第50回日本理学療法学術大会

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口述

セレクション 口述16

予防理学療法

Sun. Jun 7, 2015 10:50 AM - 11:50 AM 第5会場 (ホールB5)

座長:大渕修一(東京都老人総合研究所 在宅療養支援)

[O-0716] MCIと転倒との関係

島田裕之, 牧迫飛雄馬, 土井剛彦, 李相侖, 堤本広大, 中窪翔, 李成喆, 堀田亮, 原田和弘, 裴成琉, 原田健次 (国立長寿医療研究センター)

Keywords:転倒, 軽度認知障害, 高齢者

【はじめに,目的】
高齢者の転倒事故は頻繁に生じ,地域在住高齢者の15~20%程度が少なくとも年間1回は転倒を経験している。転倒によって大腿骨頚部骨折を生じると,不可逆的な機能障害を発生する高齢者が多く,転倒・骨折が要介護状態の主要な原因となっている。転倒を予防するために,多くの危険因子が同定され予防活動が実施されてきたが,危険因子の中でも認知機能低下や認知症は,転倒に強く影響し,認知症者の転倒予防策は未だ十分には明らかとされていない。
認知機能が低下した状態である軽度認知障害(mild cognitive impairment:MCI)を有する高齢者を対象とした先行研究では,非健忘型MCIと転倒との関連が明らかにされたが,健忘型MCIとの関連は明確ではなかった。また,MCIのサブタイプである単一領域と複数領域の違いについては検討されていない。本研究においては,MCI高齢者を健忘型,非健忘型,単一領域,複数領域から4つのサブタイプに分類し,どのタイプのMCI高齢者が転倒の危険性を有するかを検討した。
【方法】
対象者は,国立長寿医療研究センター老年症候群研究プロジェクトにおいて調査を受けた10885名のうち,脳血管疾患,認知症,パーキンソン病,うつ病の既往を持つ者,要介護認定者,調査結果に欠損があった3173名を除く7712名(平均年齢73.2歳)を分析対象とした。
調査項目は,過去1年間の転倒回数,年齢,性別と服薬(4種類以上),心疾患,呼吸器疾患,変形性膝関節症の有無,四肢骨格筋指数,Short Physical Performance Battery,座位や寝転んでいる時間(不活動時間),およびMCI判定のための検査を実施した。MCI判定のための客観的な認知機能検査は,National Center for Geriatrics and Gerontology-Functional Assessment Toolを用いて,5歳年齢別の平均値から1.5標準偏差より低下が認められた場合を認知障害ありと判定した。解析は,多重ロジスティック回帰分析を用いて,MCIと転倒との関連を検討した。調査項目をすべて独立変数に強制投入するモデルを用いて分析を行った。
【結果】
対象者全体の年間1回以上の転倒率は17.4%,2回以上の転倒率は5.5%であった。MCIと判定された高齢者は1800名となり対象者の23.3%を占めた。認知的に正常群,健忘型MCI単一領域群,健忘型MCI複数領域群,非健忘型MCI単一領域群,非健忘型MCI複数領域群における1回以上の転倒率は,それぞれ16.7%,20.1%,22.6%,17.5%,19.9%であり,2回以上の転倒率は4.9%,7.7%,11.1%,5.2%,8.3%であった。多重ロジスティック回帰分析の結果,年間1回以上の転倒においては,認知的正常群と比べ健忘型MCI複数領域群が高い危険性を有していた(オッズ比1.4,95%信頼区間1.1~1.8,p=0.017)。また,2回以上の転倒とは,認知的正常群と比べ健忘型MCI単一領域群(オッズ比1.5,95%信頼区間1.1~2.1,p=0.007),健忘型MCI複数領域群(オッズ比2.3,95%信頼区間1.6~3.3,p<0.001),非健忘型MCI複数領域群(オッズ比1.8,95%信頼区間1.0~3.0,p=0.044)において高いオッズが認められた。
【考察】
本研究の結果から,非健忘型MCIに加え,健忘型MCIにおいても転倒の危険が向上する可能性が示された。そのため,転倒予防対策を実施する際には,MCI高齢者に対して積極的に参加を促す必要があるだろう。ただし,本研究は横断調査であるため,今後これらの対象者の転倒状況を前向きに調査し,MCIが転倒発生と関連するかを明らかにする必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
介護予防のために転倒の予防は重要な課題であり,地域保健活動に携わる理学療法士にとって,転倒の危険因子を明らかにすることは,具体的な予防戦略を検討する上で有益な情報になる。MCIと転倒に関する知見は,未だ十分に明らかにされているとはいえず,本研究の知見は予防理学療法において重要な知見になり得ると考えられた。