第50回日本理学療法学術大会

Presentation information

口述

セレクション 口述16

予防理学療法

Sun. Jun 7, 2015 10:50 AM - 11:50 AM 第5会場 (ホールB5)

座長:大渕修一(東京都老人総合研究所 在宅療養支援)

[O-0717] 地域在住高齢者に適応すべくShort Physical Performance Batteryの再考

要介護の新規発生の予測因子となり得るか

牧迫飛雄馬1, 島田裕之1, 土井剛彦1,2, 堤本広大1, 堀田亮1, 中窪翔1, 李相侖1, 李成喆1, 原田和弘1, 裵成琉1, 原田健次1, 鈴木隆雄1 (1.国立長寿医療研究センター, 2.日本学術振興会)

Keywords:下肢機能, 要介護, 評価

【はじめに,目的】高齢期におけるバランス,下肢筋力,歩行速度の低下は,日常生活に支障をきたす重要な身体的要因となる。これら下肢機能を包括的に評価する指標として,Guralnikら(1994)がShort Physical Performance Battery(SPPB)を報告し,SPPBは施設入所や死亡率と関連することが示されている。しかし,わが国でのSPPBの活用は積極的な状況ではなく,とくに地域在住高齢者を対象とした予防理学療法の領域では適応し難い。その理由に原版SPPBの得点化では多くの対象者が満点であり,下肢機能の差異を評価するに至らないことが挙げられる。本研究ではSPPBの地域在住高齢者での適応を可能とすべく得点算出方法を修正して,将来の要介護の新規発生との関連を検証した。下肢機能の低下を捉える指標として,SPBBの有用性を提示することが本研究の意義となる。
【方法】2011年度に実施したObu Study of Health Promotion for Elderlyに参加した地域在住高齢者5104名のうち,ベースラインでパーキンソン病・脳卒中の既往者,要介護認定者,Mini-Mental State Examination(MMSE)18点未満の者,SPPBの欠損者,追跡期間中の死亡および市外転出者を除く4329名(平均年齢71.8歳,女性2235名)を対象とした。ベースラインで立位バランス,歩行速度,椅子立ち上がりテストが含まれるSPPBを評価し,Guralnikらの原版に準じて0~12点で得点化(各構成要素は0~4点)した。また,本研究の対象者の測定値を基に得点算出方法を修正し,SPPB community-based score(SPPB-com)として再得点化(0~10点)した。再得点化の作業において,歩行速度と椅子立ち上がりテストは今回の対象者の測定値から四分位を求めて基準とし(不可は0点,四分位の下位から各々1~4点),バランスはタンデム立位10秒以上で2点,0~10秒で1点,不可を0点とした。ベースライン以降,1ヵ月ごとに行政の介護保険担当課でのデータベースと照合して新規の要介護認定情報を取得し,2年間の追跡期間を設けた。追跡中で新規に要介護を発生した者と発生していない者でベースラインの測定値を比較した。ベースラインのSPPB-comから3群(4点以下,5~7点,8点以上)に分類し,各群の要介護発生率をKaplan-Meier法で算出し,Log-rank検定により要介護発生率曲線の群間差を検証した。また,要介護発生に影響する要因を検討するため,年齢,性別,各疾患の有無,服薬数,体格指数,Geriatrics Depression Scale,MMSEを独立変数としたCox比例ハザード回帰分析を用いた。危険率5%未満を有意とした。
【結果】追跡2年間で167名(3.9%)が新規に要介護を発生した。新規の要介護発生者では,年齢が有意に高く,女性が多かった(p<.05)。全対象者における原版SPPBは平均11.6±1.0点で78.7%(3408名)が12点満点となり,SPPB-comは平均6.9±2.0点で10点満点が10.5%(456名)であった。新規の要介護発生者では,ベースラインの原版SPPBおよびSPPB-comともに未発生者と比較して有意に低い値であった(p<.01)。SPPB-comを3群に分類して新規の要介護発生率を調べると,4点以下の群で最も高く(12.8%),いずれの群間にも有意な要介護発生率の差異を認めた(p<.01)。Cox比例ハザード回帰分析の結果,SPPB-com,年齢,性別(女性),MMSEが新規要介護の発生と有意な関連を認め,要介護認定の新規発生に対するハザード比は,SPPB-comが0.77(95%信頼区間[CI]0.70―0.84),年齢が1.11(95%CI 1.08―1.14),性別(女性)が1.52(95%CI 1.11―2.09),MMSEが0.89(95%CI 0.84―0.94)であった(すべてp<.01)。
【考察】要介護認定を受けていない地域在住高齢者の約80%で原版SPPBが満点であった。一方,SPPB-comでは満点が約10%であり,SPPB-comの1点の増加で要介護の発生リスクが約23%軽減することが示唆された。これらの結果より,地域在住高齢者の幅広い層での下肢機能の評価指標としてSPBB-comの有用が期待でき,さらに要介護の新規発生のリスクを見出すためにも有益な指標となり得ることが確認された。また,SPPB-comでは原版SPPBの方法を変更することなく算出することが可能であるため,評価の対象によって得点化を変更して適応できることも利点のひとつと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】SPPB-comは地域在住高齢者のバランス,下肢筋力,歩行を包括的に評価する指標として,要介護の新規発生と明らかな関連性を有しており,地域での要介護発生予防を目的とした一次予防の推進を目指す予防理学療法研究の発展に意義のある結果であると考える。