加している。本研究の目的は,一般住民脊柱検診の結果から成人脊柱変形の理学療法評価に用いられる身体機能項目およびQOL項目と,X線計測項目の矢状面バランスの評価として用いられるSVAとの関係を明らかにすることである。
【方法】
対象は,2010年から2014年の間に一般住民脊柱検診に参加した中高齢女性194名(平均年齢65.0±6.8歳)とした。方法は,全脊柱立位X線側面像からSVA(第7頸椎椎体中央と仙骨後上縁を通る鉛直線間の距離),腰椎前弯角,胸椎後弯角,仙骨傾斜角を計測した。身体機能項目は,prone press up test(他動背屈域テスト:腹臥位,下肢・骨盤固定で上肢を使用して体幹を最大背屈させた時の床から胸骨頚切痕までの距離),脊柱背屈テスト(自動背屈域テスト:腹臥位,下肢固定での体幹自動最大背屈時の下顎床間距離),等尺筋力計による体幹筋力(腹筋・背筋),立位歩行体幹前傾角(体表マーカーを第7頸椎と第4腰椎に取り付け,自然立位時と歩行時の体表マーカーのなす角の変化)を測定した。また,腰痛VAS,HRQOL(SF-36下位尺度)も評価した。SVAは,Schwabらの報告に準じて9.5cm以下を良好群,9.5cmより大きい値を不良群と分類し,各計測項目を2群間で比較した。正規性をShapiro Wilks検定,等分散をLevene検定にて確認し,その結果から2群間比較を対応のないt検定,Welch検定,Mann-Whitney U検定にて行った。単変量解析において有意差を認めた項目を独立変数,SVAを従属変数として多変量解析(ロジスティック回帰分析)を行い,その影響度も検討した。多変量解析にて有意に選択された独立変数については,SVAを状態変数としたReceiver Operating Characteristic(ROC)曲線を求めた。得られた曲線によって下方に囲まれる面積(Area Under the Curve:AUC)を求め,AUCが有意であった場合は群分けを最適分類するためのカットオフ値をYouden Indexを参考に算出した。なお,ROC曲線から求めた測定値のカットオフ値は,感度+特異度-1の値が最も高い値とした。
【結果】
2群間の比較では,不良群において年齢が有意に高く(p<0.01),腰椎前弯角および仙骨傾斜角が有意に小さく(p<0.05),脊柱背屈テストは有意に低く(p<0.01),背筋力も有意に低下しており(p<0.05),立位歩行体幹前傾角は有意に大きかった(p<0.05)。腰痛VASおよびSF-36下位尺度においては,いずれも有意差は認められなかった。SVA増加に対するロジスティック回帰分析では,年齢(オッズ比0.91)および脊柱背屈テスト(オッズ比1.09)が有意な予測因子として抽出された。脊柱背屈テストのROC曲線下面積は0.66(p<0.01),カットオフ値は8.5cmと算出され,感度86.1%,特異度44.9%であった。
【考察】
本研究では,中高齢女性におけるSVA増加に対する身体機能の関係性を検証した。さらに,SVA増加との関連が示唆された身体機能については,SVA増加を予測するカットオフ値を算出し,その危険性を有する中高齢女性を把握するための身体機能の水準を提示することを試みた。その結果,SVA増加に伴い,脊柱の土台となる骨盤因子を含む腰仙椎アライメントおよび身体機能の各項目にも変化を認めた。このことは,中高齢女性では背筋力や脊柱背屈可動性を維持し良好な脊柱アライメントを保つことで,各身体機能項目・X線項目も維持され,脊柱変性の予防につながる可能性が示唆された。また,地域在住の中高齢女性を対象とした保健・予防活動においては,将来のSVA増加に陥る危険の高い者を早期発見する必要があり,SVA増加の予測因子として簡便に実施可能な脊柱背屈テストの定期的な評価が有益である可能性が示唆された。今後は縦断的な調査を継続し,カットオフ値を用いて将来のSVA増加の危険度を調査していきたい。
【理学療法学研究としての意義】
脊柱矢状面アライメントを評価するうえでは共通したX線計測項目が多く,なかでも矢状面バランスの指標としてSVAはよく用いられているが,評価・予防の基礎となる臨床データは十分ではない。本研究は,一般住民脊柱検診の参加者で検討した結果であり,理学療法の基礎となる身体機能評価により脊柱矢状面アライメントの変性変化を考えるうえで意義のある示唆を含むものと考える。
