第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

セレクション 口述16

予防理学療法

2015年6月7日(日) 10:50 〜 11:50 第5会場 (ホールB5)

座長:大渕修一(東京都老人総合研究所 在宅療養支援)

[O-0718] 歩行速度低下とうつ傾向の組み合わせによって将来の要介護発生リスクが増大する

―大規模コホートによる33か月間の前向き調査―

堤本広大1,2, 土井剛彦1,3, 牧迫飛雄馬1, 堀田亮1, 中窪翔1,2, 李相侖1, 李成喆1, 裵成琉1, 原田和弘1, 原田健次1, 島田裕之1 (1.国立長寿医療研究センター生活機能賦活研究部, 2.神戸大学大学院保健学研究科, 3.日本学術振興会特別研究員)

キーワード:うつ状態, 介護予防, 歩行速度

【はじめに,目的】
高齢期における歩行速度の低下は将来の障害発生・要介護状態のリスクや死亡率の上昇につながることが示唆されている。また,高齢期におけるうつ傾向は,要介護の発生するリスクを増大させる要因のひとつとなることが報告されている。身体機能とうつ状態は相互関係を有しているため,歩行速度低下とうつ傾向の両者を持ち合わせている高齢者は,要介護の発生するリスクが一層に高い集団であると考えられる。しかし,歩行速度とうつ傾向が組み合わされた場合の要介護状態の発生リスクに関しては未だ明らかにされていない。そこで,大規模縦断データを用い,歩行速度低下,うつ傾向をそれぞれ単独で有している場合と組み合わせている場合において,介護認定発生までの期間が異なるのか,また潜在的な交絡因子で調整した上で,歩行速度低下・うつ傾向と組み合わされた場合の予後予測の違いを検討する。
【方法】
2011年8月から2012年2月にかけて実施したObu Study of Health Promotion for Elderlyに参加した5,104名(平均72.3歳)の高齢者から除外基準に該当しない4038名を研究対象とした(除外基準:データ欠損,ベースラインでの要介護認定者,脳血管疾患・パーキンソン病・アルツハイマー病の既往,全般的認知機能の低下(MMSE<20))。ベースラインにおける調査では,一般情報(年齢,性別,教育歴),医学的情報(慢性疾患の有無,服薬数,疼痛の有無),認知機能,身体活動量,睡眠時間を聴取した。歩行速度は,6.4m(加減速路2m)の歩行路にて通常歩行を実施・計測し,1.0m/秒未満を歩行速度低下と定義した。うつ傾向はGeriatric Depression Scale-15を使用して評価し,6点以上のものをうつ傾向ありとして分類した。歩行速度低下の有無とうつ傾向の有無で4群に群分けした(C1:歩行速度低下無×うつ傾向無n=3033,C2:歩行速度低下無×うつ傾向有n=399,C3:歩行速度低下有×うつ傾向無n=449,C4:歩行速度低下有×うつ傾向有n=157)。縦断調査については,最長追跡期間は33か月間で新規介護認定の発生,およびデータ打ち切り(死亡,または市外転出)を調査した。まず,各群におけるベースラインの評価の値を従属変数とした分散分析およびカイ二乗検定にて検討した。その後,各群において要介護認定の新規発生までの期間に群間に差が生じるかどうかをLog-rankテストで検定した。最後に,対象者属性および認知機能,身体活動量,睡眠時間を調整変数としたCox比例ハザードで,歩行速度低下とうつ傾向が要介護認定の新規発生にどの程度の影響を与えているのかを解析を行った。なお,有意水準は5%未満とした。
【結果】
調査期間の中央値は31か月(四分位範囲29か月-32か月)で,4,038名の対象者の内,220名(5.4%)が新規に介護認定を受けた。各群の介護認定発生者数は,C1:n=86(2.8%),C2:n=24(6.0%),C3:n=72(16.0%),C4:n=38(24.2%)であり,性別以外のベースラインの全変数において有意な群間差を認めた。Log rankテストでは,C1と比較した際に各群において要介護新規発生率に統計学的有意差が示された(C2,p<0.01;C3,p<0.05;C4,p<0.01)。要介護認定の発生予後に関しては,C1を参照とした各群のハザード比は有意に高く,C2は1.6倍(95%CI 1.0-2.5),C3は2.4倍(95%CI 1.7-3.5),特にC4については3.1倍(95%CI 2.0-4.7)もの値を示していた。
【考察】
高齢期における歩行速度低下およびうつ傾向を有する高齢者では要介護の新規発生リスクが上昇することに加え,これらを併存した状態は,より一層に要介護発生のリスクが上昇することが示唆された。先行研究では,歩行速度低下およびうつ傾向は,その後の障害の発生の予後因子として報告されていることに加え,歩行速度低下とうつ傾向は相互関係を有していると報告がされている。本研究においても,それらの研究結果を支持したうえ,新たな知見として歩行速度低下とうつ傾向の相互関係による影響が生じたことで要介護状態のリスク上昇へとつながったことが推察された。
【理学療法学研究としての意義】
平成27年度より,介護保険の大きな制度改正が控えており,今まで以上に効率的な介護予防に対する取り組みが重要となってくる。本研究によって歩行速度低下とうつ傾向の組み合わせによる介護認定発生のリスクが上昇することが示唆されたことから,このようなリスクを抱えた対象者を層別化した介入の提案が可能となる。