脊柱矢状面アライメントの正常値は,Staffelらによる体表からの姿勢分類に始まり,1980年頃までは胸椎・腰椎角の健常者平均値が中心であった。その後,sagittal vertical axis(SVA)などを用いた矢状面バランスを経て,2000年以降は骨盤形態を含む脊柱骨盤アライメント評価が増加している。本研究の目的は,一般住民脊柱検診の結果から成人脊柱変形の理学療法評価に用いられる身体機能項目およびQOL項目と,X線計測項目の矢状面バランスの評価として用いられるSVAとの関係を明らかにすることである。
【方法】
対象は,2010年から2014年の間に一般住民脊柱検診に参加した中高齢女性194名(平均年齢65.0±6.8歳)とした。方法は,全脊柱立位X線側面像からSVA(第7頸椎椎体中央と仙骨後上縁を通る鉛直線間の距離),腰椎前弯角,胸椎後弯角,仙骨傾斜角を計測した。身体機能項目は,prone press up test(他動背屈域テスト:腹臥位,下肢・骨盤固定で上肢を使用して体幹を最大背屈させた時の床から胸骨頚切痕までの距離),脊柱背屈テスト(自動背屈域テスト:腹臥位,下肢固定での体幹自動最大背屈時の下顎床間距離),等尺筋力計による体幹筋力(腹筋・背筋),立位歩行体幹前傾角(体表マーカーを第7頸椎と第4腰椎に取り付け,自然立位時と歩行時の体表マーカーのなす角の変化)を測定した。また,腰痛VAS,HRQOL(SF-36下位尺度)も評価した。SVAは,Schwabらの報告に準じて9.5cm以下を良好群,9.5cmより大きい値を不良群と分類し,各計測項目を2群間で比較した。正規性をShapiro Wilks検定,等分散をLevene検定にて確認し,その結果から2群間比較を対応のないt検定,Welch検定,Mann-Whitney U検定にて行った。単変量解析において有意差を認めた項目を独立変数,SVAを従属変数として多変量解析(ロジスティック回帰分析)を行い,その影響度も検討した。多変量解析にて有意に選択された独立変数については,SVAを状態変数としたReceiver Operating Characteristic(ROC)曲線を求めた。得られた曲線によって下方に囲まれる面積(Area Under the Curve:AUC)を求め,AUCが有意であった場合は群分けを最適分類するためのカットオフ値をYouden Indexを参考に算出した。なお,ROC曲線から求めた測定値のカットオフ値は,感度+特異度-1の値が最も高い値とした。
【結果】
2群間の比較では,不良群において年齢が有意に高く(p<0.01),腰椎前弯角および仙骨傾斜角が有意に小さく(p<0.05),脊柱背屈テストは有意に低く(p<0.01),背筋力も有意に低下しており(p<0.05),立位歩行体幹前傾角は有意に大きかった(p<0.05)。腰痛VASおよびSF-36下位尺度においては,いずれも有意差は認められなかった。SVA増加に対するロジスティック回帰分析では,年齢(オッズ比0.91)および脊柱背屈テスト(オッズ比1.09)が有意な予測因子として抽出された。脊柱背屈テストのROC曲線下面積は0.66(p<0.01),カットオフ値は8.5cmと算出され,感度86.1%,特異度44.9%であった。
【考察】
本研究では,中高齢女性におけるSVA増加に対する身体機能の関係性を検証した。さらに,SVA増加との関連が示唆された身体機能については,SVA増加を予測するカットオフ値を算出し,その危険性を有する中高齢女性を把握するための身体機能の水準を提示することを試みた。その結果,SVA増加に伴い,脊柱の土台となる骨盤因子を含む腰仙椎アライメントおよび身体機能の各項目にも変化を認めた。このことは,中高齢女性では背筋力や脊柱背屈可動性を維持し良好な脊柱アライメントを保つことで,各身体機能項目・X線項目も維持され,脊柱変性の予防につながる可能性が示唆された。また,地域在住の中高齢女性を対象とした保健・予防活動においては,将来のSVA増加に陥る危険の高い者を早期発見する必要があり,SVA増加の予測因子として簡便に実施可能な脊柱背屈テストの定期的な評価が有益である可能性が示唆された。今後は縦断的な調査を継続し,カットオフ値を用いて将来のSVA増加の危険度を調査していきたい。
【理学療法学研究としての意義】
脊柱矢状面アライメントを評価するうえでは共通したX線計測項目が多く,なかでも矢状面バランスの指標としてSVAはよく用いられているが,評価・予防の基礎となる臨床データは十分ではない。本研究は,一般住民脊柱検診の参加者で検討した結果であり,理学療法の基礎となる身体機能評価により脊柱矢状面アライメントの変性変化を考えるうえで意義のある示唆を含むものと考える。